上 下
45 / 87
第二章

第45話:緑化7とハルヴァ

しおりを挟む
「驚いたな、本当に塩辛い雑草だぞ」

 父上がとても驚いておられます。
 それはそうでしょう、鹹水を汲み揚げる周囲の土地で成長した、タンブルウィードことオカヒジキなのです。
 
 鹹水を汲み揚げる周囲の土地なんて、塩分が強すぎて植物が育たないのが普通なのですが、驚く事に育ってくれました。

 育ってくれただけでなく、土地の塩分を吸収してくれているのです。
 鹹水育ちオカヒジキが飼料に使えたら、別に塩を与えることなく家畜を育てられるようになります。

「このオカヒジキの根を台にして、トマトを接ぎ木してみようと思います」

「もう十分美味しく実ってくれたと言っていなかったか?」

 父上の言われている通りです。
 基本雨が降らない東竜山脈三〇〇〇メートル付近でトマトを作ると、こちらで水分量が調節できるので、小ぶりですがとても甘いトマトが育ちます。

 更に塩分濃度が高い土壌で育てると、水分の吸収が少なくない、糖度八パーセント以上の果物のように甘いトマトが育つのです。

「はい、普通にとても美味しいトマトとして育ってくれました。
 塩分濃度の高い畑でも育ってくれるのが確かめられました。
 ですが、幾ら塩分に強いと言っても限界があります。
 オカヒジキと併用しなくてもいいようにしたいのです」

 オカヒジキも十分有用な、とても役に立ってくれる肥料です。
 オカヒジキのお陰で塩分が高すぎて耕作に使えなかった土地が、豊かな牧草地や放牧地になってくれることでしょう。

「ふむ、果樹で成功したように、野菜も接ぎ木で強くする気なのだな?」

「はい、成功するか失敗するかは分かりませんが、やってみたいのです」

「いちいち俺に許可を貰いに来なくても良い。
 ディドが次期領主であり、農業の責任者だ。
 思うようにやればいい」

「ありがとうございます。
 実るまで一気に育て。
 地中の栄養素を取り込み、降り注ぐ陽光を最大限利用しろ。
 ミネラルと糖分を実に蓄えろ。
 塩分は葉に蓄えて地中の塩分を除去しろ。
 必要な魔力は全て与えるから、限界まで成長しろ。
 フォースィング・カルチヴェイション・オブ・トマト」

 俺は父上の許可を受けて品種改良に励みました。
 必要な魔力を全て与えると思い、乞い願ったからか、今回の成功率も100%で、とんでもなく美味しいトマトが実りました。

 これで畑の塩分除去にオカヒジキを使わなくてすみます。
 繁殖力が強いオカヒジキは、他の作物を育てる時に雑草になってしまうので、できれば荒野だけで使いたかったのです。

 塩分除去トマトという新品種が創り出せたことで、我が家の農業が劇的に変化したのです。

 既に成功していた農業革命ですが、更に一歩も二歩の前に進みました。
 将来起こったであろう大問題を、起こる前に摘み取る事ができました。
 これまで行っていた領地の農業は

1年目春:小麦
   秋:クローバー(刈り取って畑にすき込む)
2年目春:クローバー(家畜の放牧)
   秋:小麦
3年目春:大麦
   秋:蕪

 を基本としていました。
 一般的に知られているノーフォーク農法は

1年目春:小麦
   秋:蕪
2年目春:大麦
   秋:クローバー(刈り取って畑にすき込む)

 なのですが、土地があまりにもやせ過ぎている我が領地では、クローバーの連作が必要だったのです。

 地竜森林の腐葉土を運んできて肥料にできるようになったので、その気になれば畑を休ませる事なく耕作する事ができます。

 ですが、今の我が家には大量の家畜がいます。
 特に巨体に合わせて大喰らいの中型草食亜竜がいるのです。

 今は俺のゲートがあるから地竜森林を活用できますが、活用できなくなった時の事をを考えて、農業技術を開発しなければいけないのです。

1年目春:クローバー(家畜の放牧)
   秋:クローバー(刈り取って乾燥させ焼いてから畑にすき込む)
2年目春:小麦(根などを掘り起こして乾燥させてから焼いて畑にすき込む)
   秋:大麦(根などを掘り起こして乾燥させてから焼いて畑にすき込む)
3年目春:蕪
   秋:トマト栽培(根などを掘り起こして乾燥させてから焼いて畑にすき込む)

 この耕作方法だと塩分除去のオカヒジキを使わなくてすみます。
 農地を豊かにするクローバーをオカヒジキにしなくてすみます。

 以前の我が家なら、少しでも穀物を手に入れようとしたでしょう。
 ですが今なら、穀物を減らして食卓を豊かにできます。
 耕作地の外に自生するオカヒジキを家畜の飼料に利用できます。

 増えた家畜のお陰で、乳製品、肉、毛織物が手に入るようになりました。
 カロリーも栄養も、穀物やジビエ以外から手に入るようになったのです。

 特に劇的に変わったのは、野菜と果物でしょうか。
 これまでは他領から買うか、地竜森林に自生している果物や野草を手に入れるしか方法がなかったのに、領内の畑で作れるようになったのです。

 魔力に任せて強制促成栽培したので、本当なら本格的に収穫できるまで十年以上かかるような果樹が、今年から収穫できているのです。

「フェルディナンド殿下、お菓子を作って頂けないでしょうか?」

 すっかりお行儀がよくなったファニ姉上が、護衛騎士に守られながら俺が新品種研究をしている畑にやってこられました。

「母上や姉上達も楽しみにしておられます」

 どこで俺が新しい菓子作りレシピを手に入れたのを聞かれたのでしょうか?
 行商人のピエトロが、デーツを使って作るお菓子のレシピを売ってくれたのです。

 王侯貴族にとって、客をもてなせる洗練された美味しいお菓子は、社交で有利に立つための切り札なのです。
 大金を積んでも手に入れなければいけない重要な知識と技術なのです。

 侯王となった以上、それに相応しいもてなしができなければいけません。
 食事に関しては、亜竜肉という他者の追随を許さない圧倒的な手段があります。
 デザートでさえ負けなければ圧勝できるのです。
 
 だからこそ、信頼できる出入りの商人にデザートのレシピを依頼したのです。
 その中で一番早く、最も欲しいレシピを持って来てくれたのがピエトロです。

「分かりました、直ぐに戻りますから、ファニ姉上は先に戻っていてください」

 最近は素直になられたファニ姉上が文句も言わずに帰ってくれました。
 悪態一つ吐かれなくなったファニ姉上に、少々寂しさを感じてしまいます。

 急いで残っていた予定を終わらせて屋敷に戻りました。
 料理人に声をかけて、俺が試作するのを覚えてもらいます。

 彼らに任せた方が確実に美味しいデザートを作ってくれるのですが、恐ろしく貴重で高価な砂糖や食材を使うので、俺が責任者なっておかないと、失敗した時に彼らが困るのです。

 用意した材料は
 メイプルシロップ:4カップ
 香草      :1つまみ
 菜種油     :大さじ5
 小麦粉     :1カップ
 干果物     :好きなだけ(デーツ・桃・柿・葡萄・李・蜜柑など)

1:菜種油を入れてから小麦粉を咥えます。
2:焦げ付かせないように常に混ぜます。
3:小麦粉が狐色になるまで忍耐強く炒ります。
4:鍋にほんの少しずつメイプルシロップを加えて混ぜて行きます。
5:プディング状になるまでに焦がさないように煮詰めます。
6:プディング状になったら火を止めて休ませます。
7:飾り用の干果物を沢山乗せて完成です。
8:大きく作るのなら、中に干果物やナッツを加えます。

「おいしい、とても甘くて美味しいわ」
「硬く焼いたお菓子も良いですが、柔らかいお菓子も格別ですね」
「ふむ、俺はもう少し甘くない方が好きだな」
「……」

「甘さの加減は人それぞれですから、父上にはナッツを用意しましょうか?
 それともドライフルーツをお持ちしましょうか?」

「そうだな、ドライフルーツを少しとナッツを多めにくれ」

「分かりました、用意してください」

 給仕係に命知ると、優雅なのに早い足取りで取りに行ってくれました。
 イングルウッド侯国 の、今は亡きヴェーン侯王家に仕えていただけあって、我が家で働いていた給仕係とは比較にもなりません。

 ヴェーン侯王家を叩き潰し、半数以上のイングルウッド商家を潰したので、仕えていた者達が職を失ってしまいました。

 悪質な商売をしていた営業職以外は、ほぼ全員我が家で召し抱えました。
 そのお陰で、侯王家に相応しい陣容が整ってきました。

 毒殺が怖いので、料理人だけは直接雇う事ができませんでした。
 今は鉱山村の食堂で働いてもらっています。
 もう少し行動を追って、信用できると分かってから召し抱える予定です。
 
 商家に仕えていた料理人を召し抱えられたら、我が家の料理も劇的に改善できると思うのですが、どうでしょうか?

★★★★★★お願いです。

6月1日から始まった第9回歴史・時代小説大賞に「山田奉行所の支配組頭と伊勢講の御師宿檜垣屋」という作品で参加しています。

https://www.alphapolis.co.jp/novel/672198375/142732328

読者賞を狙いたいので、試し読みとお気に入り登録をお願いします。

できましたら、投票もして頂けたらありがたいです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神に愛されたちびっ子賢者はモフモフと共に魔法学院へ通うようです

ケンノジ
ファンタジー
魔法のすべてを極めた男がいた。 賢者と呼ばれた彼は病床で、「次の人生は自分の技術や知識を魔法界に広め世界に貢献しよう」と決め、死に際に魔法を使い転生する。 神すらも認める存在である賢者に、神はその志の助けとなるよう特別な力を与えた。 能力がさらに強化された賢者は、五〇〇年後の世界で新しい人生をスタートさせる。 だが現代は、貴族の血筋でなければ魔法は使えないことになっていた。 その常識を否定するため、自分の技術や知識を広めるために、たった5歳の村人の子供は王立魔法学院に入学する。 ところが、魔法技術は発展するどころか退化しており、当時では常識とされる知識すらなく 逆に非常識扱いされる賢者は、劣等生と認定されてしまう。 だが他人の評価をまったく気にしない。 気ままに力を行使し、規格外の魔法能力で周囲を圧倒するのだった。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

妹のせいで婚約破棄になりました。が、今や妹は金をせびり、元婚約者が復縁を迫ります。

百谷シカ
恋愛
妹イアサントは王子と婚約している身でありながら騎士と駆け落ちした。 おかげでドルイユ伯爵家は王侯貴族から無視され、孤立無援。 「ふしだらで浅はかな血筋の女など、息子に相応しくない!」 姉の私も煽りをうけ、ルベーグ伯爵家から婚約破棄を言い渡された。 愛するジェルマンは駆け落ちしようと言ってくれた。 でも、妹の不祥事があった後で、私まで駆け落ちなんてできない。 「ずっと愛しているよ、バルバラ。君と結ばれないなら僕は……!」 祖父母と両親を相次いで亡くし、遺された私は爵位を継いだ。 若い女伯爵の統治する没落寸前のドルイユを救ってくれたのは、 私が冤罪から助けた貿易商の青年カジミール・デュモン。 「あなたは命の恩人です。俺は一生、あなたの犬ですよ」 時は経ち、大商人となったデュモンと私は美しい友情を築いていた。 海の交易権を握ったドルイユ伯爵家は、再び社交界に返り咲いた。 そして、婚期を逃したはずの私に、求婚が舞い込んだ。 「強く美しく気高いレディ・ドルイユ。私の妻になってほしい」 ラファラン伯爵オーブリー・ルノー。 彼の求婚以来、デュモンの様子が少しおかしい。 そんな折、手紙が届いた。 今ではルベーグ伯爵となった元婚約者、ジェルマン・ジリベールから。 「会いたい、ですって……?」 ======================================= (他「エブリスタ」様に投稿)

『下品注意』URAGAWAのOMOTE。

MEIRO
大衆娯楽
※タグを見てのとおり、下品な描写があるので、注意して読んでいただけたらと思います。──法外な金を扱う賭け事が、行われているらしい。あるところに、そんな噂が流れている洋館があった。だというのに、その洋館に足を運ぶ者といえば、そのほとんどが、なぜかお金に困ったものたちだと囁かれているだから、不穏な話である。噂の真偽はさておき、それが本当だったとして、そういった者たちはいったい、どのような末路をたどっていくのだろうか。それは、館を訪れたものしか知らないのであった。

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

処理中です...