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第二章

第40話:従属爵位と国内爵位

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 カルプルニウス連邦が雪に閉じこめられる頃、俺は亜竜軍団と新たに国民となった者達を、本領地に連れて戻りました。

 亜竜は、爬虫類とは違って恒温動物でした。
 だからと言って、寒い所が好きでもなければ、寒さに強い訳でもありません。
 生まれ育った場所が一番暮らしやすいのです。

 亜竜達は、調教もかねて地竜森林で狩りをさせました。
 騎士や御者は、一生懸命亜竜を操る技を身に付けようとしました。

 餓死寸前で逃げてきた民は、必死で役に立つ事をアピールしようと、倒れるまで力仕事に励んでいました。

 頑張る人達を見捨てるようなマクネイア家ではありません。
 お腹一杯食べさせてあげました。
 ただ、彼らの身分をどうするかで少しだけもめました。
 
 奴隷なら、城や館の一室に押し込んでおけばいいです。
 ですが一人前の農民として扱うのなら、自給自足してもらわなければいけません。
 衣食住を自分で賄えないといけません。

「君達は奴隷ではない、一人前の農民として扱います。
 ですが、今の貴方達は何も持っていません。
 家はもちろん、服と言えるほどのものも身に付けていません。
 食料を買うお金さえ持っていません」

「「「「「……」」」」」

「だから君達をこれまで通り、畑を失った農民として力仕事に雇ってあげます。
 倒れるほどの重労働をさせますが、その代わり、お腹一杯食べさせてあげます。 
 雑魚寝ですが、城の一角に寝る場所も与えてあげます。
 日当から食費と住居費は差し引きしますが、少しは貯金ができるようにしてあげますから、それを貯めて徐々に衣食住を整え、畑を買えるようになりなさい」

 俺の言葉を聞いて希望を見出す者はいませんでした。
 俺が嘘を言っていると思っているのでしょう。
 噂に聞いている多くの侯国政治を考えれば、当然の事でしょう。

 俺を信じない貧民のために使う時間は限られています。
 侯王として最低限の時間しか使えません。

 俺を信じようと信じまいと、やる事は同じです。
 仁道的な統治を行うのですから、数年数十年後に信じてもらえればいいのです。

 それに、少しでも時間があるのなら、農作業に使いたいのです。
 特に研究と品種改良に時間と魔力を使いたいのです。

「ディド、御苦労だったな。
 私にまで侯王位を渡してくれなくてもよかったのだぞ。
 息子の手柄を横取りするようで胸が痛い」

 八の村に居られる父上達に挨拶に行くと、開口一番に言われてしまいました。
 父上らしいですが、俺にも息子としての想いがあります。

 それに侯王位を全て渡したわけでもありません。
 二つあるうちの一つを渡しただけです。

「父上の後継者は俺ですから、いずれ継承させていただけばいいだけの事です。
 それよりも、父上を下に見る驕り高ぶった子供だと言われる方が嫌です。
 俺の事を想って、素直に受けてください」

「素直に受けるも何も、もう多くの侯国で承認された地位を否定もできない。
 ただ、自力で手に入れてもいない爵位は、イングルウッド侯王位だけで十分だ。
 他の爵位はディドの物にしろ。
 これだけは絶対に譲れないぞ」

 父上が頑強に言い張られるので、ヒューズ侯爵位を父上に持ち続けていただく事は、諦めるしかありませんでした。

 同時に、国王を脅迫してヒューズ侯爵位を侯王位にする必要が無くなりました。
 ゲヌキウス王に少しでも知恵があるなら、こちらが要求する前にヒューズ侯爵位を侯王位にするか、マクネイア伯王位をマクネイア侯王位にするでしょう。

 改めてゲヌキウス王に正使を送り、爵位の入れ替えを認めさせました。
 俺の暴れっぷりを知っているゲヌキウス王は、何も言わず認めてくれました。

 父上は、ゲヌキウス王国ではマクネイア伯王位を持ち、カルプルニウス連邦ではイングルウッド侯王位を持っています。

 これで何所の国に行っても父上はイングルウッド侯王として扱われます。
 小とはいえ一国の君主として扱われるのです。

 俺も同じで、どこの国に行ってもヘレンズ侯王として扱われます。
 同時に、ゲヌキウス王国のヒューズ侯爵として扱われます。

 ブレイン男爵とマーガデール男爵はおまけ、付け足しのようなモノです。
 付け足しの爵位など持っていても何の役にも立ちません。
 従属爵位と言える侯爵位と男爵位ですが、その気になれば活用方法もあります。

 王侯貴族が仕掛ける罠の中には、貴族しか入れない場所に誘い込み、殺してしまうと言う手段があります。

 準男爵や騎士といった士族の地位を持つ家臣を締め出す事で、狙った相手を確実に仕留める陰湿な罠です。

 それを防ぐ方法が無い訳ではありません。
 心から信用できる家臣に爵位を貸し与えればいいのです。

 配偶者は爵位保持者と同格という旧教徒の常識があります。
 子女は爵位保持者の一階級下の爵位持ちとして扱うと言う不文律があります。

 その考えや不文律を利用して、信用できる者を養子に迎えればいいと言う人がいるかもしれませんが、それは許されないのです。

 爵位保持者の子供でも、正式な婚姻相手の子供でなかったら、神の祝福が得られないと言うのが旧教徒の考えなのです。
 庶子には家を継ぐ資格がないのです。

 そこまで厳密な旧教徒王侯貴族の血統主義は、絶対に養子を認めないのです。
 嫡出子以外に爵位を与えるには、従属爵位を貸し与えるしかないのです。

「フラヴィオ、何かの場合に爵位が必要になるかもしれない。
 ヒューズ侯爵位を貸すから活用してくれ」

「冗談はお止めください、フェルディナンド殿下。
 私はマクネイア家の家宰です。
 領地から離れるようなことはありませんから、爵位など不要です。
 何とか活用したいと申されるのでしたら、護衛騎士に貸し与えてください」

「父上や俺に護衛騎士など不要だ。
 それよりは、父上と俺が領地を離れている時に、位攻めされる方が困る」

「私に位攻めは無意味です。
 王であろうと皇帝であろうと、地位など無視して殺してやります。
 だから私に爵位は不要です。
 それよりは、領地を離れる可能性があるジュリエットお嬢様とヴィットーリアお嬢様の事をお考えください」

「ヴィイ姉様は兎も角、ジュリ姉様は行き遅れと言われかねない年齢ですね。
 確かに、どこかに輿入れされるなら、爵位持ちの護衛騎士か戦闘侍女が必要です。
 だからこそ、フラヴィオにはヒューズ侯爵位を引き受けて欲しいのです。
 フラヴィオの子供達なら、安心して姉様達を任せられます。
 フラヴィオが侯爵になれば、彼らは伯爵待遇ですからね」

「うっ、それはそうなのですが」

「一番実子が多くて、その多くが護衛や侍女の役目に耐えるのは誰ですか?」

「……私です」

「嫡出長男のルーカは侯爵公子で護衛騎士。
 同母妹の三人を侯爵令嬢侍女として外に出せるのは大きいですよ」

「それはその通りですが、彼らが納得するかどうか……」

「彼らには、俺が直接説得します。
 ジュリ姉様とヴィイ姉様が外に嫁ぐとは限りませんが、侯王家となった以上、多くの王侯貴族から正室に迎えたいと打診があるはずです。
 その護衛はとても厳しい役目になる事でしょう。
 そこから逃げていては、胸を張ってフラヴィオの子女と言えなくなるでしょう」

「確かに、連中もそう言われては逃げられなくなるでしょうね」

「それに、フラヴィオの子女が伯爵待遇となれば、その配偶者達も伯爵待遇となりますから、倍の爵位持ち護衛を生み出すことができます」

「そこまで言われてしまうと、本当に断れなくなってしまいます」

「一番嫡出子が多く、我が家での貢献度も大きいのです。
 論功行賞面だけでなく、これからの利用価値も多いのです。
 四の五の言わずにヒューズ侯爵位を受けなさい」

「分かりました、侯爵位は喜んで受けさせていただきます。
 ですが、マクネイア家のために命懸けで戦ってきたのは私だけではありません。
 亡くなってしまった者達も含めて、私を基準として過不足のない褒美を与えてくださることを望みます」

「そうですね、我が家のために死んでいった者達に対する褒美は必要です。
 では、こうしましょう。
 外部の従属爵位は、これから我が家が利用するための物で、褒美ではない。
 むしろ負担だと言う事をはっきりさせましょう」

「そうは言っても爵位でございます。
 与えてもらえない者は、正当に評価してもらっていないと感じるモノですぞ」

「我が家に対するこれまでの忠勤は、内部爵位を作って評価しましょう。
 父上と母上に相談したうえでの話ですが、我が家は侯王となったのです。
 独自の国内爵位、伯爵・子爵・男爵を儲けてもおかしくないでしょう。
 イングルウッド侯国の貴族位なら、喜んでくれるのではありませんか?
 ただ、王侯貴族の中には侯国内爵位を認めない者もいるかもしれません。
 そのような場合も考えて、士族位である準男爵位と騎士位も同時に与えます」

「悪くない考えですね。
 若の発案として、インマヌエル殿下にお伝えください」

「分かりました、今直ぐ八の村に戻って父上を説得します」
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