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第一章
第5話:勝利の宴
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「よくぞ巨大な赤茶熊を斃してくれました。
褒美として酒を配ります。
赤茶熊を丸焼きにしましたから、遠慮なく食べてください」
「「「「「ウォオオオオオ」」」」」
母上が全ての家臣領民に祭りを行う宣言をされました。
戦わせる事なく領主館に逃がした女子供の同じ扱いです。
生き残ったこと自体が大切な事なのです。
苦しい戦いでも生き残れる事が、傭兵に必要な能力なのです。
全ての家臣領民が勘違いしないように論功行賞する必要があるのです。
ただこれには、俺の手柄を隠す意味もあります。
護衛騎士達にも矢を射らせましたが、赤茶熊の両眼を射抜いたのは俺です。
本来に矢勢は剛力騎士の足元にも及びませんが、魔法で威力と精度を高めていたので、赤茶熊の視力を奪っただけでなく、命すら危うくする傷になりました。
目が見えなくなったのと深い傷の痛みで暴れ回る赤茶熊は、死角から近寄る剛力の騎士を迎え討つ事ができなくなりました。
最初から致命傷を狙うのは危険なので、後ろ足のアキレス腱を狙わしました。
両後ろ足を上手く使えなくなった赤茶熊に隙が生まれたのです。
そこを剛力の騎士達が急所を狙ったのです。
左側から心臓を狙って槍を突こうとする者もいました。
耳を狙って即死させようとする者もしました。
ハルバートで首を切断しようとした者もいました。
ですが、必死で暴れ回る手負いの赤茶熊の一撃を喰らったら即死です。
絶対に無駄死にするな、と父上や母上に言い聞かされて育った騎士や徒士は、死を賭した攻撃ができません。
だから俺が手本を見せてやりました。
少し離れた場所から、耳の穴を狙って矢を射たのです。
矢勢が弱いのと、わざと狙い外したので、今度は耳を射抜けませんでした。
ここでまた耳を射抜いたりしたら、絶対に魔法を疑われてしまいます。
先ほどとは違って、全員に精神的な余裕が出ています。
誰が射たか分からないとか偶然だとか、言えなくなります。
俺が手本を示した事で、全員が至近距離から矢を射掛けます。
商品にするのではないので、毛皮が穴だらけになっても構いません。
家臣領民が傷つくことなく赤茶熊を斃せればいいのです。
「うぉおおおおお、死にやがれ」
ただ、父上と母上がどれほど言い聞かせても、本性が直情的で、自分を抑えられない者がいます。
危険など構わずに突っ込んでいってしまう者がいるのです。
一人がそんな攻撃を始めてしまうと、乗せられる者が出てきてしまいます。
少し危険を感じたので、しかたなく魔法を使いました。
俺の護衛騎士が放つ矢に軌道修正の魔法をかけました。
剛力の護衛騎士がかなり近い場所から放った矢です。
俺が軌道修正さえすれば、左の耳から右の耳に突き抜けます。
これが致命傷となって赤茶熊が斃れたのです。
「レオナルド、大手柄だったな。
正直羨ましいぞ!」
危険な攻撃を始めてしまった、八の村の担当騎士であるヴァレリオが、俺の護衛騎士の一人で赤茶熊を仕留めたレオナルドに声をかけてきました。
「それほどの事じゃない。
若様が手本を見せてくださったからできた事だ。
耳に入ったのも偶然でしかない」
「それでも羨ましいぞ。
俺なんか奥方様に危険なマネをしたと怒られちまった」
「当然だ!
お前は八の村の担当騎士なのだぞ。
お前が無茶をやったら、若い者達がマネするだろうが!」
「この事はもう奥方様に散々怒られた。
俺も分かってはいるんだが、戦っているうちに頭に血が上ってしまうんだ」
「ほんとうに、お前という奴は、子供の頃から変わらないな」
「そう言うなよ、俺だって変わりたいと思っているんだ……」
レオナルドとヴァレリオは、共に父上が保護して育てた孤児です。
誕生日がはっきりしないから正確ではありませんが、恐らく同い年でしょう。
確か二十四歳だったと思います。
まあ、この領地に住む者の大半は戦災孤児か戦災寡婦ですから、同じ境遇を慰め合って育った兄弟姉妹のようなものです。
喧嘩もよくしたそうですが、情もあるそうです。
ほぼ全員が父上と母上を本当の親のように慕っています。
だからこそ、母上も本気でヴァレリオを叱ったのです。
「レオ、リオも本気で反省しているようですから、それくらいにしてあげなさい」
「「若」」
「今は仕留めたクマを食べて英気を養う時です。
凶暴な魔獣が降りてくるのは、これで最後ではないでしょう。
最初から手負いだったと見張りが言っていました。
この強大なクマに傷を負わせる魔獣が近くに居るのです」
「「はい」」
そうです、これが最後の脅威ではないのです。
斃してから体重を計った赤茶熊は1200キロもありました。
こんな強大な魔獣に、縄張りを捨てさせる脅威が直ぐ側にいるのです!
「母上、八の村を捨てる事も考えておいてください」
「旦那様が離れている時に本拠地を変えたくはありませんが、大切な家臣領民をいたずらに損なう訳にはいきませんね。
フェルディナンド、ここは貴族として命を賭けなければいけない時でしょう。
明日から護衛を連れて周囲の状況を確かめなさい。
全力を尽くして家臣領民のために戦いなさい」
母上が覚悟を決められました。
俺に魔法を使っても構わないと言い切られました。
赤茶熊を縄張りから追い出した脅威が、飛竜の可能性も考えておられるのです。
攻城用の大型弩砲は俺が改良した強力なモノです。
どれくらいの貫通力と破壊力があるのか分かっています。
それなりの魔獣でも斃せると思っていたのですが、赤茶熊には通じませんでした。
これでは、赤茶熊よりも確実に強い飛竜には絶対に通用しません。
飛竜ではなくても、赤茶熊よりも強い魔獣には通用しません。
何とかしようと思ったら、俺が魔法を使うしかありません。
「はい、母上。
男爵家の後継者として。
父上と母上の息子として。
誇り高く戦う事を誓います」
「奥方様、若様、先に命を賭けるのは私達です。
男爵閣下と奥方様に助けていただけなかったら、十歳で死んでいた身です。
御恩に報いる決意をしているのに、皆様よりも長生きなどできません!」
俺の護衛騎士を務めるレオナルドが言い切りました。
流石です。
父上と母上が愛情を注いで育てた賜物ですね。
「貴方達の誇りを踏みにじる気はありません。
ですが、この世にはどうしようもない運命もあるのです。
貴方達がどれほど決意を固め、誇り高く生きても、私達よりも長生きしてしまう事がありえます。
その時は、絶対に無駄死にしてはいけませんよ。
私達が血の涙を流して生き延びたように、貴方達も生き抜きなさい。
そして私達と同じように、残された寡婦や孤児を守り育てるのです。
分かりましたか!」
「「「「「はい、奥方様」」」」」
褒美として酒を配ります。
赤茶熊を丸焼きにしましたから、遠慮なく食べてください」
「「「「「ウォオオオオオ」」」」」
母上が全ての家臣領民に祭りを行う宣言をされました。
戦わせる事なく領主館に逃がした女子供の同じ扱いです。
生き残ったこと自体が大切な事なのです。
苦しい戦いでも生き残れる事が、傭兵に必要な能力なのです。
全ての家臣領民が勘違いしないように論功行賞する必要があるのです。
ただこれには、俺の手柄を隠す意味もあります。
護衛騎士達にも矢を射らせましたが、赤茶熊の両眼を射抜いたのは俺です。
本来に矢勢は剛力騎士の足元にも及びませんが、魔法で威力と精度を高めていたので、赤茶熊の視力を奪っただけでなく、命すら危うくする傷になりました。
目が見えなくなったのと深い傷の痛みで暴れ回る赤茶熊は、死角から近寄る剛力の騎士を迎え討つ事ができなくなりました。
最初から致命傷を狙うのは危険なので、後ろ足のアキレス腱を狙わしました。
両後ろ足を上手く使えなくなった赤茶熊に隙が生まれたのです。
そこを剛力の騎士達が急所を狙ったのです。
左側から心臓を狙って槍を突こうとする者もいました。
耳を狙って即死させようとする者もしました。
ハルバートで首を切断しようとした者もいました。
ですが、必死で暴れ回る手負いの赤茶熊の一撃を喰らったら即死です。
絶対に無駄死にするな、と父上や母上に言い聞かされて育った騎士や徒士は、死を賭した攻撃ができません。
だから俺が手本を見せてやりました。
少し離れた場所から、耳の穴を狙って矢を射たのです。
矢勢が弱いのと、わざと狙い外したので、今度は耳を射抜けませんでした。
ここでまた耳を射抜いたりしたら、絶対に魔法を疑われてしまいます。
先ほどとは違って、全員に精神的な余裕が出ています。
誰が射たか分からないとか偶然だとか、言えなくなります。
俺が手本を示した事で、全員が至近距離から矢を射掛けます。
商品にするのではないので、毛皮が穴だらけになっても構いません。
家臣領民が傷つくことなく赤茶熊を斃せればいいのです。
「うぉおおおおお、死にやがれ」
ただ、父上と母上がどれほど言い聞かせても、本性が直情的で、自分を抑えられない者がいます。
危険など構わずに突っ込んでいってしまう者がいるのです。
一人がそんな攻撃を始めてしまうと、乗せられる者が出てきてしまいます。
少し危険を感じたので、しかたなく魔法を使いました。
俺の護衛騎士が放つ矢に軌道修正の魔法をかけました。
剛力の護衛騎士がかなり近い場所から放った矢です。
俺が軌道修正さえすれば、左の耳から右の耳に突き抜けます。
これが致命傷となって赤茶熊が斃れたのです。
「レオナルド、大手柄だったな。
正直羨ましいぞ!」
危険な攻撃を始めてしまった、八の村の担当騎士であるヴァレリオが、俺の護衛騎士の一人で赤茶熊を仕留めたレオナルドに声をかけてきました。
「それほどの事じゃない。
若様が手本を見せてくださったからできた事だ。
耳に入ったのも偶然でしかない」
「それでも羨ましいぞ。
俺なんか奥方様に危険なマネをしたと怒られちまった」
「当然だ!
お前は八の村の担当騎士なのだぞ。
お前が無茶をやったら、若い者達がマネするだろうが!」
「この事はもう奥方様に散々怒られた。
俺も分かってはいるんだが、戦っているうちに頭に血が上ってしまうんだ」
「ほんとうに、お前という奴は、子供の頃から変わらないな」
「そう言うなよ、俺だって変わりたいと思っているんだ……」
レオナルドとヴァレリオは、共に父上が保護して育てた孤児です。
誕生日がはっきりしないから正確ではありませんが、恐らく同い年でしょう。
確か二十四歳だったと思います。
まあ、この領地に住む者の大半は戦災孤児か戦災寡婦ですから、同じ境遇を慰め合って育った兄弟姉妹のようなものです。
喧嘩もよくしたそうですが、情もあるそうです。
ほぼ全員が父上と母上を本当の親のように慕っています。
だからこそ、母上も本気でヴァレリオを叱ったのです。
「レオ、リオも本気で反省しているようですから、それくらいにしてあげなさい」
「「若」」
「今は仕留めたクマを食べて英気を養う時です。
凶暴な魔獣が降りてくるのは、これで最後ではないでしょう。
最初から手負いだったと見張りが言っていました。
この強大なクマに傷を負わせる魔獣が近くに居るのです」
「「はい」」
そうです、これが最後の脅威ではないのです。
斃してから体重を計った赤茶熊は1200キロもありました。
こんな強大な魔獣に、縄張りを捨てさせる脅威が直ぐ側にいるのです!
「母上、八の村を捨てる事も考えておいてください」
「旦那様が離れている時に本拠地を変えたくはありませんが、大切な家臣領民をいたずらに損なう訳にはいきませんね。
フェルディナンド、ここは貴族として命を賭けなければいけない時でしょう。
明日から護衛を連れて周囲の状況を確かめなさい。
全力を尽くして家臣領民のために戦いなさい」
母上が覚悟を決められました。
俺に魔法を使っても構わないと言い切られました。
赤茶熊を縄張りから追い出した脅威が、飛竜の可能性も考えておられるのです。
攻城用の大型弩砲は俺が改良した強力なモノです。
どれくらいの貫通力と破壊力があるのか分かっています。
それなりの魔獣でも斃せると思っていたのですが、赤茶熊には通じませんでした。
これでは、赤茶熊よりも確実に強い飛竜には絶対に通用しません。
飛竜ではなくても、赤茶熊よりも強い魔獣には通用しません。
何とかしようと思ったら、俺が魔法を使うしかありません。
「はい、母上。
男爵家の後継者として。
父上と母上の息子として。
誇り高く戦う事を誓います」
「奥方様、若様、先に命を賭けるのは私達です。
男爵閣下と奥方様に助けていただけなかったら、十歳で死んでいた身です。
御恩に報いる決意をしているのに、皆様よりも長生きなどできません!」
俺の護衛騎士を務めるレオナルドが言い切りました。
流石です。
父上と母上が愛情を注いで育てた賜物ですね。
「貴方達の誇りを踏みにじる気はありません。
ですが、この世にはどうしようもない運命もあるのです。
貴方達がどれほど決意を固め、誇り高く生きても、私達よりも長生きしてしまう事がありえます。
その時は、絶対に無駄死にしてはいけませんよ。
私達が血の涙を流して生き延びたように、貴方達も生き抜きなさい。
そして私達と同じように、残された寡婦や孤児を守り育てるのです。
分かりましたか!」
「「「「「はい、奥方様」」」」」
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