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第一章

第3話:シェリルと護衛・ダウンシャー公爵フランシス視点

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「何か御用ですか、お父様」

 ああ、シェリル、君だけは何があっても護るからね。

「よく来てくれた、シェリル。
 お前に頼みたい事があるのだ」

「何でございましょう、お父様。
 お父様のお役に立てることなら何でもさせていただきます」

「そうか、そう言ってくれると助かる。
 ならば遠慮せずに頼ませてもらおう。
 シェリルに頼みたいのは他でもない、護衛の件なのだ。
 情けない事だが、私は親友だと思っていたブランデル男爵に殺されかけた。
 もう家臣も使用人も信じられない。
 だから新たな護衛を雇おうと思うのだ。
 シェリルに学友や知り合いに信用できる者はいないか」

「お父様、お父様は家臣や使用人を信用されないのですか。
 主人が信用しなければ、家臣も使用人も信用してくれないと思いますが」

 不幸なだけの設定でゲームの序盤に殺される我が娘シェリル。
 細かな性格設定はしていなかったが、理想的な貴族令嬢のようだ。
 こんな事を言われたら愛しさが押し寄せてきて思わず抱きしめたくなる。
 土下座して前世での愚行を詫びたくなってしまう。

「その通りだシェリル。
 理想の貴族像はシェリルに言った通りだ。
 だが哀しいかな世の中は理想通りにはいかないのだよ。
 貴族家の常識である貞操すら守られていないのが現状だ。
 お前の母親であるメアリーはジェラルド侯爵と浮気している。
 とても哀しい事だがアリスは私の子ではないのだ」

「そんな、いくら何でもそれは間違いではないでしょうか」

 どうやらシェリルも薄々母親の不義には感づいていたようだ。
 浮気の事を言っても全然驚かなかった。
 だがアリスが不義の子だと言うのは気がついていなかったようだ。
 露骨に驚き狼狽している。

「間違いではない、確かなことだ。
 だからこそ家臣も使用人も信用できないのだ。
 メアリーの浮気を手助けする者が家臣の中にいなければ今日まで私を欺けない。
 私を欺けたとしても全ての家臣使用人を欺けるはずがない。
 なのに私にメアリーの浮気を知らせる者が一人もいなかった。
 この状態では家臣使用人の誰を信じればいいか分からない。
 それが分からない状態では、いつ誰に殺されるかも分からないのだ。
 だからまだ黒幕の、いや、ジェラルド侯爵の手が及んでいない者を新たな護衛として雇いたいのだ」

「分かりましたお父様。
 お父様がそこまで言われるのでしたら、私が心から信頼する友をご紹介させていただきます。
 一人は聖女と評判の治癒魔術の使い手、トランブル男爵家のキャロライン嬢です。
 もう一人は東洋から伝わって来た長くて太い刀、長巻の名手であるサンズ男爵家の次男ウィリアム君です」

 なるほど、この二人なら確かに護衛として最高だろうな。
 問題があるとしたら裏でジェラルド侯爵の調略の手が入っている可能性だな。
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