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第一章

第7話:新婚旅行1

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 ルーカスと私は堂々と王宮を出て辺境に向かいました。
 王太子が半殺しになったので、誰かが止めるかと思いましたが、誰も止めません。
 王太子を半殺しにした罪で捕えようとする者だけを心配したわけではありません。
 ルーカスがウィグル王国を離れないように説得する国内貴族が現れる事と、ルーカスを自国に引き入れようと説得する外国貴族が現れる事、両方を考えたのです。

「馬車はどうしても揺れてしまうから、このクッションを下にすればいいよ」

 ルーカスが優しく労わってくれます。
 王太子の婚約者だった私は、領地に帰った事も、王都を出て郊外に行くこともありませんでしたから、長時間馬車に乗る辛さを知りませんでした。
 確かに馬車という乗り物は、長時間乗るものではないと思い知りました。
 ですが、その辛さも、ルーカスが労わってくれるので、むしろ幸せを感じることができます。

「ほら、あれが有名なデンヤ牧場だよ」

 ルーカスが、王都の王国貴族が競って購入するミルク牧場を教えてくれました。
 乳牛一頭一頭を手塩にかけて育て、それぞれの茶葉に合うミルクを出す乳牛を数多く育てるという、途方もない技術を持った牧場です。
 多くの名の通った牧場は、牧場全体で一種の美味しいミルクを生産します。
 王侯貴族は、そのミルクに合った茶葉を探すのですが、デンヤの牧場は王侯貴族が指定した茶葉に合ったミルクを生産して届けてくれるのです。

「まあ、初めて見ました、教えてくださってありがとうございます。
 でも私は、少々贅沢過ぎると思います。
 デンヤの牧場にミルクを頼んでしまうと、常に同じ品質の茶葉を用意しなければいけませんから、とても費用が掛かってしまいます。
 そのような費用を使うくらいなら、領地の開拓や産業育成に使った方がいいと思います」

 私は正直に思ったことを口にしました。
 他の人が相手なら、特にマルティンが相手だと、生意気だと言われてしまいます。
 ですがルーカスなら、他の人が生意気だと思う言葉でも、受け止めてくれるとおもったのですが、その通りでした。
 彼ほど懐が広い人は滅多にいません。
 少なくとも、この国の王侯貴族の中には一人もいません!

「そうだね、エルサの言う通りだね。
 領主たるもの、質素倹約に励み、少しでも領地を富ませなければいけない。
 私もずっとその心算で辺境を治めてきたよ。
 とはいっても、辺境伯に封じられて二年しか経っていないんだけどね。
 エルサがそう言ってくれたから思い切って話すけれど、領地を富ますためにお金も労力も投入しているから、辺境伯とは思えないくらい質素な生活をしているんだよ」

 ルーカスも正直に話してくれました。
 見栄を張らないその性格がとても好ましく思えました。
 こんなルーカスとなら、仲良く暮らせると確信しました。
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