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第1章

第28話:恩賞

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天文17年8月11日:那古野城:織田信長15歳視点

 前田慶次の働きが凄まじい!
 黒鬼の綽名に恥じない人間離れした働きだ。
 あいつに黒鬼と名付けた余の見る目に間違いはない!

 黒鬼は厄介極まりない一向一揆の寺、本證寺を攻め落とした。
 次の日には松平彦四郎が守る藤井城を落とした。
 3日目には、藤井城の直ぐ隣にある、石川一門が守る木戸古城を落とした。
 4日目には、石川一門が新たに築いた木戸新城を落とした。

 5日目には、加藤掃部守が守る岩根城を落とした。
 6日目には、石川一門が守る小川城を落とした。
 7日目には、本多弥八郎が守る小川的場丘城を落とした。

 8日目には、一向一揆が籠る誓願寺を落とした。
 9日目には、一向一揆に加担する内藤清長の姫城を落とした。
 10日目には、堀小三郎が守る堀内城を落とした。

 黒鬼が獅子奮迅の働きをしたので、苦しい状態だった桜井城の松平家次は楽になり、松平広忠や今川義元に寝返る心配がなくなった。

 11日目には、細井左馬助の守る古井城を落とした。
 12日目には、安藤基能の守る桑子城を落とした。
 13日目には、植村氏明の東本郷城を落とした。
 14日目には、植村氏明が直接守る西本郷城を落とした。

 黒鬼は安祥城と山崎城を圧迫していた城砦群を全て落とした。
 三郎五郎兄者が守る安祥城も苦しかったが、耳取縄手の戦いで父親を亡くし、僅か9歳で山崎城主となった松平九郎右衛門が誰よりも苦しかった。

 父親の松平信孝が松平広忠と敵対した複雑な事情もあり、いつ松平広忠の所に帰参するか分からない危険な状態だった。

 松平九郎右衛門の山崎城まで松平広忠の味方してしまったら、近隣の城で三郎五郎兄者の味方は高木清秀の守る高木城だけになっていた。
 そうなっていたら、高木清秀もいつ松平広忠に寝返るか分からない所だった。

 それが今では、矢作川の西側に松平広忠や今川義元に味方する城が1つもない。
 全て黒鬼の信じ難い働きの御陰だ。
 いや、今では黒鬼だけでなく青鬼までいると言う。

 荒子前田家の蔵人が、孫婿のために送った譜代衆の1人に、黒鬼に匹敵する荒武者がいたのだ!

 余の直臣に欲しかった!
 林新五郎に命じて良き家臣を探させたのに、ろくな者を集めなかった!
 前田与十郎が隠さなければ、黒鬼のように余の直臣に取立てていた!

「五郎左衛門、五郎左衛門はどこだ?!」

「何か御用でございますか?!」

「親父殿の所に行ってくれ」

「黒鬼の恩賞についてでございますな?」

「そうだ、あれほどの武功を立てた者に下手な褒美は与えられん。
 性根の腐った側近共を蹴散らし、衰えた親父殿の言質だけでなく、恩賞を保証する書付まで手に入れなければならん。
 こんな大役、五郎左衛門にしか任せられん」

「今の大殿では、私独りでは難しいです。
 青山与三右衛門殿、内藤勝介殿、佐久間右衛門尉殿の助力が必要です」

「余の傅役全員と牛介まで必要か?」

「更に三郎五郎様の添え状があれば確実なのですか……」

「今から三郎五郎兄者の添え状までは無理だぞ」

「分かっておりますが、大殿の衰えが激しすぎます」

「分かっている、分かっているが、何としてでも大きな恩賞がいる。
 余もできるだけ準備をしていたが、ここまでの武功を挙げるとは思ってもいなかったのだ!」

「それがしも同じでございます。
 黒鬼の人並み外れた力は知っておりました。
 ですがこれほどとは思ってもいませんでした。
 信じ難い働きに、本当の鬼なのではないかと思ってしまうほどです」

「その本物の鬼と変わらない黒鬼が、吉良や今川に仕えるかもしれないのだぞ!」

「なんですと?!」

「黒鬼の兄、滝川一益に調べさせていたのだ。
 黒鬼を調略しようとする者を調べさせていたのだ!」

「吉良や今川が黒鬼を寝返らせようとしているのですか?!」

「そうだ、味方に付くなら、織田家に領地の切り取り勝手を与えるそうだ。
 これまで黒鬼が独力で落とした城も、そのまま領有を認めるそうだ。
 親父殿が認めた恩賞と違い過ぎて、とても勝負にならん」

「……黒鬼は女房を溺愛していると聞きます。
 女房を人質にしている限り、裏切らないはずです」

「黒鬼の女房、百合の性格を調べさせた。
 黒鬼の足手まといになるくらいなら、自害する性格だ。
 五郎左衛門、女房を自害に追い込んだ者を、黒鬼が許すと思うか?」

「絶対に許しません、間違いなく根切りするでしょう。
 こんな年寄りの耳にも、黒鬼が女房を溺愛していると言う話が入ります」

「余も本気で怒った黒鬼と戦いたくはない。
 何より、あれだけの武功を立てた黒鬼に、ろくな恩賞を与えない此方が悪い。
 この状況で黒鬼が我が家から離反しても、誰も黒鬼を誹らんぞ」

「分かりました、この命を賭けても、大殿から恩賞を引き出してまいります。
 ですが、若にも覚悟してもらわなければなりません!」

「分かっている、親父殿を弑いる事はできんが、隠居させる覚悟はした。
 側にいる佞臣共を根絶やしにする!
 黒鬼にも手を貸せと言ってある、後詰はするから安心しろ」

「黒鬼に恩賞を与えるために黒鬼を使うのですか?!」

「ふん、立っていれば仏でも使ってやる」

「良き覚悟でございます、臣もその覚悟で行って参ります」
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