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第1章
第13話:軍資金
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天文16年2月22日:三河幡吉良大浜:前田慶次15歳視点
俺の願いを義祖父は素早くかなえてくれた。
全ての伝手を使って、魚肥の作り方を聞いてくれた。
義祖父の話では、鰯を蒸して明かり用の油を搾った後の鰯粕が、干鰯と呼ばれ、肥料として使われているらしい。
鰯粕、干鰯は1升で銀2匁、永楽銭で40文の値がつくという。
それでも十分な銭なのだが、なんと、鰯から搾った油は1合で銀13匁になるというのだから驚きだ!
菜種や綿花から搾った油なら1合で銀41匁にもなると言うが、これも勉強不足で、菜種や綿花を育てる方法が分からない。
それよりは、今大量に獲れている鰯から油を搾り、鰯粕を作った方が堅実だ。
義祖父が知り合いに作り方を聞けたのだから、銭を積めば職人を呼んで来られる。
「吉兵衛、荒子の義祖父殿に鰯油を搾れる職人を探してもらってくれ」
俺は荒子譜代の山森吉兵衛に命じた。
これで幾ら鰯を獲っても無駄にする事がなくなる。
不漁の時も悪天候の時も銭が稼げる。
城代となり、自分個人の足軽を雇うようになって、銭の大切さを思い知った。
銭を稼ぐことが、領主として成り上がるためには必要なのだと思い知った。
個人の武勇なら誰にも負けないが、それだけでは武者働きに過ぎないのだ!
大将として成り上がるには、足軽を喰わせる銭が必要だと分かった。
鰯油は腐らないから、値の安い時には売らないようにする。
できるだけ値の高い時に売るようにする。
そうすれば収入源が安定するから、安心して足軽を集められる。
干鰯があれば、田畑の収穫量も増えるはずだ。
「若、職人は直ぐに大浜に送ると、大殿が申されていました」
荒子から戻った山森吉兵衛が言った。
そうから僅か3日で鰯から油を搾る職人がやってきた。
しかも鰯を煮る大釜も、油を搾るのに必要な道具も、持って来てくれた。
その日のうちに腐りかけていた鰯を煮て油を搾ってくれた。
信じられないくらい臭かったが、軍資金に必要だから耐えた。
山のように積み上げられていた腐りかけの鰯が、どんどん減っていった。
前世での勉強不足を痛感していたので、最初から最後まで見て勉強した。
鰯を煮て搾ってできる油の量は、元の量の5分ほどだった。
重さで計算すればもっと多いのだろうが、体積ではそれくらいだった。
干鰯の量も体積で計算すると元の量の5割ほどになった。
だから腐りかけの鰯の山が、干鰯の小山変わっただけだった。
しかし、1升40文にもなる干鰯を雨に流す訳には行かない。
臭いが籠るのが分かっていて、大浜城内の小屋に保管するしかない。
慌てて新しい小屋を建てて、足軽達の寝床を確保した。
「若、昨日の魚の売り上げは5貫328文でした」
銭勘定の得意な金岩与次が報告してくれた。
鰯だけの売り上げなら1万匹以上売らなければいけない。
だが、干鰯や鰯油に加工出来る鰯は生で売らないようにした。
少しでも高く売れる、タイやブリ、カツオやヒラメなどを売った。
魚を売る者は直ぐにたくさん集まった。
戦には行きたくないが、生きて行くために働かないといけない者は幾らでもいた。
百姓も、農作業の合間に魚を売り歩いて少しでも銭を稼ごうとした。
信長を始めとした織田家の国人地侍に売る魚は、比較的高価な鯛や鰹にした。
他にもアンコウやヒラメのような根魚や海底に住む魚を売った。
安い魚を求める人には、アジやワカナゴ(ブリの幼魚)を売った。
雨などで漁のできない日、何故か分からないが不漁の日。
そんな日も計算に入れて、1日平均で10石の干鰯が作れた。
鰯油が1石も作れたので、酷い悪臭も我慢できた。
魚=1日5貫文×177日=年885貫文
干鰯10石=40貫文×354日=年1万4160貫文
魚油1石=260貫文×354日=年9万2040貫文
雨風で魚を売り歩けない日もある。
1年の半分が働けない日と考えても、魚の売り上げだけで416人の足軽を雇う事ができる。
干鰯の利益を考えれば、6666人もの足軽を雇う事ができる。
流石に急にそれほど多くの足軽を集める事などできない。
それほどの利があると知られた時点で、大浜城を奪われる。
強欲な林秀貞は当然奪おうとするだろう。
だが、敵は林秀貞だけではない、信長はもちろん全ての国人地侍が敵になる。
魚油はもちろん、干鰯を売る量も気をつけないといけない。
「若、本当にお貸し武具をこんなに買っても良いのですか?」
武器や鎧の購入を命じた姉崎勘右衛門が確認してきた。
「魚が好い値で売れているし、干鰯も魚油も言い値で売れる事が分かった。
今商人に頼んでも直ぐに手に入る訳ではないだろう?」
「はい、少しなら明日にでも買えますが、100や200となりますと、ひと月ふた月かかるのが普通でございます」
「だったら大丈夫だ、それまでに代金が手に入る。
手に入らなければ、干鰯や魚油を三郎様か大殿に買ってもらえばいい。
城を守るための武器や具足を買うためだと言えば、買ってくれるだろう?」
「なるほど、そう言う事でしたら安心です。
毎日増える足軽に貸し与える武器も具足もないので、召し抱えても銭の無駄だと思っていたのですが、まとめて買う気だったのですね」
「ああ、銭に余裕ができたら少しずつ買い集める気だった。
それに、俺達が投石で合戦に勝った話は聞いているだろう?」
「はい、何度も聞かせて頂いています」
「槍を振るって戦う者が少なくても、石を投げて戦える者が1人でも多ければ、それだけ敵を近づかせる事なく戦える。
敵が遠ければ遠いほど、石投げの技を極めた甲賀衆が多い我らが有利だ」
「そうだったのですね、武器や具足がなくても我らが有利だったのですね!」
「そうだ、だが、そこに武器と具足が加わればもっと強くなる。
勘右衛門には商人と渡り合って良い武器と具足を買ってもらいたい」
「お任せください、商人との交渉には慣れております」
「敵襲、敵が襲ってまいりました!」
俺の願いを義祖父は素早くかなえてくれた。
全ての伝手を使って、魚肥の作り方を聞いてくれた。
義祖父の話では、鰯を蒸して明かり用の油を搾った後の鰯粕が、干鰯と呼ばれ、肥料として使われているらしい。
鰯粕、干鰯は1升で銀2匁、永楽銭で40文の値がつくという。
それでも十分な銭なのだが、なんと、鰯から搾った油は1合で銀13匁になるというのだから驚きだ!
菜種や綿花から搾った油なら1合で銀41匁にもなると言うが、これも勉強不足で、菜種や綿花を育てる方法が分からない。
それよりは、今大量に獲れている鰯から油を搾り、鰯粕を作った方が堅実だ。
義祖父が知り合いに作り方を聞けたのだから、銭を積めば職人を呼んで来られる。
「吉兵衛、荒子の義祖父殿に鰯油を搾れる職人を探してもらってくれ」
俺は荒子譜代の山森吉兵衛に命じた。
これで幾ら鰯を獲っても無駄にする事がなくなる。
不漁の時も悪天候の時も銭が稼げる。
城代となり、自分個人の足軽を雇うようになって、銭の大切さを思い知った。
銭を稼ぐことが、領主として成り上がるためには必要なのだと思い知った。
個人の武勇なら誰にも負けないが、それだけでは武者働きに過ぎないのだ!
大将として成り上がるには、足軽を喰わせる銭が必要だと分かった。
鰯油は腐らないから、値の安い時には売らないようにする。
できるだけ値の高い時に売るようにする。
そうすれば収入源が安定するから、安心して足軽を集められる。
干鰯があれば、田畑の収穫量も増えるはずだ。
「若、職人は直ぐに大浜に送ると、大殿が申されていました」
荒子から戻った山森吉兵衛が言った。
そうから僅か3日で鰯から油を搾る職人がやってきた。
しかも鰯を煮る大釜も、油を搾るのに必要な道具も、持って来てくれた。
その日のうちに腐りかけていた鰯を煮て油を搾ってくれた。
信じられないくらい臭かったが、軍資金に必要だから耐えた。
山のように積み上げられていた腐りかけの鰯が、どんどん減っていった。
前世での勉強不足を痛感していたので、最初から最後まで見て勉強した。
鰯を煮て搾ってできる油の量は、元の量の5分ほどだった。
重さで計算すればもっと多いのだろうが、体積ではそれくらいだった。
干鰯の量も体積で計算すると元の量の5割ほどになった。
だから腐りかけの鰯の山が、干鰯の小山変わっただけだった。
しかし、1升40文にもなる干鰯を雨に流す訳には行かない。
臭いが籠るのが分かっていて、大浜城内の小屋に保管するしかない。
慌てて新しい小屋を建てて、足軽達の寝床を確保した。
「若、昨日の魚の売り上げは5貫328文でした」
銭勘定の得意な金岩与次が報告してくれた。
鰯だけの売り上げなら1万匹以上売らなければいけない。
だが、干鰯や鰯油に加工出来る鰯は生で売らないようにした。
少しでも高く売れる、タイやブリ、カツオやヒラメなどを売った。
魚を売る者は直ぐにたくさん集まった。
戦には行きたくないが、生きて行くために働かないといけない者は幾らでもいた。
百姓も、農作業の合間に魚を売り歩いて少しでも銭を稼ごうとした。
信長を始めとした織田家の国人地侍に売る魚は、比較的高価な鯛や鰹にした。
他にもアンコウやヒラメのような根魚や海底に住む魚を売った。
安い魚を求める人には、アジやワカナゴ(ブリの幼魚)を売った。
雨などで漁のできない日、何故か分からないが不漁の日。
そんな日も計算に入れて、1日平均で10石の干鰯が作れた。
鰯油が1石も作れたので、酷い悪臭も我慢できた。
魚=1日5貫文×177日=年885貫文
干鰯10石=40貫文×354日=年1万4160貫文
魚油1石=260貫文×354日=年9万2040貫文
雨風で魚を売り歩けない日もある。
1年の半分が働けない日と考えても、魚の売り上げだけで416人の足軽を雇う事ができる。
干鰯の利益を考えれば、6666人もの足軽を雇う事ができる。
流石に急にそれほど多くの足軽を集める事などできない。
それほどの利があると知られた時点で、大浜城を奪われる。
強欲な林秀貞は当然奪おうとするだろう。
だが、敵は林秀貞だけではない、信長はもちろん全ての国人地侍が敵になる。
魚油はもちろん、干鰯を売る量も気をつけないといけない。
「若、本当にお貸し武具をこんなに買っても良いのですか?」
武器や鎧の購入を命じた姉崎勘右衛門が確認してきた。
「魚が好い値で売れているし、干鰯も魚油も言い値で売れる事が分かった。
今商人に頼んでも直ぐに手に入る訳ではないだろう?」
「はい、少しなら明日にでも買えますが、100や200となりますと、ひと月ふた月かかるのが普通でございます」
「だったら大丈夫だ、それまでに代金が手に入る。
手に入らなければ、干鰯や魚油を三郎様か大殿に買ってもらえばいい。
城を守るための武器や具足を買うためだと言えば、買ってくれるだろう?」
「なるほど、そう言う事でしたら安心です。
毎日増える足軽に貸し与える武器も具足もないので、召し抱えても銭の無駄だと思っていたのですが、まとめて買う気だったのですね」
「ああ、銭に余裕ができたら少しずつ買い集める気だった。
それに、俺達が投石で合戦に勝った話は聞いているだろう?」
「はい、何度も聞かせて頂いています」
「槍を振るって戦う者が少なくても、石を投げて戦える者が1人でも多ければ、それだけ敵を近づかせる事なく戦える。
敵が遠ければ遠いほど、石投げの技を極めた甲賀衆が多い我らが有利だ」
「そうだったのですね、武器や具足がなくても我らが有利だったのですね!」
「そうだ、だが、そこに武器と具足が加わればもっと強くなる。
勘右衛門には商人と渡り合って良い武器と具足を買ってもらいたい」
「お任せください、商人との交渉には慣れております」
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