上 下
5 / 38
第1章

第5話:動物愛護団体

しおりを挟む
 反政府反与党のテレビ局が、市役所と市長の怠慢によって市民が傷つき続けていると毎日報道した事で、市役所が重い腰を上げた。

 動きはしたが、公金、市民の血税を一部の人間のために使っても叩かれる。
 民間のカラス駆除業者に依頼しても、何故その業者を選んだのかと叩かれる。
 テレビ局は、何をやっても重箱の隅を楊枝でほじくるようにして叩く。

 だから市役所は、市民を傷つける狂暴な鴉を駆除するように、警察に依頼した。
 猟友会に対しては、ボランティアで駆除してくれるように頼んだ。
 頼んだ時点でボランティアではないのだが、この辺が田舎らしい。

 これで鴉が駆除できればよかったのだが、残念ながらそうはいかなかった。
 猟友会員だけでなく、警察官まで鴉に襲われて大怪我をした。
 運よく死者は出なかったが、頭蓋骨を割られる人が続出した。

 テレビ局は、命懸けで鴉駆除をする人たちを称えず、失態だと叩き続けた。
 それだけでも偏向過ぎる報道だが、突然手のひらを返して、自分達が圧力を欠けて始めさせた駆除自体を悪だと叩き出した。

 回覧板に書かれている内容から推察すると、動物愛護団体がテレビ局に多数の苦情を入れてきたそうだ。

 反政府反与党テレビ局らしい手のひら返しに笑うしかなかった。
 元々そんな連中だと思っていたから、怒りも落胆もない。
 ただ、これで行政による鴉駆除が終了してしまった。

 東隣の家は、家族揃って引っ越していった。
 大怪我をしたお爺さんの家に同居するようだが、鴉が追いかけて行かないか心配だ、連中の狡賢さと凶暴さ、執念深さは並大抵ではないから……

「うっわ!」

 鴉からグリーンイグアナを助けてから2カ月が過ぎた。
 隣家の家族が鴉に襲われ、引っ越して行ってから1カ月が過ぎた。
 自宅の屋根と庭、家の前の道路は鴉の糞でとんでもないことになっている。

 それだけなら毎日悪夢に悩まされる事もなかったのだが、東隣の家族だけでなく、西隣の家屋も向かいの家族も家を捨てて出て行った。
 自責の念からか、毎日悪夢の悩まされるようになった。

 だが、俺を悩ませているのは鴉だけではない。
 グリーンイグアナも俺に悪夢を見させている。

 中型犬ほどだったグリーンイグアナが、大型犬くらいの大きさになっている。
 それも、尻尾の先まで大きさじゃない、頭胴長だけで大型犬並みなのだ。

 ネットでは尻尾の先まで測った全長が180cmとあったが、そこまで測ったら軽く200cmは超えている。

 鴉に頭蓋骨を突き破られ、脳を喰われて死ぬ悪夢だけでなく、グリーンイグアナに生きたまま喰われて死ぬ悪夢まで見るようになっている。
 全く安眠ができず、寝不足でフラフラになっている。

 そんな俺をグリーンイグアナがじっと見るのだ。
 本当に夢だけではなく、実際に食われてしまうかと恐怖を感じている。
 美味しそうにキャベツを食べる姿が、俺の頭を食べているように見える。

 唯一救われるのが、寝る時に二階のLDKから西側の10畳フローリングに移動しても、グリーンイグアナが興味を示さない事だ。

 グリーンイグアナはネットの画面と食事にしか興味がないようで、俺やテレビの画面には目もくれない……と思っていたのに。

「うわぁあああああ!」

 目が覚めると、目の前にグリーンイグアナがいた。
 これまでは俺の寝室には入って来なかったグリーンイグアナが、目の前にいた。
 鋭い爪で俺の前腕を突いている!

 一瞬俺を食べに来たのかと思い、布団から飛び起きて後退った。
 口から心臓が飛び出すかと思うくらい驚いて、小便をちびりそうになった。
 尻で後退って壁に背中を強打したが、痛みも感じなかった。

 ……グリーンイグアナは襲ってこなかった……
 何の感情も感じられない、静かな目で見つめるだけだった。
 グリーンイグアナを信じられず、慌てふためいた自分を心から恥じた。

「シャ」

 グリーンイグアナは、ひと声発すると背中を向けた、
 背中を向けたかと思うと、身体をねじって振り返った。
 ついて来いと言っているように思えて、震える身体に叱咤激励して追いかけた。

 グリーンイグアナはゆっくりと寝室からLDKに移動して、二本足で立つようにして、自分で引き戸を開けて、廊下に出て階段を降りる。
 振り向きはしないが、俺が追いかけているのが分かっているようだ。

 防犯も考えて選んだ、ガラスを一切使っていない玄関扉は分厚くて頑丈だ。
 2つある勝手口は鴉に簡単に壊されるガラスを多用しているが、玄関扉は丈夫だ。

 二本足で立って玄関扉に覆いかぶさり、上下の鍵だけでなくチェーンロックまで器用に開けて、堂々と出て行った。

 その気になれば何時でも自由に出て行けたと言っているようだ。
 わざわざ俺を起こしたのは、鍵を開けたまま出て行くのは危険だから、戸締りしろと言っているかのようだった。

 思わず玄関から出てグリーンイグアナを追いかけた。
 前の電柱にも右の整骨院にも左の民家にも鴉はいなかった。
 鴉もカラスと同じで夜目が利かないのだろうか?

 グリーンイグアナは、鴉に襲われていた山に向かっているように思える。
 使っている道順は違うが、背中を見ているとそう思えてしまう。
 追いかけるか迷ったが、鴉に対する恐怖が正義感を勝ってしまった。

 家に入って戸締りをして、二階でカラスについて再度調べた。
 いくつもの記事を比べて、カラスは鳥目ではないと思った。
 見難いが、全く見えない訳ではないと感じた。

 運が良いのか悪いのか、家の前の道路と向かいの駐車場には、防犯用の明かりが煌々と光り輝いている。
 金属シャッターを下ろすか遮光カーテンを引かないと眠れないくらい明るい。

 この明るさとカラスの聴力を考えると、陽が落ちてからでも油断できない。
 目に見える所に居なくても、どこかで見張っているかもしれない。
 油断して買い物にでも出たら、頭に穴を開けられてしまうかもしれない。

 二階の寝室から布団を下ろして玄関に敷いた。
 徹夜でグリーンイグアナを待つ気にはならないが、帰ってきたら直ぐに鍵を開けてやらないと、他人に姿を見られたら大騒動になる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。

克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

処理中です...