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第一章

第7話:旅の空1・キャメロン視点

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 伯爵が珍しく髭を弄らないで、真剣なまなざしを俺に向ける。

「近々戦争が起きそうだ。君には用立てをお願いしたい」

「どうにか回避はできませんか?」

「できないだろうな。負ければ滅亡だが、勝てばこちらから再度戦争を仕掛ける。何十年も続いている戦争だからな。回避はできない」

「あと何か月後か予想はできますか?」

「おそらく、三か月後。兵士がこちらに終結して、敵の兵站が完了するまでにそれだけの時間がかかる。今回は、敵に、ヴィルヘルムという術者が付いたと言う。奴は相当な実力者だ。今回ばかりはこちらも滅亡するかもしれない」

「こちらの兵力は?」

「傭兵で1万人は用意できる」

「向こうの予想兵力は?」

「おそらく、5万。最近、敵はハンブルクの城を攻め落としたから、合算してそれだけの兵力が用意できるだろう」

「傭兵一人当たりの金額は?」

「頭金で、2千シニー。勝利報酬で1万シニーが相場だ」

「今ある資金で、3000万シニーです。用意できても1万5千人ですね」

「ふむ……」

「ですが、俺に考えがあります。戦争なんて俺にとっちゃ遊びみたいなものですからね。こちらは、戦力を小出しにして敵の兵站を最優先に破壊しましょう」

「しかし、それではこちらも摩耗するばかりではないか? 大軍と出会ったらひとたまりもない。そうなればこちらは兵を失うばかりで、いざ決戦の時に負けてしまうのではないだろうか?」

「他に方法はありませんよ。私も資金を出すのですから作戦に参加させてもらいますよ。指揮は誰が?」

 俺がそう言うと、ローブ姿のおっさんが前に出た。
 あの時、牢屋で、俺を変態呼ばわりしたアイツだった。

「まさか、あの時の変態がここまで成りあがるとはな」

「それはいったいどういう意味でしょうか?」

「悪く取らないでくれ。感心しているのだよ」

「そうですか。ありありのあーりがと。では、地図と気候の情報をお願いします」

「は? お前、キャラが安定してなくないか?」

「気にしないでください」

「……。分かった。付いてきてくれ。だが、その前に自己紹介をしなくてはな。私はゲクラン。将軍だ」

「俺は武田丈です。よろしく」

 通された部屋では幾重にも作戦を立てた形跡があった。赤いマーカーでこの地方に進行が可能なルートが記されている。そして、傍の沢山の書類には戦闘経過報告が記されていた。

「おそらく、敵はここから来る」

 そうして指さすのは山間にある小さな道だった。

「であれば、この道を先に封鎖して時間を稼ぎましょう。俺もその間に資金繰りに奔走します」

「ダメだ。迂回されるだけだ。他にも地図に載っていない道がある」

「でしたらこうしましょう。兵站を破壊し、敵の退路を潰します。持久戦で戦えば、二日もすれば敵は体力を切らして撤退をするでしょう。問題は完全に退路を潰してはいけないということです。徐々に撤退させ、撤退しているところに攻撃を加えて敵の戦力を減らしていきます」

「その作戦が上手くいくのか?」

「ええ。敵の戦闘方法を知ることができれば、あとは作戦はほぼ成功するかと思います」

「君は商人だろう? 素人の商人の作戦が上手くいくのだろうか?」

「いえ、商売というのは戦争と同じです。作戦を立てて実行する。相手の心理を操り、優位に立ち回る。完全に同じですよ。こちらの戦闘演習をみせてもらえないでしょうか?」

「分かった」

 そうしてゲクラン将軍に見せてもらったのは、戦列歩兵による平押しだった。

 槍衾と魔法を交互に使うというもので、特に魔法なんてものは、前列しか使わず、前列が疲れたり、倒れたりして、後列が出てきて交代するようになっている。

 特に前列は傭兵が占めているので、連携は基本的にバラバラだ。それは、相手もおなじことだろうが。これは問題である。

 だがしかし、先史を基にすれば戦い方も決定づけることができるだろう。

 敵が強大であるならば、俺が取るべき作戦はただ一つ。ファビアン作戦である。敵の補給を破壊し、持久戦で敵の損耗を増やす。複数の小部隊で敵の背後を脅かし、一日中、敵を警戒させ、損耗の速度を増やしていく。
 三か月後には最大で1200万シニーが用意できる。その時俺が更に動員できる兵力は6000人。この数では、もし、敵を撃退しても依然として戦力の劣勢をひっくり返すことはできないだろう。だからこそ、ここで完全に撃滅させ、さらに敵の陣地に攻め込む必要がある。

 人を殺し、また、俺は罪を重ねるのかと思うと、心が苦しくなるが、俺が戦わなければ、奪われるのは俺を含めた街のみんななのである。
 
 ここは、俺が全ての罪を背負って戦おう。そして、地獄に落ちるのだ。一度は捨てた命、また死んだところで惜しくはない。そう決めた。

 参考にすべきは、名将ハンニバルのトラシメヌス湖畔の戦いだ。
 三か月の間に、俺は、地図の徹底的な調査に努めた。
 そして、ダミーの陣地を作成しておき、夜間戦闘に備えるのだ。

「勝機はあるのか?」

「ヴィルヘルムの実力次第です。遠距離攻撃に徹した攻撃が知りたいのですが」

「バリスタや大砲。遠距離魔法。弓矢と投げ槍」

「私の想定する決戦場所は山中からの奇襲です。敵の退路を塞ぎ、敵の殲滅をさせますが、山間に退路を用意しておきます。そうすることで、死地と悟った敵兵士に粘り強い抵抗をさせないようにします」

「今のところとれる戦闘方法はそれくらいだな。しかし、他の通路から攻められる可能性は? 他から攻められれば奇襲ができなくなってしまうだろう?」

「だからこそ、三か月の間に通路を調べ上げて、他を全て念入りに塞ぎました。復旧には相当な時間がかかるはずです。崖は完全に破壊しましたし、他の山間は、岩を崩落させて潰しました。兵站の運搬に使う馬が通ることは絶対にできません。万が一通ってきた時のために、監視を置いておきました」

「万全だな」

「しかし、慢心はしてはなりません。作戦とは必ずしも想定通りに進むとは限りませんから」

 俺は既に山中にバリスタや大砲などの人間に相手に使わないような攻城兵器を買いつけて潜伏させておいた。入念にカモフラージュをさせているし、俺の大砲の合図で一斉に打ち出すように訓練しておいた。

 その間にも俺は兵士を引き連れて、敵の兵站を破壊して回った。

 しかし、兵站基地というのは街にあるのが基本なので、俺がしている行為は略奪といったことの方が正しいだろう。でも、俺はそんな悪いことも簡単にできてしまう。逃げてきた民間人には食料は与えたのだから。

 まあ、それでも、なるべく人には危害を加えず、徹底して補給の略奪と破壊を優先していった。もはや、敵の後方の街は、完全に食料を失っただろう。民間人が生きていけるだけの食料しか残っていないので、誰もが街を捨てて逃げ出している。

 そうして、兵站破壊をしていると、敵もこちらの動きを警戒して、補給基地に兵を大量に置くようになった。そこに俺は挑発するように弓矢で攻撃を与えさせた。

 遠距離であるがゆえに敵に損耗など与えられるものではないが、敵は警戒を解けずに相当イラついていることだろう。
 山中の退路を気にしつつ、俺は山間に潜伏する。

 こちらの3万1千の兵力では5万人を全滅させることは。数的な面から言って不可能だろう。だからこその遠距離攻撃のできる大砲やバリスタなのだ。

 第二次世界大戦中、スツーカという近接航空爆撃機の出す音が敵に恐怖を与えたという記録がある。

 奇襲と同時に、響き渡る大砲の爆音や、バリスタの強烈な音は、敵に心理的な恐怖を与えることになる。
 これだけでも、こちらにアドバンテージが稼げるはずだ。

 そして、更に、山間という立地を生かして、浸透させておいたこちらの兵士が敵の退路となる山間を崩落させて、道を封鎖する。

 閉じ込められた敵はこちらに向かって来ることしかできず、しかし、こちらは射程距離の秀でた大砲やバリスタを所持しているので一方的に攻撃ができるという算段なわけだ。

 一本道の場所で遠距離の攻撃に徹し、敵が疲労するまで待って降伏を促す。そうなれば、作戦も成功だ。

 しかし、問題はヴィルヘルムだ。退路を塞いだ岩を破壊される可能性もあるし、そもそも、正面からこちらが破られる可能性もあるのだ。

 あとは神のみぞ知ることである。
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