少年騎士

克全

文字の大きさ
上 下
2 / 47
第一章

第2話:冒険者組合

しおりを挟む
 僕たち3人は、5日間歩いてダンジョンのある王都にたどりつきました。
 僕たちの住む国は、全部の国民を合わせても1万人程度しかいないのです。

 ダンジョンと魔境から得られる富がなければやっていけない国なので、王都はダンジョンを守るように造られている。

 僕たちが魔境にもダンジョンにも遠い村の出身だったら、どちらで実戦訓練をしても良いのですが、家が魔境と接する村の者はダンジョンに行かなければいけません。
 故郷だと不正をする者が出ると言う理由で決められたそうです。

 僕たち3人は、厳めしい兵士が守る城門で検査を受けて王都の中に入りました。
 普通なら王都に入るのに小鈦貨1枚が必要なのですが、12歳の実戦訓練だけは税金が免除されます。

 ダンジョンに現れるモンスターを倒すと宝石と硬貨が手に入ります。
 硬貨は熔かして武器や防具、道具に造り替える事ができます。
 そのまま硬貨として使い、魔境で取れる食糧と交換する事もできます。

 僕たちの国に限らず、大陸全ての国々で共通する硬貨になっています。
 だからこそ、全ての国がダンジョンを手に入れようと狙っているのです。
 国が持っているダンジョンの数が、その国の強さにつながるからです。

 僕たちの国の首都は、他の小国に比べると人が多く、5000人もいます。
 これはダンジョンで手に入る宝石と硬貨のお陰なのです。

 宝石と硬貨を求めて商人がやってくるので、周囲に畑がなくても食糧を手に入れる事ができます。

 硬貨を鋳つぶして武器や防具、道具に加工する鍛冶職人が数多く集まります。
 当然の事なのですが、ダンジョンで手に入る富を求めて集まる冒険者も多いです。
 これに国が定めた12歳実戦訓練法が加わることで、首都に人が集まるのです。

「すみません、僕たち12歳になったので冒険者登録をします」

 3人を代表して僕が冒険者組合の受付に申請します。
 これでも騎士の子供だから、冒険者の職業欄が騎士になります。

「3人でパーティーを作られるのですか?」

「はい、パーティー名はグリフォンでお願いします」

「申し訳ありませんが、グリフォンを名乗られるパーティーが多いので、前に何かつけていただかないと受理できません」

 困った、よくある名前では通らないのか。

「じゃあ、シルバーグリフォンかブルーグリフォンでお願いします」

 後ろで聞いていたソフィアが受付のお姉さんに言ってしまった。

「リーダーの髪色から考えたの?」

 優しい笑顔を浮かべた受付のお姉さんが、僕を飛び越えてソフィアに話しかます。
 僕の国では、冒険者になりたての12歳には、とても優しく接します。

 全ての国民が12歳で実戦を体験し、最低でも鉄片級冒険者にならないと他の仕事につく事ができないから、昔の自分を見ている気分になるらしいです。

 まあ、国民すべては優しい訳ではなく、例外的に12歳の冒険者を虐めるクズもいるそうですが、そんな奴は誰からも相手にされなくなります。

「はい、リーダーにちなんだ名前にした方が良いと思いました」

「そう、だったらブルーグリフォンにしておくね。
 少なくともここでブルーグリフォンを名乗っているパーティーは他にいないから」

「ありがとうございます」

「貴女がソフィアね?」

「はい」

「槍、剣、弓、投石、神聖術、魔術の全てを初級まで使えるなんて優秀ね。
 その中でも中級まで使える神聖術士として登録するのね?」

「はい」

「上手く行けば半年で鉄片級になれるから頑張りなさい」

「ありがとうございます」

「次がアーサー君ね」

「はい、僕がアーサーです」

「貴男も槍、剣、弓、投石、神聖術、魔術の全てを初級まで使えるの?」

「はい、ご領主様が立派なお方で、領民全てに学ぶ機会を与えてくださるのです」

「そう、それは運が良かったわね。
 何も学ぶ機会がなく冒険者になる子もいるのよ」

「はい、生まれた村に残っていたらどうなっていた事か……」

「……移住したの?」

「はい、モンスターの群れに村が襲われた時に父が亡くなり、それまで耕していた畑を領主様が他に家に渡してしまわれたので、母に連れられて……」

「そう、苦労したのね……」

「でも、今の領主様が優しく迎え入れてくださり、母を館で働けるようにしてくださったので、安心して暮らせるようになりました」

 アーサーが父の事を手放しで褒めてくれるのはうれしいが、横にいるソフィアがニヤニヤとしだすし、僕はどのような表情で聞いていればいいのだ?!

「そう、一人前の兵士になって恩返ししなければいけないわね」

「はい!」

 事情を察したのか、受付のお姉さんがチラリと僕の方に視線を飛ばした。
 アーサーは僕の従者なんかじゃないぞ!
 お婆様が話しをつけているかもしれないけれど、僕にとっては大切な友達だ!

「職業は槍と剣が中級だから戦士にするのね?」

「はい」

「リーダーのハリー君が魔術騎士だから、戦士、魔術士、神聖術士とバランスの取れたパーティーな上に、何かあれば役目を変えられるのね」

「小さな頃から3人で畑に来る鳥を追い払っていました。
 最近では1羽も逃がす事なく狩れるようになっていました。
 できるだけ遠くから戦い始めるつもりです」

「そう、それを聞いて安心したわ。
 地元で早くから狩りを手伝っている子の中には、ダンジョンを舐めて痛い目を見る子がいるのよ。
 安全な距離をとって戦う気でいるのなら、間違っても死ぬことはないよね?」

「はい、何があっても生きて帰れと言われています。
 危ないと思ったら直ぐに逃げてきます」

 話好きなソフィアが、アーサーが答える前に答えてしまった。。

「「「「「ガッハッハハハハ!」」」」」

 冒険者組合の受付横にある食堂にいた人たちが、一斉に大笑いした。
 僕にはないソフィアの魅力を羨ましく思うのはこういう時だ。
 ソフィアは、何の企みもなく人の心をつかむ魅力を持っているのだ。

「それでいいぞ、命が1番大切だからな!」
「逃げるのは恥じゃないぞ、しっかり逃げ帰ってこい!」
「初冒険から戻ってきたら1杯奢ってやる」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!

克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...