上 下
43 / 52
第一章

第43話:魔術研究

しおりを挟む
 別に欲しくもなかった理事長代理という役職だが、あればいろいろ役に立つ。
 もちろん役職以上に属性竜素材と金が役に立っているのだが。
 今日も遠慮する事も自重する事もなく役職と経済力を利用している。
 命懸けの戦いの可能性も考えて、知識と戦闘力は高めておきたいのだ。
 隠さなければいけなのは実力であって、権力でも実力でもない。

「では実験を始めさせていただきます、理事長代理」

 目の前にいる執行導師と助手たちには権力と経済力を使っている。
 実験に必要な属性竜などの素材を提供する条件で、本来なら外部に漏らしてはいけない特別な魔術を俺に見せてくれる。
 だがこれもただの生徒では素材を提供しても許されなかった。
 学院の最高権力者の一角である理事長代理だから許される事だ。

「はい、はじめてください」

 今日教えてもらうのは植物や生物を異常成長させる魔術だ。
 古代魔術皇国時代に発見され使われていた魔術なのだが、現在では大陸連合魔術学院以外には伝わっていない。
 昔は穀物を促成栽培するのに普通に使われていたのだが、今では必要な素材を手に入れるのが困難過ぎて実用性に欠けている。

「呪文を合わせるんだぞ」

 執行導師が助手たちに厳しく命じている。
 滅多に手に入らない属性竜素材を使っているのに、助手たちのミスで実験を失敗させたくないのだろう。

「大丈夫だよ、成功するまでいくらでも素材は提供する。
 だから肩の力を抜いて、いつも通りやればいい」

 明らかに過剰に緊張している助手に言葉をかけてやった。
 このままでは確実に失敗するのが目に見えている。
 執行導師は感謝と恨みの半ばする複雑な視線を送ってくるが、知ったことか。
 俺は執行導師のために素材を提供したわけではない。
 何かあった時のために、穀物を大量に促成栽培する術を学びたいのだ。

「ありがとうございます、理事長代理」

 執行導師は助手に対する優位性よりも素材の確保を優先したようだ。
 俺はこの執行導師が少し好きになった。
 俺は目的のためなら下げたくない相手にも頭を下げられる人間が好きだ。
 自分の面目よりも目標を優先する人間が好きだ。
 
「気にしなくていいですよ執行導師殿。
 魔術の探求と復活のために資金を集めるのが理事長代理の役目です。
 私ができる範囲の資金援助は惜しみませんよ」

 特にこの術式は俺にはどうしても必要だ。
 今でも穀物の大量促成栽培ができないわけではない。
 だがそれは有り余る莫大な魔力を想像力に注ぎ込んだ力技だ。
 西洋医学の解剖学と生理学、東洋医学の五行論と経絡経穴、インド医学のアーユルヴェーダを組み合わせて手に入れた莫大な魔力量に頼っている。

 こちらから仕掛ける気は全くないのだが、王家が実家に戦争を仕掛けてきたら、国をまきこんだ大戦争になりかねない。
 そんなことになったら農業にも悪影響が出てしまい、飢える民が大量にでる。
 民に十分な食糧を与えられる方法を確保しておきたいのだ。
 今でもやれない訳ではないが、王家との国内戦争が始まれば、隣国が攻め込んでくる可能性もあるから、魔力を節約する方法があるのなら手に入れておきたいのだ。

「ありがとうございます、理事長代理。
 理事長代理が望まれる術式は全て再現させていただきます」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】

小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。 しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。 そして、リーリエルは戻って来た。 政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

処理中です...