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第二章

第74話:調略

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「ボリングブルック女伯爵閣下、我が国の王からの親書でございます」

 国境に十万もの軍勢を終結させておいて、親書とは笑わせてくれます。
 ですが、これもグレアムが教えてくれていた可能性の一つです。
 何の想定もしていない状況で、不意を突かれたわけではありません。
 私が病気療養と称してこの地に籠って三カ月目に、近隣諸国に派遣していた密偵から、アルイカイダル王国とシリス王国が侵攻の準備をしていると知らせてきました。
 ロジャー第一王子は、先手を打つために、謀叛人達を討伐するという大義名分で即座にアルイカイダル王国に侵攻しました。

 ロジャー第一王子のあまりにも素早い動きに対応できなかったのか、それとも我が国が防衛策を取ると思っていたのか、アルイカイダル王国軍は防戦一方で撤退に次ぐ撤退を繰り返す一カ月でした。
 その撤退が、ロジャー第一王子をアルイカイダル王国奥深くに誘い込んで、直ぐに撤退できない状況にしておいて、シリス王国が奇襲をかける作戦だという可能性は、グレアムだけでなく多くの人間が考えていたのです。
 だからこそ、私は領地での病気療養が許されていたのです。

「この親書には、シリス王国に味方をすれば、実家のデヴォン侯爵家には第四王女が降嫁して、ライアンとの間に生まれた子供に王位継承権が与えられると書いてありますが、間違いありませんか」

「間違いございません、ボリングブルック女伯爵閣下。
 他に年長の王子殿下や王女殿下がおられますので、それほど高い王位継承権ではございませんが、王族と認められる事になります」

 親書を持ってきた騎士は、私が自分の待遇も確認すると思っているようです。
 私には第四王子が婿入りして、私との間に生まれた子に公爵を継がせるそうですが、それは我が家を乗っ取ると言っているも同然です。
 それに、一度主家を裏切った家を心から信じる王族はいません。
 我が一族を滅ぼす機会を虎視眈々と狙う事でしょう。
 私がそれくらいの事も分からない馬鹿だと思っているのでしょうか。
 それとも、十万の大軍で脅せば恐れて尻尾を振ると思ったのでしょうか。
 
「この物騒な時期に、親書を届ける大役ご苦労でした。
 ですが使者殿、こう見えて私は我が国のロジャー殿下とビゴッド殿下、ムーラン王国のウィリアム殿下に求婚されている身です。
 その気になれば、明日にでも王妃に成れるのです。
 それを、何を好き好んで、謀叛人に味方して火事場泥棒をするような、恥知らずな国の第四王子を婿に迎えないといけないのです。
 私をシリス王国にいる尻軽令嬢と同じにしないでください」

「……今の言葉、後悔されますぞ、ボリングブルック女伯爵」

「命が惜しんで卑怯なふるまいをするようなら、最初からこの地に来ていませんよ。
 私は最初から死に事も覚悟して、王都からこの地に来ているのです。
 次は戦場で相見えましょう、使者殿」
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