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第二章

第43話:大勝利

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「アグネスお嬢様、ロジャー殿下が大勝利されたそうでございます」
 
 ビゴッド第二王子のあからさまな好意に私の命が危険を感じた家臣達が、役目と爵位を返上して領地に戻るように勧めてくれました。
 ヘンリー第三王子の婚約者にさせられて以来の辛い日々もあり、これ以上王族の我儘に付き合わされるのが嫌だったので、勧められるまま領地に戻ってきました。
 領地に戻ってから一週間ほどしか経っていませんが、腹の探り合いや罠を巡らせた社交に参加する必要もない、穏やかに過ごせる日々はとても幸せです。
 ただ、私の我儘が家や領民に迷惑をかけてしまうかもしれません。

「グレアム、あの時は領地に戻った方がよいと思ったのですが、ロジャー殿下に許可を貰った方がよかったのではないの」

「そのような心配は全く必要ありません、アグネスお嬢様。
 ロジャー殿下には、臣から手紙を送らせていただいております。
 ビゴッド殿下の露骨な好意により、アグネスお嬢様に幾人もの刺客が放たれた事で、お嬢様が心労により倒れられたので、役目と爵位を返上したうえで領地で療養すると書いておきました。
 お嬢様や伯爵家を咎める前に、ビゴッド殿下を叱責されます」

「グレアム、そのような手紙を届けてしまったら、ロジャー殿下とビゴッド殿下の間で争いが起こってしまうのではないの。
 それが激しくなり、王国を二分するような戦争になってしまうのでは……
 ないわよね、流石に私程度の事で戦争など起こらないわよね」

 ロジャー第一王子と元婚約者のヘンリー第三王子との間で戦争が起きたけれど、あれは私への好意で始まったのではなく、王位継承争いからの戦争だものね。

「古来より美しい女性を求めての戦争は少なからずありました。
 臣はアグネスお嬢様を争って戦争が始まる可能性を否定しません」

「グレアム、そんな恐ろしい話を断言しないで頂戴」

「しかしながら、ロジャー殿下とビゴッド殿下は愚かな方ではないので、決定的にアグネスお嬢様に嫌われるような事はしないと思われます」

「何でそのような理由で戦争が回避されるのですか。
 家臣や国民のために戦争を回避するというのが賢明な方の考えでしょう。
 まあ、いいです、理由はともあれ、グレアムが戦争はないと断言してくれるのなら安心です。
 我が家が戦争に巻き込まれ、領民が苦しむのだけは絶対に許せませんから」

「ただ、決定的に嫌われるような事はされないでしょうが、アグネスお嬢様に対する愛情が無くなる事はございません。
 手を変え品を変え、お嬢様の好意を獲得しようとされるでしょう。
 特にロジャー殿下は少々強引な手段を使ってでも好意を得ようとなされます。
 お嬢様も覚悟しておかれた方がいいと思います」

「物騒な事を言わないで、グレアム」
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