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第一章
第36話:プレゼント
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「やあ、毎日皇帝陛下の介護ご苦労だね、これはささやかなプレゼントだよ」
ビゴッド第二王子は、皇帝陛下の見舞いという体裁で、ロジャー第一王子が出陣されてから毎日この部屋にこられます。
皇帝陛下が暗殺される事のないように、夜はビゴッド第二王子がこの部屋に詰められておられるのですから、日中は休むか政務するのが普通です。
それが、まだ三日とは言え、毎日この部屋に来るのは明らかに異常です。
「役目を果たさせていただいているだけですのに、恐縮です、殿下」
ビゴッド第二王子が満面の笑みと共に渡してくれたのは、今日も花です。
王城内にある温室で育てられた花なのか、それとの路地で育てられた花なのか、私にはそんな違いまでは分かりませんが、とても奇麗なのは確かです。
そして、今日頂いた花が季節外れだという事くらいは分かります。
少なくとも今日頂いた花は温室で育てられた花なのでしょう。
もしかしたら、魔力で咲く時期を調節したのかもしれません。
だとしたら、とても貴重な花という事になります。
「このような貴重な花を頂いては身に余ります。
もうお気づかいしていただかなくて大丈夫でございます」
「そんなに気にしなくても大丈夫だよ、アグネス嬢。
元々僕は美しいものが大好きで、この花も僕が育てたのだよ。
だから貴重だというのは気にしないくれ」
「ありがとうございます、殿下。
殿下が手づから育てられたお花なら、さぞ欲しがる令嬢もおられるでしょうに、私のような者のためにお持ちくださり、感謝の言葉もありません」
「いやだなぁ、そんな堅苦しくならないでよ。
花は奇麗な人の元で咲くのが一番美しいと思っただけなのだから」
「いえ、いえ、私ごときを美しいなどと言っていただくと、百花繚乱のような令嬢方が怒られてしまいます。
どうか明日からは気を使われませんようにお願いいたします」
「いやだなぁ、そんなに遠慮しなくてもいいんだよ。
それに、令嬢方に怒られる心配なんていらないよ。
令嬢方が願っているのは王子の正室、将来王妃になれる結婚だからね。
王位に就くのは兄上だから、俺が何をしようと誰も気にしないさ」
確かに、ビゴッド第二王子が常にロジャー第一王子を立てているからこそ、ヘンリー第三王子派が付け込む隙がないのです。
もしビゴッド第二王子が、ロジャー第一王子に対抗して王位を望むような態度を取っていたら、貴族達は今よりももっと酷い後継者争いをしていた事でしょう。
そのような事になっていたら、この国はとんでもない騒動になっていました。
近隣諸国はもっと露骨な介入を行い、国土は荒れ果て、民は塗炭の苦しみを味わっていた事でしょう。
「殿下の賢明な判断を心から称賛させていただきます」
だからこそ、私の好意を得るための争いなどと言う、何の価値もない事をさせる訳にはいかないのです。
ロジャー第一王子があれほど念を押された、王城を留守にしている間に親しくなるなという言外の言葉を、無視するわけにはいかないのです。
いっそ私がこの国から逃げ出した方が民の為なのかもしれませんね。
ビゴッド第二王子は、皇帝陛下の見舞いという体裁で、ロジャー第一王子が出陣されてから毎日この部屋にこられます。
皇帝陛下が暗殺される事のないように、夜はビゴッド第二王子がこの部屋に詰められておられるのですから、日中は休むか政務するのが普通です。
それが、まだ三日とは言え、毎日この部屋に来るのは明らかに異常です。
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「そんなに気にしなくても大丈夫だよ、アグネス嬢。
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「ありがとうございます、殿下。
殿下が手づから育てられたお花なら、さぞ欲しがる令嬢もおられるでしょうに、私のような者のためにお持ちくださり、感謝の言葉もありません」
「いやだなぁ、そんな堅苦しくならないでよ。
花は奇麗な人の元で咲くのが一番美しいと思っただけなのだから」
「いえ、いえ、私ごときを美しいなどと言っていただくと、百花繚乱のような令嬢方が怒られてしまいます。
どうか明日からは気を使われませんようにお願いいたします」
「いやだなぁ、そんなに遠慮しなくてもいいんだよ。
それに、令嬢方に怒られる心配なんていらないよ。
令嬢方が願っているのは王子の正室、将来王妃になれる結婚だからね。
王位に就くのは兄上だから、俺が何をしようと誰も気にしないさ」
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ロジャー第一王子があれほど念を押された、王城を留守にしている間に親しくなるなという言外の言葉を、無視するわけにはいかないのです。
いっそ私がこの国から逃げ出した方が民の為なのかもしれませんね。
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