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第一章
蛇の弥五郎6
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夜の友吉一味を単独で捕縛した七右衛門は、御奉行に褒賞された。
武士になったばかりであり、初出仕からから二ケ月ほどでの快挙だった。
幕府が蛇の弥五郎一味の苦慮していたので、幕閣にまで名前が伝わった。
普通は許されない紫の房を、十手に飾る事が許された。
古参の与力同心のやっかみが怖かった。
南北両町奉行所の古参与力と古参同心が、七右衛門に対抗心を燃やした。
それは火付け盗賊改めの与力同心も同じだった。
だが夜の友吉一味を最後に、商家への襲撃がピタリとやんだ。
余りに厳重な夜回りに、盗賊達が鳴りを潜めたのだ。
誰だって命は惜しいのだ。
盗賊の蠢動が病んで一ケ月経ったが、幕閣は非常態勢を解く事ができなかった。
ここで非常態勢を解いて、蛇の弥五郎一味が再び暴れ出せば、幕府の威信は地に落ちてしまう。
何としても捕縛しなければならないと躍起になっていた。
だが蛇の弥五郎一味の行方は杳として知れなかった。
「七右衛門様。
私に夜の友吉一味を調べさせて頂けませんか」
稲荷神社の神使が化身した文が、不意に七右衛門に願い出た。
着替えを手伝ってもらっていた七右衛門は、不意を突かれて即座に断る事ができなかった。
「何故そんな事を頼むのです?」
「もしかしたら、拷問では自白させられない秘密があるかもしれません。
私なら、それを白状させる事ができるかもしれません」
確かに神使の文なら、どのような秘密でも自白させられるかもしれない。
だが、女の文に取り調べなどさせられない。
若党と中間は、今回の事件もあって、十手を預けられていた。
だから堂々と奉行所内に入る事ができるようになっていた。
だが流石に女は無理だった。
「だが、女を取り調べの場に入れるわけにはいきません。
ありがたい提案ではありますが、無理です」
「あら、何を言っておられるのですか。
神使の私に性別などありませんよ。
七右衛門の奥を護るために女に変じていますが、必要なら男に化身いたします」
七右衛門には衝撃の事実だった。
神使に性別がないなどと言うのは初耳だった。
それが本当かどうかは分からないが、確かに狐は化ける生き物だ。
男であろうと女であろうと、自由自在なのだろう。
最初の返事に失敗したのが分かった。
「しかし、私の家臣八人は、既に奉行所に届けております」
「今は非常時ではないのですか?
御奉行様も、七右衛門様が捕り物のために家臣を増やしたと聞けば、お喜びになられるのではありませんか?」
七右衛門は、文はやはり女だと確信した。
こんな簡単に自分が言い負かされるのは、女だからなのだと思うしかなかった。
武士になったばかりであり、初出仕からから二ケ月ほどでの快挙だった。
幕府が蛇の弥五郎一味の苦慮していたので、幕閣にまで名前が伝わった。
普通は許されない紫の房を、十手に飾る事が許された。
古参の与力同心のやっかみが怖かった。
南北両町奉行所の古参与力と古参同心が、七右衛門に対抗心を燃やした。
それは火付け盗賊改めの与力同心も同じだった。
だが夜の友吉一味を最後に、商家への襲撃がピタリとやんだ。
余りに厳重な夜回りに、盗賊達が鳴りを潜めたのだ。
誰だって命は惜しいのだ。
盗賊の蠢動が病んで一ケ月経ったが、幕閣は非常態勢を解く事ができなかった。
ここで非常態勢を解いて、蛇の弥五郎一味が再び暴れ出せば、幕府の威信は地に落ちてしまう。
何としても捕縛しなければならないと躍起になっていた。
だが蛇の弥五郎一味の行方は杳として知れなかった。
「七右衛門様。
私に夜の友吉一味を調べさせて頂けませんか」
稲荷神社の神使が化身した文が、不意に七右衛門に願い出た。
着替えを手伝ってもらっていた七右衛門は、不意を突かれて即座に断る事ができなかった。
「何故そんな事を頼むのです?」
「もしかしたら、拷問では自白させられない秘密があるかもしれません。
私なら、それを白状させる事ができるかもしれません」
確かに神使の文なら、どのような秘密でも自白させられるかもしれない。
だが、女の文に取り調べなどさせられない。
若党と中間は、今回の事件もあって、十手を預けられていた。
だから堂々と奉行所内に入る事ができるようになっていた。
だが流石に女は無理だった。
「だが、女を取り調べの場に入れるわけにはいきません。
ありがたい提案ではありますが、無理です」
「あら、何を言っておられるのですか。
神使の私に性別などありませんよ。
七右衛門の奥を護るために女に変じていますが、必要なら男に化身いたします」
七右衛門には衝撃の事実だった。
神使に性別がないなどと言うのは初耳だった。
それが本当かどうかは分からないが、確かに狐は化ける生き物だ。
男であろうと女であろうと、自由自在なのだろう。
最初の返事に失敗したのが分かった。
「しかし、私の家臣八人は、既に奉行所に届けております」
「今は非常時ではないのですか?
御奉行様も、七右衛門様が捕り物のために家臣を増やしたと聞けば、お喜びになられるのではありませんか?」
七右衛門は、文はやはり女だと確信した。
こんな簡単に自分が言い負かされるのは、女だからなのだと思うしかなかった。
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