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第一章

第12話:若衆頭・サーレス・ヴァシュタール

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「今度新しくこの一帯の領主となったアグネス・グロブナよ。
 今までの領主とは違って対等の付き合いをしたいわ。
 分かってくれるわね」

 イーシスは口ではそんな事を言っていますが、やってる事は違います。
 彼らを威圧し脅かしているとしか思えません。
 交渉前に私や領民に言っていた事とは全く違います。
 
(仕方ないでしょ、ミンスタ王国はこの人達を虐殺し続けてきたわ。
 最初は武威を見せないと人質にされてしまうわ。
 心を読んだら彼らはそういう感情だったの。
 対等に付き合うための威圧よ)

 ああ、王家王国の愚行が私達を苦しめるのね。
 どうすればいいのでしょうか、などと考える必要はありませんね。
 全部イーシスに任せてけば大丈夫です。
 そう安心できるだけの力をイーシスは示してくれています。
 なんと言っても彼らの前でゴーレム軍団を創り出したのですから。

「……そんな事を言いながら、また戦士を殺し女子供を奴隷のするのではないか。
 もしそうなら、相手が大呪術師であろうと戦う。
 戦士の誇りにかけて民を護って戦う」

 本当なら彼らの使う言葉は私には分かりません。
 ですがイーシスが理解できる事は私も理解できるようです。
 本当に便利で驚きます。
 そして魔術を使っているのか、彼らの本心も分かります。
 彼ら全員が誇り高い戦士ではありません。
 中には下劣な心を持っている者もいます。

 ですがそれは普通の事です。
 むしろミンスタ王国の社交界では下劣なのが常識でした。
 それに比べれば半数以上の戦士が誇り高い事が信じられません。
 特に戦士を率いる漢の気高さには圧倒される思いです。
 年齢は三十歳弱に見えます。
 身長は一八〇センチほどでしょうか。
 顔には刀傷が残っていますが、それでも美丈夫としか言えません。

「そんな事はしないわ、約束は絶対に守るわよ。
 貴方方の信じているの精霊や神々の支援なしにこんなことができるかしら。
 ゴーレムが創り出させた時点で、彼らの承諾があるという事よ」

「……残念だが、精霊や神々にも悪いモノがいる。
 ミンスタ王国に味方をする精霊や神々がいるのだ。
 ゴーレムを創り出したからと言って信じる事はできない」

 哀しみと悔しさに満ちた心が伝わってきます。
 彼らが信じる精霊や神々がミンスタ王国から助けてくれなかった事が原因です。
 ただイーシスが教えてくれた知識から考えれば、それも仕方のない事です。
 精霊や神々に人間に対する分け隔てなどありません。
 定められた手順を守って呪文を唱え言霊を込めるか心で想えば、精霊や神々の力を借りて魔術が発動できるのです。
 本人の魔力次第では精霊や神々の手助けすら不要なのです。
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