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第一章

第42話:聖ミユキ王国連合

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アバディーン王国歴101年3月25日、王都王城王宮、深雪視点
アバディーン聖国歴元年3月25日、王都王城王宮、深雪視点

「アバディーン聖国の盟主であり、聖女ミユキ王国連合の盟主でもあられる、救世の聖女深雪猊下御入場」

 恥ずかしくて逃げ出したいのですが、逃げられません。
 私の願いを聞いたカーツ様が、民の損害を出さないようにしてくださったのです。
 恥ずかしいくらいの事で、全てを台無しにするわけにはいきません。

 それに、実は、恥ずかしく思わなければいけない人は半分もいません。
 各国の王と王族、有力貴族しか集まっていない場なのですが、叛乱を起こさせないように、有力貴族も影武者と入れ替わっているのです。

 アバディーン王国に侵攻してきた時に捕虜になった王侯貴族士族が、身代金を払って解放された形になっていますが、実は使い魔が化けた影武者なのです。

 他にも、影武者王が決めた聖女ミユキ王国連合への加盟に反対する貴族が、カーツ様の使い魔に誘拐されて影武者と入れ替わっています。

 だから、他人の目を恐れる事も恥ずかしがることもありません。
 半数以上、いえ、よく見ると9割は影武者です。
 報告は受けていましたが、実際に見ると、とんでもないです。

 王国連合に加盟したのは、カーツ様に迎撃された国々です。
 人口順に並べると以下のようになります。

インチャイラ王国ミラー王家が1億人
シルソー王国エヴァ王家が3000万人
グレンデヴォン王国ホープ王家が1000万人
マートンミア王国ロビンソン王家が30万人
フリート王国トムソン王家が20万人
シェフィールド王国マーキンズ王家が20万人
イングルウッド王国フレッチャー=ヴェーン王家が10万人

 小国家群の4カ国は数に入れて良いのか分かりませんが、人口1000万人以上の国は、大陸でもかなり力の有る大国です。

 インチャイラ王国は大陸1と言ってもおかしくない大国です。
 少なくとも人口3000万人のアバディーン王国よりは軍事力がありました。
 精霊の加護がなければ、建国時に滅ぼされていた事でしょう。

「カーツ様、何度も同じ事を聞いて申し訳ないのですが、本当に大丈夫でしょうか?
 これまで激しく対立していた、インチャイラ王国とシルソー王国が連合に加盟するなんて、他の国々がおかしく思うのではありませんか?」

「大丈夫でございます、聖女深雪様。
 両国ともに我が国に主力軍が大敗しております。
 しかもその主力軍が捕虜として捕らわれているのです。
 その後で、我が国の精鋭部隊が王と王族を誘拐しています。
 何十日ものあいだ、王も王族も不在で国内が大混乱していました。
 これらの事は動かしがたい事実で、多くの国の密偵が本国に知らせています。
 隣国の侵攻を恐れるなら、我が国を含めた王国連合に加盟するしかないのです」

「そうなのですね、軍事や外交についてはよく分かりませんが、王国連合が戦争につながらないのなら良いのです。
 それと、さっき話に出た捕虜の事ですが、国に帰してあげられませんか?」

「聖女深雪様がどうしても帰せと申されるのでしたか帰しますが、その時は彼らに犯された女性たちがまた犯されるかもしれません。
 家財を奪われた民がまた家財を奪われるかもしれません。
 家族を殺されるなかでようやく生き残った人たちが、今度こそ殺されるかもしれまませんが、その時に苦しまれませんか?」

「え、カーツ様が民に被害が出ないようにしてくださったのですよね?
 使い魔たちが完璧に民を守ってくれたのですよね?!」

「我が国、まだアバディーン王国だった頃の民は、完璧に守りました。
 ですが、彼らが自国内を移動中に行った悪逆非道な行為は止められません。
 その国の王や領主が許可した、戦時移動中の徴発と称して行われた、人の道に外れる行為を止める権利は、私にはなかったのです」

「カーツ様は、罰を与える権利がないのに、捕虜にしているのですか?」

「捕虜にしている罪状は、侵略行為です。
 武装して他国に侵攻し、領地を占拠しました。
 国、領地、民の財産を奪い破壊しました。
 それらの侵略行為に対する罰として、捕らえて犯罪者奴隷としているのです。
 普通なら処刑するような大罪ですが、殺してしまっては罪を償わせられないですし、損害を補う事もできませんので、重労働をさせております。
 その全てを無視して解放しろと申されるのでしたら、解放して帰国させます。
 本当にそれで良いのですね?」

「私が悪かったです、これ以上責めないでください。
 カーツ様が適当と思われる罰を与えてくださって結構です。
 もう2度と訳も分からずに口出ししたりしませんから、許してください」

「いえ、これからもおかしいと思った事は全て口出ししてください。
 私はつい厳しい罰を与えてしまう性格です。
 行き過ぎてしまうといけませんから、聖女の慈愛で確認してください」

「その度にこんな思いをしなければいけないのですか?」

「聖女深雪様の性格でしたら、確かめないと胸が痛み続けるのではありませんか?」

「……そうかもしれません」

「だったら聞くと決めておかれた方が良いですよ」

「カーツ様がそう言ってくださるのでしたら、遠慮せずに聞かせていただきます」

「それが良いと思います、何と言っても聖国も王国連合も聖女深雪様の国ですから」

「もうやめてください!
 本当は私の名前を使うのは嫌だったのです。
 カーツ様が、私の名前を使わないと、少なくない数の民が内乱に巻き込まれて死ぬと申されたから、恥ずかしいのを我慢しているのではありませんか!」

 これからも聖女のフリを続けるしかありません。
 カーツ様を騙し続けるのは心苦しですが、こんな風にいつも側にいてくださるのは、私が聖女らしく振舞っているからですもの。
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