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第一章

第5話:逃げたいが……

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アバディーン王国歴100年8月22日、王都王城王宮、マーガデール侯爵視点

 失敗した、失敗した、失敗した、媚び諂う相手を間違った!
 種豚王太子ではなく、カーツ公子に媚び諂うべきだった!

 そもそも王家が悪いのだ、少しでも権威をつけたいからって、契約した精霊が最下級なのを最上級と嘘をついていやがった!

 知っていたら、最上級精霊に賄賂を贈っていた。
 いや、使い走りの精霊など飛ばして神々に賄賂を贈っていた。

 今から神々に取り入る事はできないだろうか?
 この世界の管理は精霊が任されていると言っていたが、本当だろうか?
 少なくともカーツ公子が神々と接触していると言っていた。

 カミラはカーツ公子を裏切ってチャールズ王太子を選んだ。
 流石に元通りの婚約者にするのは無理だ。
 女を使うのなら、よほどの美女を連れて来て養女にするしかない。

 そんな良い女が上手く見つかればいいが……
 それに、カミラが王太子との仲を見せつけても歯牙にもかけなかった。

 召喚聖女をあれほど大切にしていたから、他の女には興味がないのかもしれない。
 ミユキを誘拐して人質にすれば何とかなるか?
 いや、怒らせてしまうだけだな。

 女を使うのが無理なら金か地位だが、金で釣れるのか?
 上位精霊を名乗っていた奴が、最下級精霊は金銀財宝を捧げられて堕したと言っていたから、神々に認められたカーツ公子を金で釣るのは無理だろう。

 残っているのは地位だけだが、追放される時も公子の地位に拘っていなかった。
 公爵程度では釣れないだろう。

 愚かなレンウィック公爵が、大公の地位を得ようとカーツ公子を見殺しにしたのと同じように、大公の地位に目が眩んでくれたらいいのだが……

 とても大公程度の地位で釣れるとは思えない。
 釣れるとすれば、王太子か王だろうが、地位に興味があるようには見えなかった。
 だが、カーツ公子を王につける事ができれば、上級精霊を抑えられる。

 昨日の事を思い出せば、上位精霊すらカーツ公子を恐れていた。
 長年王家王国を守っていた、建国王の精霊を瞬殺した上位精霊がだ!
 そうだ、あれを思い出せば取り入る相手は明らかだ!

 カーツ公子に取り入らなければいけない事ははっきりしたが、問題は方法だ。
 女、金、地位に効果がなくても、何かあるはずだ。

 ……恨み……復讐……チャールズ王太子とカミラ、私と王を罵倒していた。
 恨みを晴らす復讐には反応を示していた!

 チャールズ王太子とカミラを差し出して好きにさせる。
 こちらで勝手に処分したら、私と王に矛先が向かってくる。

 王も差し出したいが、取り入るのに失敗した時に掲げる神輿が無くなる。
 王を処分するのは最後の最後、カーツ公子に取り入れられると分かってからだ。

 それと、カーツ公子に取り入れられなかった時の事も考えておかないと!
 精霊に狙われた王家や王国と共に滅ぶ気はない。
 国境を接する全ての国に逃走先を準備しておく。

「閣下、宰相閣下、大変でございます!」

「何事だ、また上位精霊様が現れたのか?!」

「上位精霊様ではありません、虫です、大量の虫が現れました!」

「まさか、蝗か、草木だけでなく家畜も人間も食い殺す蝗が現れたのか?!」

「はい、大量の蝗が王都を取り囲んでいます」

 もう逃げるか、本物の聖女を追放してしまった以上、防御結界も役立たずだ。
 カミラが聖女でない事は、私が誰よりも知っている。
 今は王国の魔力持ちが防御結界を維持しているが、直ぐに破られるのは明白だ。

「閣下、王太子殿下がお呼びです」

「『今は忙しくて手が離せない』と言っておけと申し付けただろう!」

「そう御伝えしたのですが『次期国王の言う事が聞けないのか』と申されて、剣を抜いて暴れておられます」

『斬り殺してしまえ』と言いたいのだが、私が勝手に殺してしまう訳にはいかない。

「騎士に命じて取り押さえろ、王太子ごとき簡単に捕らえられるだろう!?」

「それが、騎士の多くが王宮から逃げ出していまして……」

「な、ん、だ、と、王宮勤めの騎士が逃げ出しているのか?
 種豚が集めたクズ共、王太子近衛騎士団だけではなくてか?」

「王城や王都を守る騎士も逃げ出しております。
 ……恐れながら、宰相閣下の騎士も……」

「な、わたしの、私の騎士も逃げ出したと言うのか?」

「……はい、それで王太子殿下を押し止められなくなっております」

「マーガデール、マーガデールはどこだ、俺様に探させるとは、不敬だぞ!」

 やかましいわ、無能な種豚が!

「こちらでございます、私はこちらで蝗害の対策を考えております」

「考えているだと、さっさと何とかしろ!」

「そうしたいのは私も同じのですが、相手が蝗ではなかなか良い手がないのです」

「それでよく宰相に居座っているな!
 何の策も打てないのならさっさと宰相を辞めろ、無能!」

 何の策も打てないのはお前も同じだろう、種豚!

「閣下、宰相閣下、国王陛下が政務の間にお呼びです」

「分かった、直ぐに行く。王太子殿下も一緒に行かれますか?」

「行く、役立たずの宰相を辞めさせないといけないからな!」

 辞めさせるならお前だ、種豚!
 お前を廃嫡にしてカーツ公子を王太子に立てられれば、全て上手く行くのだ!

「そうでございますね、今後の事を陛下に相談しなければいけません。
 それと、カミラはどうしました?
 王太子殿下をお慰めすると言っていたのですが?」

「なんだと、知らぬ、余の部屋には来なかったぞ!」

 あれほど種豚に取り入っていたカミラが行っていないだと?!
 ……逃げたのか、さっさと種豚に見切りをつけて逃げたのか?
 私よりも早く見切りをつけて逃げ出したと言うのか!

「どうした、カミラが何かしたのか?」

「何でもございません、殿下の所に伺う準備に手間取っているのでしょう。
 それよりも、これ以上国王陛下をお待たせしてはいけません。
 直ぐに政務の間にお伺いいたしましょう」

「そうだな、役立たずの宰相を辞めさせないとな」

 種豚とカミラを捕らえて幽閉するつもりだったが、我が家の騎士団まで逃げ出しているとなると、もう捕らえられないかもしれない。

 まだ王宮に残っている騎士や徒士は、忠誠心が厚い連中だけだ。
 種豚が集めた、役立たずの王太子近衛騎士団なら、我が家に残っている騎士や兵士でも簡単に蹴散らせるだろうが、忠義の騎士や徒士が相手では勝ち目がない。

「チャールズ王太子殿下、宰相閣下御入室」

 真剣に今後の事を考えているうちに政務の間についてしまっていた。
 何か妙手があれば良いのだが、全く思い浮かばない。

 カミラが先に逃げ出してしまっているなら、カミラと王太子を差し出してカーツ公子に取り入るのは無理だ。

 王太子と王を差し出しても、確実に取り入れられるとは言い切れない。
 ここは何か理由をつけて逃げ出すしかない。
 そうなると、種豚が私を解任してくれるなら好都合だ!

「父上、こいつは何の役にも立たない、さっさと首にしてしまおう」

「馬鹿は黙っていろ!
 血を受け継いだ子供だから王にしてやるが、自分が馬鹿な事くらい自覚しろ!」

 けっ、馬鹿が自覚できる馬鹿など、この世界にいるものか!

「殿下の申される通りでございます。
 このような事態を招いたのは、娘がカーツ公子を裏切ったからでございます。
 責任を取って宰相を辞し、領地に戻って隠棲させていただきます」

「自分だけ逃げようとしても無駄だ。
 カーツはもちろん、上位精霊がそんな事を許すとでも思っているのか?
 王家王国を見限って逃げようとした連中も同じだ。
 王都の城門を出た途端、蝗に身体中を喰われて地獄の苦しみを味合わされた。
 ご丁寧な事に、死ぬ事無く城門の中に叩き帰されている」

「え、では、王宮から逃げ出したと言う騎士や徒士は?」

「もちろん全員身体中の肉を喰われて苦痛にのたうっておるわ!
 騎士や徒士だけではない、貴族も王宮勤めの使用人も、身体中を喰われて苦しんでいる、王城を出られるのは善良な平民だけだ!」
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