上 下
13 / 16
第一章

第13話:半信半疑・バーツ視点

しおりを挟む
「兄上はそう申されますが、信じられません。
 あの王弟殿下が初心で女性と話すのが苦手なんて、信じられるわけがありません。
 それも、あんな事をなされた後でですよ。
 アレグザンドラには平気で脅していたではありませんか」

 やれ、やれ、なかなか信じてもらえないか。
 まあ、万夫不当の猛将とか、天下無双の剛将とか呼ばれていたからね。
 好きな令嬢には緊張して顔が強張り話しかけられないなんて、信じられないよな。

「アレグザンドラは国を蝕む獅子身中の虫だからだよ。
 アレグザンドラは女性として見られていないんだよ。
 国の敵、斃すべき相手として見られていたんだよ」

「信じられません、ええ、信じられませんとも。
 アレグザンドラが美しい事は、姉である私がよく知っています。
 ずっと比べられ陰口を言い続けられた私が誰より一番知っていますとも」

 まいったな、心がこじれちまっているな。
 まあ、確かに、アマーリエは兄の私から見ても美しくない。
 いや、言葉を飾るのは止めよう。
 エヴァンズ公爵家の権力がなければ結婚相手に困るくらいブスだ。
 だが相手はあの王弟殿下なのだ。

「ああ、アマーリエは知らないだろうが、王弟殿下は特殊な眼をお持ちなのだ。
 人間の心の美しさが見えてしまうのだよ。
 だから王宮での社交には参加されなかったのだ。
 アマーリエも社交の場にいる王侯貴族の汚さは知っているだろ。
 姉なのだから、アレグザンドラの心の汚さも知っているだろ。
 王弟殿下から見ればアレグザンドラは汚物同然なのだよ」

「まさか、王弟殿下にそんなお力があるのですか。
 確かにそれならアレグザンドラを嫌うのは分かります。
 分かりますが、信じられません」

 困ったな、信じたいけど信じた後で騙されていたのが分かるのが怖いのだな。
 ロバート王太子の裏切りや王侯貴族の陰口が心の傷になっているのだろうな。
 その傷に触れられるのが怖いのだろう。
 さて、どうしたモノだろう。

「なあ、アマーリエ、直ぐに信用しろとはもう言わない。
 だが試してみてはどうだ。
 私を信じて、王弟殿下と少し付き合ってみればいい。
 もし私が嘘をついていたら、逃げればいいんだよ。
 嘘をついてアマーリエを利用しようとした私の事など気にしないで、この国を捨てて逃げればいいんだよ。
 それに、そうだな、もし私まで騙されていたなら、手伝うよ。
 アマーリエが自由に生きられるように、この国から逃げるのを手伝うよ。
 だから殿下とデートしてごらん」

「……分かりました。
 兄上がそこまで言われるのなら、王弟殿下とデートしてみます」

 やれ、やれ、手のかかる妹だ。
 妹といい王弟殿下といい、厄介な性格の二人がこの国の支柱になるのか。
 私が支えてやらないといけないな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王城の廊下で浮気を発見した結果、侍女の私に溺愛が待ってました

メカ喜楽直人
恋愛
上級侍女のシンシア・ハート伯爵令嬢は、婿入り予定の婚約者が就職浪人を続けている為に婚姻を先延ばしにしていた。 「彼にもプライドというものがあるから」物わかりのいい顔をして三年。すっかり職場では次代のお局様扱いを受けるようになってしまった。 この春、ついに婚約者が王城内で仕事を得ることができたので、これで結婚が本格的に進むと思ったが、本人が話し合いの席に来ない。 仕方がなしに婚約者のいる区画へと足を運んだシンシアは、途中の廊下の隅で婚約者が愛らしい令嬢とくちづけを交わしている所に出くわしてしまったのだった。 そんな窮地から救ってくれたのは、王弟で王国最強と謳われる白竜騎士団の騎士団長だった。 「私の名を、貴女への求婚者名簿の一番上へ記す栄誉を与えて欲しい」

嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜

悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜 嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。 陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。 無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。 夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。 怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……

【完結】地味と連呼された侯爵令嬢は、華麗に王太子をざまぁする。

佐倉穂波
恋愛
 夜会の最中、フレアは婚約者の王太子ダニエルに婚約破棄を言い渡された。さらに「地味」と連呼された上に、殺人未遂を犯したと断罪されてしまう。  しかし彼女は動じない。  何故なら彼女は── *どうしようもない愚かな男を書きたい欲求に駆られて書いたお話です。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです

あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」 伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...