上 下
5 / 16
第一章

第5話:目には目を歯には歯を

しおりを挟む
「ちゃんと理由を言わないか。
 正当な理由があるのならこの頭を地につけて詫びるぞ。
 どうしたのだ、まさかちゃんとした理由もなしに私を非難したのか。
 その口は嘘偽りや悪口陰口しか喋れないのか。
 そのような口は不要どころか迷惑しか生み出さないな。 
 舌を抜いて嘘偽りや悪口陰口を言えなくするのがこの世の為であろう」

 アラステア王弟はそう言うと粉々に砕いた王太子の顎を開かせた。
 何の躊躇いもなく王太子の舌を右手の親指と人差し指でつまんだ。
 流れるような動作で王太子の舌を摘まみ潰して引き千切りやすくした。
 その上で予備動作もなしに剛力に任せて王太子の舌を引き千切った。

「ウッグゥグギャウグオ」

 悲鳴をあげることもできなかった。
 情けない悲鳴を聞きたくない王弟の計算だった。
 最初に舌を摘まみ潰す事で、大量の内出血を起こさせていいた。
 その状態で舌を引き千切ったので、大量の出血が口の中に溢れていた。
 その大量出血が邪魔して王太子は悲鳴が出せず噎せ返っていたのだ。

「本当に情けない奴だな。
 それで魔獣から国民を護る王族の責任が果たせるのか。
 アマーリエ嬢に難癖をつけて婚約を辞退させて、次女のアレグザンドラを婚約者に据えるなど長幼の序を無視している。
 自分が長幼の序を無視したのだから、長年だから王太子だとはいえまい。
 とっとと王太子の座を辞退して修道院でも入るのだな。
 未練たらしく王太子の座に居座るようなら、私が毎日お前がやった事を想い知らせてやるから、その覚悟でいるのだな」

 王太子が逃げられないように脅かした王弟は、今度は元凶を正すことにした。
 そもそもの原因は、アレグザンドラが姉のアマーリエを押しのけて王太子妃の座を手に入れようとした事に始まる。
 一番の悪人は王太子ではなくアレグザンドラなのだ。

「さて、この無責任な腐れ外道を操って長幼の序を無視させた雌豚にも責任がある。
 本来女子供に手を出すのは騎士の道に反するのだが、相手が仕えるべき主筋を陥れたとなれば話は違ってくる。
 姉とはいえアマーリエ嬢は王太子の婚約者に決まっていたのだ。
 つまり仕えるべき主君だという事だ。
 その主君を陥れて王太子妃に成り代わろうなど謀叛としか言えない。
 今この場で断罪してくれる」

「ヒッィイイ、タスケテ、タスケテ、わたしはなにもしていない。
 おうたいしがかってにぜんぶやったの。
 私は何もしていないわ、だからゆるして、お願い」

 王弟に睨まれた恐怖で大小便を垂れ流したアレグザンドラは、会場の床に黄色い汚れをこびり付かせながら、這いずって後ろに下がって逃げようとした。
 立つことはもちろん視線を王弟から外す事もできず、ズリズリと這いずった。

「お待ちくださいアラステア王弟殿下。
 どれほどの悪事を企んだといってもアレグザンドラは私の妹です。
 いかに殿下といえども目の前で非道な断罪を行うのは許せません。
 どのような罪を犯そうともアレグザンドラには公爵令嬢としての権利があります。
 殿下も騎士ならば公爵令嬢の権利を守ってください」
 
 アマーリエは、強大な相手に対する根源的な恐怖に萎える心身を叱咤激励して、アレグザンドラを護ろうと王弟の前に立ちふさがった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王城の廊下で浮気を発見した結果、侍女の私に溺愛が待ってました

メカ喜楽直人
恋愛
上級侍女のシンシア・ハート伯爵令嬢は、婿入り予定の婚約者が就職浪人を続けている為に婚姻を先延ばしにしていた。 「彼にもプライドというものがあるから」物わかりのいい顔をして三年。すっかり職場では次代のお局様扱いを受けるようになってしまった。 この春、ついに婚約者が王城内で仕事を得ることができたので、これで結婚が本格的に進むと思ったが、本人が話し合いの席に来ない。 仕方がなしに婚約者のいる区画へと足を運んだシンシアは、途中の廊下の隅で婚約者が愛らしい令嬢とくちづけを交わしている所に出くわしてしまったのだった。 そんな窮地から救ってくれたのは、王弟で王国最強と謳われる白竜騎士団の騎士団長だった。 「私の名を、貴女への求婚者名簿の一番上へ記す栄誉を与えて欲しい」

嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜

悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜 嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。 陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。 無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。 夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。 怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……

【完結】地味と連呼された侯爵令嬢は、華麗に王太子をざまぁする。

佐倉穂波
恋愛
 夜会の最中、フレアは婚約者の王太子ダニエルに婚約破棄を言い渡された。さらに「地味」と連呼された上に、殺人未遂を犯したと断罪されてしまう。  しかし彼女は動じない。  何故なら彼女は── *どうしようもない愚かな男を書きたい欲求に駆られて書いたお話です。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです

あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」 伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...