第十六王子の建国記

本編

戴冠

　アレクサンダー王子は、父王と王太子の遺体を魔法袋に保管し、パトリック達と合流して急ぎ後宮に戻った。
　そこで父王と王太子の遺体を取り出し、後宮の住む父王の側室や妾や幼い王子や王女に対面させ、王と王太子の逝去を納得させた。
　自分が魔族を殲滅して後宮に戻った事で、後宮の安全は確保したと考え、親衛隊を後宮から外に出した。
　この事が後宮付きの女官と戦闘侍女を安心させた。
「御前達は近隣の貴族士族に参集を命じろ」
「「「「「はい」」」」」
「御前達は難民団の所に行き、王都が安全になったと伝えろ」
「「「「「はい」」」」」
「そしてボニオン魔境騎士団と共に、王都にまで護衛するのだ」
「「「「「はい」」」」」
「御前達はベン大将軍の所にまで行き、国王陛下と王太子殿下の葬式の列席と、余の戴冠式の列席を伝えるのだ」
「「「「「はい」」」」」
　アレクサンダー王子は、矢継ぎ早に手を打った。
　まずは王都の素の状態に戻し、近隣の侵攻に備えるのだ。
　多くの近隣国家が、魔族の支配で悲惨な状態にあり、この国に侵攻出来る状態ではないと思うが、万が一に備えるのが為政者の務めだ。
　王城内は完全に支配下に置いたが、王都近郊の貴族士族の動向が気懸りだった。
　戦いになっても負ける気などしないが、戦いが始まれば想定外の犠牲者が出てしまう。
　想定外の犠牲者とは、ほとんどが力のない民だから、戦いは出来るだけ避けたかった。
　そこで近隣の貴族士族を急いで呼び出し、王と王太子の死と、アレクサンダー王子の戴冠を認めさせなければならなかった。
　幸いと言っていいのか、王都周辺の貴族士族は、頻発した変事の解決で、ベン大将軍を心から畏怖している。
　ベン大将軍がアレクサンダー王子の戴冠に賛成すれば、何の問題も起こらないだろう。
　しかも、王都を護っていた近衛騎士団と王都騎士団は壊滅している。
　残存しているのは、ベン大将軍が率いている厳選された王都騎士団だけだ。
　彼らはアレクサンダー王子の御陰で魔族の魔の手から救われていり。
　彼らがアレクサンダー王子の戴冠に反対する可能性は低い。
　問題は最近頻発した返事を生き残った大貴族だが、その数は著しく減っている。
　王都に当主や後継者が在住していた貴族は、魔族によって殺されている。
　王政に関与しようとしていた曲者程死んでしまっていた。
　残っているのは、旺盛に関心がなく、自領の繁栄に力を注いでいた、独立独歩の貴族だけだ。
　そんな貴族なら、勝手に独立してくれても構わない。
　アレクサンダー王子はそう考えていた。
「思いもよらないことになったわね」
「はい。母上様」