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本編
祝歌
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「殿下のターンアンデットをレジストしたアンデットはいないようですな」
「今のところはいないが、どこかに隠れている可能性はある」
「左様ですな」
相変わらず、ロジャーは思ったことを直ぐ口にしてしまう。
素直と言えば素直だが、謀略には対抗出来そうにない。
先方として、突貫してもらう以外には使えない。
「母上だ。母上が生きておられる」
「殿下。御待ち下さい」
広大な王城内を、母上が囚われておられる後宮に向かって、ただひたすら駆けていた。
どれほどかっこつけても、大義名分を口にしても、母上様を助けたい気持ちは隠しきれない。
表面上は平気な顔をし、取り繕った態度でいようとも、王子の内心は、母上様の安否が気になってしょうがないのだ。
王城内に入り込んでいたアンデットの数。
後宮に近づいても、その数は一向に減らなかった。
だが、遂に母上の歌声が聞こえてきたのだ。
魔力を使わず、歌に乗せた祝で仲間を回復させるのだ。
冒険者として突出した能力を持っていた母上は、魔力に頼る事のない技能も持っておられるのだ。
祝歌の力は、ターンアンデットと同じ効果もあるから、生きて下さっていると信じていたのだが、それでも愛するが故に、王子は不安と心配で胸が押しつぶされそうだった。
「母上様。助けに参りましたぞ」
「安心しなさい。アレクサンダーが助けに来てくれましたよ」
「「「「「きゃぁあぁぁぁぁ」」」」」
後宮は、黄色い歓声に包まれた。
王の側室や妾はもちろん、彼女達に仕える女官達が、それぞれ鎧に身を包み、武器をもっていた。
王以外の男性が立ち入ることを禁じられた後宮は、独立した城でもあった。
建前上は、王城内の一つの坊ではある。
だがその坊は、貴族の居城に匹敵する広さを誇り、並みの軍城壁より厚く高く広く深い坊壁と坊堀に護られていた。
そんな坊壁の上に、アレクサンダー王子の母と女官達が立っていた。
そこでアンデットを撃退し続けていたのだろう。
後宮の全ての女を指揮して、勇ましく戦い続けていたのだろう。
アレクサンダー王子のターンアンデットで敵が一掃された後も、油断することなく指揮を執り続けていたのだろう。
「母上様。一旦御休み下さい。後は私が引き受けます」
「そうしてくれますか、アレク。少々疲れました」
「母上様」
アレクサンダー王子の母は、息子の到着に安心したのか、その場で気を失った。
愛する息子が抱きとめてくれると信じていたのだろう。
実際その通りに、倒れる母親をアレクサンダー王子は抱きしめていた。
王都に異変が発生してからの八日間。
不眠不休で後宮を護っていたのだ。
息子の顔を見て、気力が尽きたのは仕方がない。
「私が来たからには、相手が魔族であろうと神であろうと、母上には指一本触れさせません」
「今のところはいないが、どこかに隠れている可能性はある」
「左様ですな」
相変わらず、ロジャーは思ったことを直ぐ口にしてしまう。
素直と言えば素直だが、謀略には対抗出来そうにない。
先方として、突貫してもらう以外には使えない。
「母上だ。母上が生きておられる」
「殿下。御待ち下さい」
広大な王城内を、母上が囚われておられる後宮に向かって、ただひたすら駆けていた。
どれほどかっこつけても、大義名分を口にしても、母上様を助けたい気持ちは隠しきれない。
表面上は平気な顔をし、取り繕った態度でいようとも、王子の内心は、母上様の安否が気になってしょうがないのだ。
王城内に入り込んでいたアンデットの数。
後宮に近づいても、その数は一向に減らなかった。
だが、遂に母上の歌声が聞こえてきたのだ。
魔力を使わず、歌に乗せた祝で仲間を回復させるのだ。
冒険者として突出した能力を持っていた母上は、魔力に頼る事のない技能も持っておられるのだ。
祝歌の力は、ターンアンデットと同じ効果もあるから、生きて下さっていると信じていたのだが、それでも愛するが故に、王子は不安と心配で胸が押しつぶされそうだった。
「母上様。助けに参りましたぞ」
「安心しなさい。アレクサンダーが助けに来てくれましたよ」
「「「「「きゃぁあぁぁぁぁ」」」」」
後宮は、黄色い歓声に包まれた。
王の側室や妾はもちろん、彼女達に仕える女官達が、それぞれ鎧に身を包み、武器をもっていた。
王以外の男性が立ち入ることを禁じられた後宮は、独立した城でもあった。
建前上は、王城内の一つの坊ではある。
だがその坊は、貴族の居城に匹敵する広さを誇り、並みの軍城壁より厚く高く広く深い坊壁と坊堀に護られていた。
そんな坊壁の上に、アレクサンダー王子の母と女官達が立っていた。
そこでアンデットを撃退し続けていたのだろう。
後宮の全ての女を指揮して、勇ましく戦い続けていたのだろう。
アレクサンダー王子のターンアンデットで敵が一掃された後も、油断することなく指揮を執り続けていたのだろう。
「母上様。一旦御休み下さい。後は私が引き受けます」
「そうしてくれますか、アレク。少々疲れました」
「母上様」
アレクサンダー王子の母は、息子の到着に安心したのか、その場で気を失った。
愛する息子が抱きとめてくれると信じていたのだろう。
実際その通りに、倒れる母親をアレクサンダー王子は抱きしめていた。
王都に異変が発生してからの八日間。
不眠不休で後宮を護っていたのだ。
息子の顔を見て、気力が尽きたのは仕方がない。
「私が来たからには、相手が魔族であろうと神であろうと、母上には指一本触れさせません」
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