第十六王子の建国記

克全

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本編

決断

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「ふん。この程度で余から逃げられると思ったか」
 王は魔族が憑依しない事を確認したかった。
 護符の効果を信じたかったが、絶対の信頼があったわけではなかった。
 接近して憑依されてしまったら、アリステラ王国は地獄と化すだろう。
 そう考えて、細心の注意を払い、直接対決を避けてきた。
 だが追い詰められて、自身で剣を振るう以外の道を断たれてしまった。
 意を決して直接対決に応じたが、今度は近衛騎士や宮廷魔導士が憑依されることを、防がなければならなかった。
 憑依されたとしても、負ける可能性は小さいと思っていたが、途中で防具や護符の効果が切れる可能性はあった。
「よくもエイダとアンドルーを殺してくれたな。その報いを受けよ」
 王が意を決して剣を振り上げたその時。
「陛下。御逃げ下さい」
「うがぁぁぁぁ」
「陛下ぁぁぁぁ、御逃げ下さいぃぃぃ」
「ぎゃぁぁぁぁぁ」
 先に行かせた者達が、此方に逃げてきていると知り、王は魔族に止めを刺すよりも、現状の確認を優先した。
 暗い秘密通路の先から、近衛騎士と王都騎士がやってくる。
 王は直ぐに事態を察した。
 王の側に侍る近衛騎士以外は、全員王太子の護衛に付けた。
 この状況で、王太子が謀叛を起こすはずもない。
 王太子が無事かどうかは分からないが、少なくとも、王太子に付けた近衛騎士と王都騎士の一部が、魔族に操られている。
 王はここで決断を下した。
 このまま一瞬でも早く王宮の方に戻り、少しでも逃げ延びられる可能性に賭けるか、ここで奮戦して魔族を滅ぼすか。
 王は二つの可能性を考えた。
 そのなかでも、アレクサンダー王子とベン大将軍に国を任せる方に多めに賭けた。
 ほんの少し時間を浪費することになるが、追い詰めた魔族に止めを刺すことにした。
「御前だけは死ね」
 王は魔族の憑依した近衛騎士隊長の心臓を貫き、四度五度と胸部腹部を刺し貫き、場所の分からない魔族の急所に一撃を加えようとした。
 剣を抜いて再度構え、念を入れて首を刎ね飛ばした。
 ウガァァァァァ
 人の発するとは思えない雄叫びを上げて、憑依された近衛騎士と王都騎士が、先頭をきって王に襲い掛かった。
 だが王はまともに剣を合わせようとせず、護符の一つの効果を使い、先頭の近衛騎士二人の片足を切断した。
 先頭が倒れた事で、後続も横たわる近衛騎士の身体に躓き、次々と将棋倒しとなった。
 後続が倒れた者達の事など考えず、踏み潰して先に進もうとする。
 後続はアンデットが多く、周りの状況など考えず、ただひたすら前に進もうとする。
 魔族が憑依した騎士は、その著しい身体能力を使って、障害となる人間を軽々と飛び越えた。
 だがそれでもわずかな時間が稼げたので、王は秘密通路を逆に進んで王宮に戻ろうとした。
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