第十六王子の建国記

克全

文字の大きさ
上 下
114 / 142
本編

王撃

しおりを挟む
「愚か者が」
「ウグゥゥゥゥ」
 王が宝剣を振るって魔族に斬りかかった。
 激痛に耐えていた魔族は、憑依した近衛騎士隊長の身体を必死に操り、王の宝剣をかわした。
 憑依される前の、人間の時の近衛騎士隊長では、とてもかわせないような、瞬速の剣だった。
「このタイミングで、余の剣をかわすか」
 王は驚愕していた。
 絶対の自信を持って放った一撃が、ギリギリとは言え完全に避けられたのだ。
 何重もの罠を仕掛け、絶好のタイミングで仕掛けた攻撃だった。
 自身の実力も、この時の為に隠し続けてきた。
 王国の危機に際して、自分の命が危険にさらされなければ、死ぬまで秘匿するはずだった実力だ。
 ドラゴンダンジョンで護られながら磨いた実力ではなく、王に戴冠してから、誰にも知られず密かに鍛えてきた実力だ。
 ここで魔族を斃さなければ、秘匿していた実力が広まってしまう。
 王は二撃三撃と、追撃の剣を振るった。
 その一撃は力に溢れて目にも止まらない、まるで雷撃のような剣撃だった。
 だがその全ての剣撃が、魔族に憑依された近衛騎士隊長には届かないのだ。
 攻撃反射の魔法を受けて、重大な損傷を、魔族の本体に受けているはずなのに、ギリギリで避け続けるのだ。
 四撃五撃と避けられた王は、力を抜いて剣速に重点を置いた。
 王と魔族に憑依された近衛騎士隊長が剣を交えている間に、宮廷魔導士達は魔力の回復を図っていた。
 王が魔族を斃せればいいが、そうでない場合は、タイミングを計って逃げなければいけない。
 そのためには、また魔法の壁が必要になる。
 普通なら今戦っている王を援護すべきなのだが、余りに次元の違う戦いに、全く援護できないでいた。
 王の剣速は、魔族に憑依される前の近衛騎士隊長を凌駕しているかに見える。
 だがその剣も、魔族に憑依された近衛騎士隊長をとらえられない。
 それどころか、徐々に余裕を持って避けられている。
 罠に嵌められた魔族が、反射魔法の反撃で受けた傷が、急速に癒えているのだろう。
 だが王も、年齢の割に全く衰えることなく、剣撃を放ち続けている。
 隠れた鍛錬はもちろん、この国最高の魔道具を、重量制限一杯装備しているから、体力が尽きることがないのだろう。
「人間ごときが図に乗るな」
 魔族は、貯めに貯めていた魔力を使い、近衛騎士隊長の身体にかかる負荷を無視して、一気に力を解放した。
 近衛騎士隊長の両腕の腱と筋肉が、音を立てて断裂する。
 だがそれでも、近衛騎士団長から奪った剣を離すことなく、王の両腕を両断すべく、渾身の一撃を王に向けて放った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...