第十六王子の建国記

克全

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本編

アレクサンダー参上

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 エステ王国軍の大規模魔法攻撃が、アリステラ王国王都騎士団に殺到し、一万を超える騎士が焼き殺されようとするその瞬間、圧倒的な魔力で作りだされた反射魔法が百カ所に出現した。
 エステ王国軍が放ったはずの大規模魔法が、事もあろうにエステ王国軍の陣内に弾き返されたのだ。
 エステ王国軍の陣内は阿鼻叫喚の地獄絵図となった。
 圧倒的な防御魔法で護られた王都や国境の堅城を、完膚なきまでに破壊する為の魔法だ。
 まともに受ければ人間など消し炭になってしまう。
 いや、そこに人間がいた痕跡など、跡形もなくなってしまうほどの攻撃だ。
 エステ王国軍陣内にいた人間は、一人残らず死に絶えた。
 それどころか伝説の魔族でも、一般種は生き残ることは出来なかった。
 生き残ることが出来たのは、高種の魔族だけだった。
いや、生き残ることが出来た高種魔族も、無傷とはいかなかった。
無傷で生き残っているのは、将種の魔族だけだった。
その将種魔族も、大幅に魔力を削られていた。
「爺、苦戦しているようだな」
「殿下! どうしてここに?!」
「爺がなかなか帰ってこないから、心配になって迎えに来たのだよ」
「ネッツェ王国は大丈夫なのですか?」
「魅了で支配下に置いた元々ネッツェ王国軍将兵を、最前線に配置したから大丈夫だ」
「そのような圧迫をかけたりしたら、ネッツェ王国を刺激する事になり、無用の戦闘を誘発してしまうことになりませんか?」
「パトリック達が最前線に陣取ってくれているから大丈夫だよ」
「そうですか。ですが心配です」
「爺から見れば、余やパトリックも、まだまだ嘴の黄色い若造でしかないのだな」
「いえいえ、殿下は立派な騎士であり冒険者です。他の者達が心配なだけです」
「爺にそう言って貰えるとうれしいよ」
「しかしながら、もう少し御自重して頂きたいです」
「魔族の実力が分からないうちは、最前線に出るなと言う事か?」
「はい」
「爺にしては考えが足りないな」
「どう言う意味でございますか!」
「怒ったかい? だが爺が悪いのだよ」
「私の何が悪いのですか?!」
「自分の実力と、自分が死んだ後の余の苦境を冷静に計算すべきだったな」
「・・・・・」
「実力の分からない魔族を合相手に、余と爺が連携して対峙する危険と、万が一爺が憤死するような事になった後で、爺を殺すことが出来るほどの魔族と、余が一人で対峙しなければいけなくなった危険だよ」
「私の考えが間違っておりました」
「分かってくれればいいよ」
「では、少々あざとくはありますが、殿下がここに来られて勝利を得られた以上、名声を広めることにいたしましょう」
「正妃殿下や王太子殿下に、悪印象を与えることにならないかい?」
「王都騎士団四万の忠誠心を買えるなら、十分な代償でございますし、悪印象を与えるとは限りません」
「分かったよ。少々恥ずかしいが、愛想を振りまくことにしよう」
「御分りの事とは思いますが、その時に治癒魔法も施されますように」
「分かっているよ」
「それと、もう攻撃魔法を御止めになられても大丈夫かと思われます」
「そうだね。もうエステ王国軍に生き残りはいないようだね」
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