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本編
交渉
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「しかし殿下、全てはボニオン公爵が約束したことで」
「黙れ!」
「しかし殿下」
「もはや宣戦布告は行った。貴国の第二王子や諸侯はそれに同意され、五万騎をもって僅か千兵の余に襲い掛かってきたではないか」
「それは殿下が宣戦布告をなされたからでして」
「「「「「あ!」」」」」
「そうだ! 貴公の申した通り、宣戦布告に応じて貴国の王子が余に襲い掛かってきた。正式な戦争で捕虜にしたのだから、不当な拘束ではない!」
愚かな事だ。
ネッツェ王国にも優秀な官僚はいるのだが、彼らの上に愚かな貴族がいるため、余との直接交渉はその愚かな貴族が行う事になる。
だから上手く誘導すれば、容易く言質をとられて不利な立場になる。
まあ我がアリステラ王国でも、愚かな貴族の所為で色々問題が出ているから、ネッツェ王国の事を馬鹿に出来ない。
「これで我が国と貴国が戦争状態であることは確認できた。使者は御帰りだ!」
「御待ち下さい」
「どうか、どうか御待ち下さい!」
「殿下!」
余の命令を受けて、捕虜のネッツェ王国騎士が、ネッツェ王国の使者をボニオン騎士団城から追い出す。
まだ余の騎士団は未整備なので、国の正使を迎える作法など覚えていない。
正使に無礼な対応をしては交渉が不利になるので、礼儀作法が完璧な捕虜を選抜し、魅了で動かしたのだ。
それにもし何か無礼があっても、同じ国の捕虜がやった事なら余の不利にはならない。
それにしてもネッツェ王国の動きは鈍い。
まあそれも当然かもしれない。
何と言っても直前までは、描いた通りに謀略が進んでいたのだから。
第二王子から連絡が来なくなっても、それはアリステラ王国の奥深くまで、順調に侵攻しているからだと思っていたのだろう。
それが、攻め込んだ五万騎全てが捕虜になり、占領していた国境線の村々どころか、自分達の領地や街が占領されているとは、思いもしなかったのだろう。
余も最初は、奪われた領地と村を取り返すだけの心算だった。
だが余りにネッツェ王国の対応が遅いので、領地と街を占領してみた。
もちろん使える兵力などないから、ネッツェ王国が本格的に反撃してきたら、国境線まで引き上げる心算だったのだが、全く対応してこなかった。
二十一の城と百二十六の村を占拠し、余に忠誠を誓うように魅了魔法を使った。
だがこの頃ようやくネッツェ王国も疑問を持ったようで、ナーセル首長家に調査を命じ、ガマール・アブドゥル・アル=ナーセル当主が、直々に五千の騎馬軍団を率いてやってきた。
ナーセル首長家軍だけなら魅了で捕り込めたのだが、監察官として同行していたグレアム将軍と魔法使いのレフ・ニコラエヴィチ・ムラー・トルストイに抵抗されてしまった。
重ねて魔法を使えば魅了することが出来たと思うが、魅了の魔法で人々を支配することは、一時的ならともかく、永続的に行うのはどうにも嫌だった。
だからこの状態でネッツェ王国と交渉を行う事にしたのだった。
「黙れ!」
「しかし殿下」
「もはや宣戦布告は行った。貴国の第二王子や諸侯はそれに同意され、五万騎をもって僅か千兵の余に襲い掛かってきたではないか」
「それは殿下が宣戦布告をなされたからでして」
「「「「「あ!」」」」」
「そうだ! 貴公の申した通り、宣戦布告に応じて貴国の王子が余に襲い掛かってきた。正式な戦争で捕虜にしたのだから、不当な拘束ではない!」
愚かな事だ。
ネッツェ王国にも優秀な官僚はいるのだが、彼らの上に愚かな貴族がいるため、余との直接交渉はその愚かな貴族が行う事になる。
だから上手く誘導すれば、容易く言質をとられて不利な立場になる。
まあ我がアリステラ王国でも、愚かな貴族の所為で色々問題が出ているから、ネッツェ王国の事を馬鹿に出来ない。
「これで我が国と貴国が戦争状態であることは確認できた。使者は御帰りだ!」
「御待ち下さい」
「どうか、どうか御待ち下さい!」
「殿下!」
余の命令を受けて、捕虜のネッツェ王国騎士が、ネッツェ王国の使者をボニオン騎士団城から追い出す。
まだ余の騎士団は未整備なので、国の正使を迎える作法など覚えていない。
正使に無礼な対応をしては交渉が不利になるので、礼儀作法が完璧な捕虜を選抜し、魅了で動かしたのだ。
それにもし何か無礼があっても、同じ国の捕虜がやった事なら余の不利にはならない。
それにしてもネッツェ王国の動きは鈍い。
まあそれも当然かもしれない。
何と言っても直前までは、描いた通りに謀略が進んでいたのだから。
第二王子から連絡が来なくなっても、それはアリステラ王国の奥深くまで、順調に侵攻しているからだと思っていたのだろう。
それが、攻め込んだ五万騎全てが捕虜になり、占領していた国境線の村々どころか、自分達の領地や街が占領されているとは、思いもしなかったのだろう。
余も最初は、奪われた領地と村を取り返すだけの心算だった。
だが余りにネッツェ王国の対応が遅いので、領地と街を占領してみた。
もちろん使える兵力などないから、ネッツェ王国が本格的に反撃してきたら、国境線まで引き上げる心算だったのだが、全く対応してこなかった。
二十一の城と百二十六の村を占拠し、余に忠誠を誓うように魅了魔法を使った。
だがこの頃ようやくネッツェ王国も疑問を持ったようで、ナーセル首長家に調査を命じ、ガマール・アブドゥル・アル=ナーセル当主が、直々に五千の騎馬軍団を率いてやってきた。
ナーセル首長家軍だけなら魅了で捕り込めたのだが、監察官として同行していたグレアム将軍と魔法使いのレフ・ニコラエヴィチ・ムラー・トルストイに抵抗されてしまった。
重ねて魔法を使えば魅了することが出来たと思うが、魅了の魔法で人々を支配することは、一時的ならともかく、永続的に行うのはどうにも嫌だった。
だからこの状態でネッツェ王国と交渉を行う事にしたのだった。
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