第十六王子の建国記

克全

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本編

主導権争い

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「アンドルー・パトリック・デイヴィッド・エドモント・アリステラ王子、遠路はるばるご苦労様です」
「貴様、その態度は何事だ。同じ王子と言っても、貴様は下賤な母親から生まれた十六番目の王子ではないか。馬に乗ったままアンドルー殿下を迎えるなど、不遜も甚だしいぞ!」
 やれやれ、これがアンドルーの側近とは。
「無礼者!」
 アンドルーが顔を真っ赤にして、烈火のごとく怒り、抜く手も見せずに剣を一閃した。
「アレクサンダー王子、配下の無礼申し訳ない」
「いえいえ、どこにでも愚か者はいるものです。アンドルー王子が詫びる事ではありませんよ」
 余とアンドルーが言葉を交えている間に、アンドルーに袈裟懸けに斬られた側近の上半身が、馬上から地面に落ちていく。
 これで余の立場が大きく強化された。
 ここボニオン公爵領では、公爵や公爵配下の士族卒族将兵による暴政が民を苦しめていた。
 そこを余が解放したので、余の評判は鰻登りだった。
 そこに余がアンドルー王子を持ち上げる言動をしていたのに、当のアンドルー王子の側近が、登場当初から功労者の実績を評価せず、血統を罵倒して貶める発言をしたのだ。
 努力や成果ではなく、ただ血統のみで優劣が決められ、理不尽な政治が行われる。
 ボニオン公爵家の政が再開されると誰もが思っただろう。
 アンドルー王子は、入領そうそう最悪の評価から政を行わなくてはいけなくなった。
 何とか民の評価を回復しようと、最側近を自分の手で斬り捨てたのだろうが、これはこれで暴虐な印象を与えてしまう。
 最初に慈愛の政を行っていて、それに付け込む罪人を厳しく処罰したのなら、悪い印象は広まらないだろう。
 だが最初の印象が、側近の下劣な血統発言だ。
 これを取り返すのはとても難しい。
 しかも恐らく、アンドルー王子は余を配下にして働かせ、自分は何もせずに実績と評価を横取りするように正妃殿下から命じられているはずだ。
 だがこの躓きで、その横取りは民に見透かされ、悪評となって王国中を駆け巡ることになる。
 この状況からアンドルー王子はどう挽回する心算だ?
「アレクサンダー王子に対する余の家臣の無礼は別にして、王家王国の上位命令者として伝えなければならない事がある」
「はい。謹んでお受けします」
 可哀想に。
 正式な命令伝達だが、何の功績もない第二王子が、血統の優劣だけを振りかざし、功績のある余に不当な命令を下しているように民には見えているな。
「ボニオン公爵以下の一族一門士族卒族将兵は、余、アンドルー・パトリック・デイヴィッド・エドモント・アリステラの指揮下で取り調べる」
「はい」
「公爵領及びサウスボニオン代官領は、アンドルー・パトリック・デイヴィッド・エドモント・アリステラが臨時領主として治める」
「はい」
 可哀想に。
 多くの領民がこの通達を聞いてざわめいている。
 余が城外に出て、街でアンドルー王子を迎えたから、今迄の経過を全て衆人環視の前で行わなければならなくなった。
 もし城内に入ってから通達していたら、陰湿な謀略として噂されただろう。
 アンドルー王子も、この場で通達するのが一番傷が浅いと判断したのだろう。
「アレクサンダー・ウィリアム・ヘンリー・アルバート・アリステラ王子は、余、アンドルー・パトリック・デイヴィッド・エドモント・アリステラの配下に入るべし」
「「「「「ざわざわざわざわ」」」」」」
 可哀想に。
 これでアンドルー王子の評判は地に落ちたな。
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