第十六王子の建国記

克全

文字の大きさ
上 下
51 / 142
本編

王手

しおりを挟む
「殿下、ほとんどの公爵家の民が領地から逃げ出しています」
「公爵家は邪魔していないのか?」
「魔獣を恐れて騎士団が領境から逃げ出しています」
「情けない話だな。民は安全に逃げられているのか?」
「魔獣が民を襲わず、いえ、むしろ騎士団に攫われた女子供を助けたと評判になっていますので、魔境に近くにまで移動してから領境を越えています」
「そうか。それならサウスボニオン魔境代官所に逃げ込めるな」
「はい」
「だが、貧しい民は食べる物にも困っているのではないか?」
「正体不明の善人が、無償で炊き出しを行っていますので、飢える心配はありません」
「正体不明の善人とは、正妃殿下の息のかかった御前達の事ではないのか?」
「さて、何の事でございましょう」
「どうせ全てが片付いた後で、炊き出しはアンドルー王子がなされていたことだという事になるのだろう」
「そのように重大な事は、私のような忍者に知らされることではありません」
「そうか。御前は正妃殿下から絶大な信頼を得ていると思うのだがな」
「その様な事はありません」
「まあいい。それで余はこれからどう踊ればいいのだ」
「私のような忍者が、殿下の行いに口を挟むなど恐れ多い事でございます」
「正妃殿下からの伝言を預かっていないのか?」
「何も御聞きしておりません」
「分かった。ならば好きにさせてもらおう」
「はい」
 三日三晩かけて二個目のボニオン公爵家騎士団を壊滅させた余と爺は、一日ボニオン魔境で休息をとった。
 普通の人間ならボニオン魔境は危険な場所なのだが、余達には警戒さえしていれば休息くらいはできる場所だ。
 パトリック達が魔獣管理をしてくれているので、ボスやそれに準じる強力な魔獣が現れない限り、リスク計算が出来る。
 十分な休養を取りながら、忍者達から三日三晩の間に変化した状況を教えてもらった。
 一日の休養で十分身体が回復したので、ボニオン公爵家に止めを刺すことにした。
 二匹の魔獣を操り、ボニオン公爵家の居城を襲撃することにしたのだ。
 いくらボニオン公爵家でも、居城を魔獣に破壊されたら言い訳のしようがない。
 だがいくら何でも公爵家の居城だ。
 今迄のような弱兵ばかりとは思えない。
 ボニオン公爵家王都屋敷を護っていたエルトン・テレンス・ジャガー騎士のような強者がいる可能性が強い。
 ネッツェ王国からの援軍もいるかもしれない。
 忍者達はいないと言っていたが、余を殺すための罠と言う可能性もある。
 だから今度は白銀級魔獣のビッグベアを誘導することにした。
 今迄の行動を見れば、ボニオン公爵家に白銀級魔獣に対抗できる騎士がいるとは思えない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

処理中です...