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本編
報復
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「何故こんな事をしたんだ」
「恨みを晴らしただけです」
「だが抵抗も出来ない者を一方的に殴り殺すなど、許される事ではないぞ」
「閣下、攻めないでやって下さい」
爺が下役人を殴り殺した猟師を詰問している横からベイルが話しかけてきた。
「理由を知っているのか?」
「はい。そもそも最初に抵抗できない我々を、一方的に殴る蹴るしたのはこいつらです。ですがただ殴る蹴るしただけではありません。我々の妻や娘が客を取らされている売春宿に行き、妻や娘を買って嬲り者にして、その時の話をネチネチと我々に聞かせるのです」
「なんだと! こいつそのような事をしていたのか!」
「それだけではありません! 我慢出来ずに殴りかかった者を取り押さえ、足腰が立たなくなるまで殴り蹴るのです」
「そうか、それなら殺されても仕方がないな」
「なんだと、そんな事をしたら公爵家が黙っていないぞ」
「そうだ、家族がどうなってもいいのか」
「我らを解放したら家族を助けてやるぞ」
「待て!」
ロジャーが口々にわめく下役人達を殴ろうとしたので止めた。
「しかし、で・・・・・アーサー殿、このようが下種共には報いを与えねばならぬのではありませんか」
「それは我らのすることではない。報復する権利があるのは彼らだ」
余の言葉を受けて、奴隷に落とされていた猟師・冒険者・荷役の顔が輝いた。
「それは駄目です、アーサー殿」
「何故だ、爺」
「アーサー殿が勝手に私刑を許可することは許されません」
「許可などしていないよ。単にロジャーには権利がないと言い、もし権利があるとしたら彼らだと言っただけだ」
「それでは彼らがアーサー殿から許可を受けたと誤解してしまいます」
「そうか、それは問題だな」
「そうです。罪を裁く権利があるのは、領主や代官に限られるのです。今の彼らが不当な行いをした者を裁いて貰おうと思うのなら、サウスボニオン魔境代官所に訴え出るしかありません」
「「「「「そんな!」」」」」
「私達は奴隷に落とされ、しかもボニオン公爵家に売られてしまっています。とてもじゃありませんが、裁判で勝つ事など不可能です。どうかここで恨みを晴らさせてください」
「駄目だ。王家王国から男爵位を授かっている以上、目の前で私刑が行われるのを見過ごすわけにはいかん」
「「「「「ううううう」」」」」
皆悔しいだろうな。
聞いた話が本当なら、いや、あんな嘘をつく必要などないから本当の事なのだろう。
余なら絶対に許さない。
例えこの身がどのような罪を受ける事になったとしても、命をかけて報復するだろう。
「よいか御前達、儂らが必ず家族を助けて見せる。だが御前達が罪に問われてしまったら、誰が家族を護り養うのだ!」
皆がハッとした表情になった。
そうだな、爺の言う通りだな。
確かにここで下役人達に報復すれば、自分達の恨みの極一部は晴らすことが出来るだろう。
だがその為に罪に問われてしまったら、その後に家族がまた塗炭の苦しみを味合うことになるかもしれない。
ここは我慢に我慢を重ねても、下役人達を見逃さねばならないのだな。
「だが儂らがここにいる事を公爵家に報告されては困る。だから逃げ出そうとした者は問答無用で殺してくれ。これは男爵としても命令だ」
「「「「「はい」」」」」
「御任せ下さい」
「絶対に逃がしません」
「逃げようとしたら嬲り殺しにしてやります」
「まあこんなに肥った奴らは、一日二日何も食べなくても死ぬことはない。アーサー殿に長めの麻痺魔法をかけてもらって、見張りや飲食の用意に取られる人手と時間を減らす」
「分かった、爺。それではベイル、下役人以外の猟師、冒険者、荷役の中で、公爵家に報告しようと逃げ出すかもしれない者を教えてくれ。一纏まりにして白金級の麻痺魔法をかけておく」
余の指示を受けて、サウスボニオン魔境代官領から連行されて来た者達が人間の選別をしている。
下役人の中には、彼らに優しく接する者などいなかったようで、全員が乱暴に扱われて余の前に引っ立てられてきた。
他にもボニオン公爵領出身の猟師や冒険者がそれなりにいたようで、いかにも悪人顔に連中が荒々しく余の前に引っ立てられてきた。
「はん! 公爵家に逆らって、御前らの家族を助けるなんて不可能だよ。ここから解放されたら、また御前の妹をいたぶってやるよ!」
「なんだと!」
「御止めなさい! アーサー殿」
思わず下劣な冒険者を打ち殺してしまうところだった!
パトリックが止めてくれなかったら、ロジャーを止めた余が下種野郎を殺してしまうところだった。
余にこのような怒り易いところが有るとは思いもしなかった!
「随分と威勢がいいの」
爺が怒っている。
激怒していると言っていいな。
これはただでは済まんぞ!
「これは、これは、貴方様は男爵閣下でございましたな」
「ほう、余には礼儀をわきまえた口をきくのだな」
「もちろんでございますとも。無礼な言葉使いをして、無礼討ちの口実にされては困りますから。ですが男爵閣下様、男爵閣下様の位階で公爵殿下に対抗できますのですか?!」
嫌らしい笑い方をする。
見るも汚らわしい下種野郎だが、爺はどうやって懲らしめる心算だ?
「のうベイル」
「はい?」
「儂らは明日もリントヴルムを追い立てて魔獣共を暴れさせる」
「はい」
「その時には儂らは誰もここに残れん」
「はい?」
「アーサー殿に強力な麻痺魔法をかけてもらうが、武名轟くボニオン公爵殿下の御家中の役人殿や、ボニオン魔境で有名をはせた冒険者殿なら、アーサー殿の強力な麻痺魔法を打ち破って逃げ出すかもしれんのう」
「はい!」
「その時は仕方なく殺してしまう事もあるだろうのう」
「「「「「はい!」」」」」
「なんだと! それでも貴様男爵か!」
「この場で無礼討ちにしてくれようか!」
あれ、あれ、あれ、爺の全身全霊を込めた殺気を受けて、小便を漏らすどころか脱糞までしているよ!
「ではベイル、明日の事はよきようにはからえ」
「「「「「はい」」」」」
こりゃ人質全員皆殺しだな。
「恨みを晴らしただけです」
「だが抵抗も出来ない者を一方的に殴り殺すなど、許される事ではないぞ」
「閣下、攻めないでやって下さい」
爺が下役人を殴り殺した猟師を詰問している横からベイルが話しかけてきた。
「理由を知っているのか?」
「はい。そもそも最初に抵抗できない我々を、一方的に殴る蹴るしたのはこいつらです。ですがただ殴る蹴るしただけではありません。我々の妻や娘が客を取らされている売春宿に行き、妻や娘を買って嬲り者にして、その時の話をネチネチと我々に聞かせるのです」
「なんだと! こいつそのような事をしていたのか!」
「それだけではありません! 我慢出来ずに殴りかかった者を取り押さえ、足腰が立たなくなるまで殴り蹴るのです」
「そうか、それなら殺されても仕方がないな」
「なんだと、そんな事をしたら公爵家が黙っていないぞ」
「そうだ、家族がどうなってもいいのか」
「我らを解放したら家族を助けてやるぞ」
「待て!」
ロジャーが口々にわめく下役人達を殴ろうとしたので止めた。
「しかし、で・・・・・アーサー殿、このようが下種共には報いを与えねばならぬのではありませんか」
「それは我らのすることではない。報復する権利があるのは彼らだ」
余の言葉を受けて、奴隷に落とされていた猟師・冒険者・荷役の顔が輝いた。
「それは駄目です、アーサー殿」
「何故だ、爺」
「アーサー殿が勝手に私刑を許可することは許されません」
「許可などしていないよ。単にロジャーには権利がないと言い、もし権利があるとしたら彼らだと言っただけだ」
「それでは彼らがアーサー殿から許可を受けたと誤解してしまいます」
「そうか、それは問題だな」
「そうです。罪を裁く権利があるのは、領主や代官に限られるのです。今の彼らが不当な行いをした者を裁いて貰おうと思うのなら、サウスボニオン魔境代官所に訴え出るしかありません」
「「「「「そんな!」」」」」
「私達は奴隷に落とされ、しかもボニオン公爵家に売られてしまっています。とてもじゃありませんが、裁判で勝つ事など不可能です。どうかここで恨みを晴らさせてください」
「駄目だ。王家王国から男爵位を授かっている以上、目の前で私刑が行われるのを見過ごすわけにはいかん」
「「「「「ううううう」」」」」
皆悔しいだろうな。
聞いた話が本当なら、いや、あんな嘘をつく必要などないから本当の事なのだろう。
余なら絶対に許さない。
例えこの身がどのような罪を受ける事になったとしても、命をかけて報復するだろう。
「よいか御前達、儂らが必ず家族を助けて見せる。だが御前達が罪に問われてしまったら、誰が家族を護り養うのだ!」
皆がハッとした表情になった。
そうだな、爺の言う通りだな。
確かにここで下役人達に報復すれば、自分達の恨みの極一部は晴らすことが出来るだろう。
だがその為に罪に問われてしまったら、その後に家族がまた塗炭の苦しみを味合うことになるかもしれない。
ここは我慢に我慢を重ねても、下役人達を見逃さねばならないのだな。
「だが儂らがここにいる事を公爵家に報告されては困る。だから逃げ出そうとした者は問答無用で殺してくれ。これは男爵としても命令だ」
「「「「「はい」」」」」
「御任せ下さい」
「絶対に逃がしません」
「逃げようとしたら嬲り殺しにしてやります」
「まあこんなに肥った奴らは、一日二日何も食べなくても死ぬことはない。アーサー殿に長めの麻痺魔法をかけてもらって、見張りや飲食の用意に取られる人手と時間を減らす」
「分かった、爺。それではベイル、下役人以外の猟師、冒険者、荷役の中で、公爵家に報告しようと逃げ出すかもしれない者を教えてくれ。一纏まりにして白金級の麻痺魔法をかけておく」
余の指示を受けて、サウスボニオン魔境代官領から連行されて来た者達が人間の選別をしている。
下役人の中には、彼らに優しく接する者などいなかったようで、全員が乱暴に扱われて余の前に引っ立てられてきた。
他にもボニオン公爵領出身の猟師や冒険者がそれなりにいたようで、いかにも悪人顔に連中が荒々しく余の前に引っ立てられてきた。
「はん! 公爵家に逆らって、御前らの家族を助けるなんて不可能だよ。ここから解放されたら、また御前の妹をいたぶってやるよ!」
「なんだと!」
「御止めなさい! アーサー殿」
思わず下劣な冒険者を打ち殺してしまうところだった!
パトリックが止めてくれなかったら、ロジャーを止めた余が下種野郎を殺してしまうところだった。
余にこのような怒り易いところが有るとは思いもしなかった!
「随分と威勢がいいの」
爺が怒っている。
激怒していると言っていいな。
これはただでは済まんぞ!
「これは、これは、貴方様は男爵閣下でございましたな」
「ほう、余には礼儀をわきまえた口をきくのだな」
「もちろんでございますとも。無礼な言葉使いをして、無礼討ちの口実にされては困りますから。ですが男爵閣下様、男爵閣下様の位階で公爵殿下に対抗できますのですか?!」
嫌らしい笑い方をする。
見るも汚らわしい下種野郎だが、爺はどうやって懲らしめる心算だ?
「のうベイル」
「はい?」
「儂らは明日もリントヴルムを追い立てて魔獣共を暴れさせる」
「はい」
「その時には儂らは誰もここに残れん」
「はい?」
「アーサー殿に強力な麻痺魔法をかけてもらうが、武名轟くボニオン公爵殿下の御家中の役人殿や、ボニオン魔境で有名をはせた冒険者殿なら、アーサー殿の強力な麻痺魔法を打ち破って逃げ出すかもしれんのう」
「はい!」
「その時は仕方なく殺してしまう事もあるだろうのう」
「「「「「はい!」」」」」
「なんだと! それでも貴様男爵か!」
「この場で無礼討ちにしてくれようか!」
あれ、あれ、あれ、爺の全身全霊を込めた殺気を受けて、小便を漏らすどころか脱糞までしているよ!
「ではベイル、明日の事はよきようにはからえ」
「「「「「はい」」」」」
こりゃ人質全員皆殺しだな。
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