上 下
37 / 111
第1章

第37話:闇商人の手先

しおりを挟む
神歴1817年皇歴213年4月30日バカン辺境伯家領都冒険者ギルド
ロジャー皇子視点

「ハンドゥレド・パラライズ、ハンドゥレド・マジカル・パワー」

 俺は自分の周りに麻痺魔術と魔力塊を追加展開させた。
 何かあった時に攻防同時に使えるように準備しておく。

 筋肉や骨格だけでなく、表皮と真皮の間にも魔力気力命力を流して、最悪の場合でも致命傷を受けないようにする。

「え、なに、なんだ、何をしているんだ?!」

 俺が受付幹部を引きずって倉庫に入ると、作業をしていた連中が声をかけてきた。
 
「どこに出入口がある?」

「向こうです、向こうの影に隠れた部分の床が空くようになっています」

「何を言っているんですか?!
 勝手に教えたりしたら殺されてしまいますよ!」

 近くにいた倉庫職員が目を向いて文句を言いだした。
 闇商人が送り込んでいた奴は、恐怖でギルド職員を従わせているようだ。

「床を空けたら中に知らせが届くようになっています。
 冒険者ギルドの他にも出入口があって、そこから逃げられるようになっています。
 だから案内するのは良いですが、絶対に捕まえてください。
 そうして頂かないと俺が闇商人に殺されてしまいます!」

「よく言った、心配しなくても闇商人の手先は捕まえる」

「だめだ、やらせねぇ、巻き添えにされるのはごめんだぜ!」
「ガキが、調子乗るんじゃねぇ!」
「死にやがれ、クソガキ!」

 倉庫にいた下っ端ギルド職員が、口々にわめきながら襲ってきた。
 周囲に展開していた麻痺魔術を使って即座に床にはわせてやった。
 最低でも24時間は動けない、長ければ72時間は指1本動かせない。

「ハンドゥレド・パラライズ、ハンドゥレド・スリープ」

 使った分以上に魔力を展開させておく。
 麻痺だけではなく眠りの魔術も展開させておく。
 だが、地下に隠れている奴の実力が分からないのは問題だ。

「パーフェクト・スリープ、パーフェクト・パラライズ」

 今の俺が放てる最高レベルの眠りと麻痺の魔術を用意しておく。
 使わないと魔力がムダになるが、安全には変えられない。

 グィイイイイイ

 普段あまり使わないのか、手入れが悪いのか、あるいはこの音も警戒の為なのか?
 俺が秘密の扉を上に開けると嫌な音が鳴り響いた。
 
「アタック」

 扉がわずかに持ち上がり、できた隙間に展開していた魔術の半数を叩き込む。
 同時起動させていた多くの索敵魔術を使って地下の様子を見ながら叩き込む。
 もちろん2つのパーフェクト魔術は地下室に送り込んでいる。

 受付幹部にも麻痺魔術を叩きつけて、余計な荷物は倉庫に捨てておく。
 強化した身体を使って、自分で叩き込んだ魔術を追いかける。
 階段は、普通に地上から地下1階に下りるくらいの深さしかない。

 だが、階段を下りた先が行き止まりになっている。
 左に扉があるが、空気穴もないので、索敵魔術も麻痺睡眠魔術も先に行けない。
 送り込んだマジカル・パワー、魔力塊を扉に叩きつけて破壊する。

 腹の立つことに、入った場所は小さな部屋で、前と左右が扉になっている。
 ただの時間稼ぎだが、とても有効だ、このままでは逃げられてしまう!
 3つの扉にマジカル・パワーを叩きつける。

 正面と左の扉はビクともしない、先に何もないダミーかもしれない。
 どれほど押し開けようとしても、先が壁になっていて開かない可能性もある。
 だが、物凄く頑丈に造られた扉の可能性も捨てきれない。

 とりあえず破壊できた右側扉の奥に索敵魔術も麻痺睡眠魔術を送り込む。
 同時に正面と左の扉に魔力塊を叩きつけ続ける。

「ハンドゥレド・マジカル・パワー、ツー・メイク・アイボル」

 俺は新たな索敵魔術として目玉を創った。
 遠見のディスタント・ビュウと千里眼のクレアヴォイアンスはもう使っている。
 これ以上視力系の索敵を使うと酔ってしまう。
 
 だが、魔術で創り出した目玉なら好きな時に見る事ができる。
 マブタを閉じさせたら、いつでも視界を消す事ができる。
 正面と左の扉がダミーでなかったら、2つの目玉を送ればいい。

「ギャッ!」

 俺が身体強化を使って、扉が3つある小部屋にたどり着いた時には、全て終わっていた。

 右側の扉の奥には中肉中背の男が座っていたが、麻痺魔術100個で動けなくなっていたから、後は牢屋に放り込んで取り調べるだけだ。

 それにしても、麻痺魔術100個も必要だったのなら、最低でもヒュージゴブリン並の強さだったのだろう。

 念のために中肉中背男の先にある扉も壊して、先に何かあるか確かめた。
 手前にあった小部屋と同じ3つ扉がある部屋があった。
 そこも開けられる扉は1つだけだった。

 自分のいる小部屋の、空けられない扉を無理矢理開けようとしたが、押しては開けられなかった、引くとそれなりの力で開けられた。
 予想通り扉の先はなく、地下の土があるだけだった。

「さて、自殺できないようにして全て白状してもらおう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やがて最強になる結界師、規格外の魔印を持って生まれたので無双します

菊池 快晴
ファンタジー
報われない人生を歩んできた少年と愛猫。 来世は幸せになりたいと願いながら目を覚ますと異世界に転生した。 「ぐぅ」 「お前、もしかして、おもちなのか?」 これは、魔印を持って生まれた少年が死ぬほどの努力をして、元猫の竜と幸せになっていく無双物語です。

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

他人の人生押し付けられたけど自由に生きます

鳥類
ファンタジー
『辛い人生なんて冗談じゃ無いわ! 楽に生きたいの!』 開いた扉の向こうから聞こえた怒声、訳のわからないままに奪われた私のカード、そして押し付けられた黒いカード…。 よくわからないまま試練の多い人生を押し付けられた私が、うすらぼんやり残る前世の記憶とともに、それなりに努力しながら生きていく話。 ※注意事項※ 幼児虐待表現があります。ご不快に感じる方は開くのをおやめください。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

ハズレ属性土魔法のせいで辺境に追放されたので、ガンガン領地開拓します!

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:ハズレ属性土魔法のギフトを貰ったことで、周囲から蔑すまれ、辺境の僻地へ追放された俺だけど、僻地の村でガンガン領地開拓! アルファポリス第13回ファンタジー大賞にて優秀賞受賞! アルファポリスにてコミカライズ連載中! 「次にくるライトノベル大賞2022」ノミネート!(2022/11現在、投票受付中。詳細は近況ボードへ) 15歳の託宣の儀でハズレ属性である土魔法のスキルをもらった俺、エクト。 父である辺境伯や兄弟達から蔑まれ、辺境の寒村、ボーダ村へ左遷されることになる。 Bランク女性冒険者パーティ『進撃の翼』の五人を護衛につけ、ボーダの村に向かった俺は、道中で商人を助け、奴隷メイドのリンネを貰うことに。 そうして到着したボーダ村は、危険な森林に隣接し、すっかり寂れていた。 ところが俺は誰も思いつかないような土魔法の使い方で、村とその周囲を開拓していく。 勿論、辺境には危険もいっぱいで、森林の魔獣討伐、ダンジョン発見、ドラゴンとの攻防と大忙し。 宮廷魔術師のオルトビーンや宰相の孫娘リリアーヌを仲間に加え、俺達は領地を発展させていく―― ※連載版は一旦完結していますが、書籍版は3巻から、オリジナルの展開が増えています。そのため、レンタルと連載版で話が繋がっていない部分があります。 ※4巻からは完全書き下ろしなので、連載版とはまた別にお楽しみください!

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

【完結】『サヨナラ』そう呟き、崖から身を投げようとする私の手を誰かに引かれました。

仰木 あん
ファンタジー
継母に苛められ、義理の妹には全てを取り上げられる。 実の父にも蔑まれ、生きる希望を失ったアメリアは、家を抜け出し、海へと向かう。 たどり着いた崖から身を投げようとするアメリアは、見知らぬ人物に手を引かれ、一命を取り留める。 そんなところから、彼女の運命は好転をし始める。 そんなお話。 フィクションです。 名前、団体、関係ありません。 設定はゆるいと思われます。 ハッピーなエンドに向かっております。 12、13、14、15話は【胸糞展開】になっておりますのでご注意下さい。 登場人物 アメリア=フュルスト;主人公…二十一歳 キース=エネロワ;公爵…二十四歳 マリア=エネロワ;キースの娘…五歳 オリビエ=フュルスト;アメリアの実父 ソフィア;アメリアの義理の妹二十歳 エリザベス;アメリアの継母 ステルベン=ギネリン;王国の王

処理中です...