異世界整体師

克全

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第一章

第2話菩薩の使い

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「お待ちしておりました、どうぞこちらでお休みください」

 眼の前にいるのは、明らかに普通の人間ではなかった。
 何故それが分かるかと言えば、両菩薩から授かった能力で、相手の能力が分かるからだ。
 
「君は両菩薩の関係者なのかい?」

「はい、私は両菩薩から、この世界を見守り管理するように命じられております。
 今回はご主人様を新たな主人とし、命懸けで仕えろと命じられました」

 真面目な表情と口調で、とんでもない事を言ってくれる。
 命懸けで誰かに仕えてもらえるほど、俺は立派な人間じゃない。
 だけど、真剣に仕える気でいてくれる相手に、そんな事を口にできない。
 熱い思いを踏み躙られるほど、俺は無神経な人間じゃない。
 それに、眼の前にいる子がとても魅力的で、心から側にいて欲しいとも思う。
 いい歳になって寿命で死んだくせに、情けなくも邪欲煩悩を克服できていない。

「そうかい、それはありがたいな、それでは名前を教えてくれるかな」

「マリーと申します、これから宜しくお願いしたします」

「マリーとは美しい響きのいい名前だ。
 俺は佐藤一朗と言う、これからはイチロウと呼んでくれ」

「承りましたイチロウ様、これからはずっとイチロウ様と呼ばせていただきます
 お風呂の準備も食事の準備もできておりますが、どうなされますか?」

 光り輝く黄金の毛並みがとても奇麗で、思わず見とれてしまう。
 金色の瞳に見つめられたら、金縛りにあってしまいそうな気がする。
 声色も気品のなかに艶やかな色香があり、いつまでも聞いていたい思いがする。
 侍女服を凛々しく着込んだマリーの後に続くのだが、自然と視線がヒップに釘付けになってしまい、心に激しい動揺が走る。
 
 俺にこんな特殊な趣味があったのだと、生れて初めて気が付いた。
 小説やアニメの世界では普通の事のように書いているが、これは異類婚姻譚だ。
 俺は人間で、マリーは獣人なので、特殊な性癖がなければ劣情などもよおさない。
 マリーは完全人間形態ではなく、半獣形態なのだ。
 完全獣形態でないので、まだましともいえるが、俺の常識ではそれでもダメだ。

 だが、そんな気持ちの動揺を、マリーに気が付かれるわけにはいかない。
 マリーは菩薩に仕える者として、俺にも仕えようとしてくれているのだ。
 そんなマリーに劣情を感じているなんて、人として主人として絶対に許されない。
 理性を総動員して劣情に打ち勝とうとして、無意識に強く手を握っていた。
 有難い事に、眼の前に劣情に勝る欲望を刺激するモノが置かれていた。

 何とも言えない美味しそうな香りを放つ、 骨付サーロインステーキ、俗にいうTボーンステーキだ。
 熱い鉄板の上に、プチプチを脂をはじく大きな肉が鎮座している。
 定命が尽きる前は、頭と心は厚く大きい肉を欲していても、胃腸が受け付けてくれず、食べることができなかった。
 両菩薩のお陰で若く健康になった身体なら、全部食べることができる!
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