36 / 46
第一章
第36話:決断
しおりを挟む
バレンシア王国暦243年11月3日:冒険者ギルド・エディン支部
「リアム地域長はお優しいですね」
「あの場合はしかたがないでしょう。
あのボンボンはともかく、アメリアという女性に何かあったら寝覚めが悪いです」
「身分を乗り越えた大恋愛だそうです」
「グレイソン副支部長が色々と情報を仕入れてくれましたから。
聞いてしまった以上、見て見ぬ振りもできません」
グレイソンが情報を仕入れていなくても、砦と周囲10キロメートル四方に探索網を敷いているサクラが、全て教えてくれる。
グレイソンがハーパーの従者達に質問してくれたからこそ、その後で従者達が他人に話せないような内容も話し合ってくれていた。
その情報があるからこそ、俺はハーパーを追い込む気になったのだ。
「ハーパー殿は従妹の辺境伯令嬢を殺す覚悟ができるでしょうか?」
「さて、どうでしょうか。
俺がやれることは全てやりました。
伯爵公子に見初められた、平民侍女のアメリアは助けてやりたいです。
ですが、覚悟のない貴族の恋愛にこれ以上首を突っ込む義理はありません。
何を捨ててもアメリアを助けなければいけないのは、求婚したハーパーです」
「リアム地域長の申される通りです。
平民として平穏に暮らせるはずのアメリアを、辺境伯令嬢に憎まれるような立場にしたのはハーパーです。
家はもちろん親兄弟を捨てる事になっても、男として護らなければいけません」
「そういう事です」
「リアム地域長、もしハーパーがアメリアをここに残していく決断をした場合はどうされるのですか?」
「平民が、仕える貴族であり恋人でもある男に置いて行かれたのです。
保護するに決まっています」
「ハーパーまでここに残ろうとしたらどうされるのですか?」
「タコ殴りにして放りだします。
ハーパーが魔獣に喰われても気になりませんが、アメリアが気にするかもしれないので、輸送隊に魔境の外まで運ばせます」
「気がついて戻ってこようとしたらどうされるのですか?」
「輸送隊にいるサクラの分身体が叩きのめしてくれます」
「受け入れる気はないのですね?」
「あの場でも言いましたが、ここに王侯貴族を長期滞在させる気はありません。
場合によったら、短期の受け入れも拒否します。
今回はグレイソン副支部長の口添えがあったから砦に入るのを認めたのです」
「余計な事をしてしまって申しわけありません」
「いえ、よけいな事ではありませんよ。
グレイソン副支部長が口添えしてくれたお陰で、貴族の気紛れで殺されかけた女性を助けられたのです。
良くやってくださったと思っていますよ」
「おほめいただけるとうれしいものですね。
もしハーパーが素直にここを出て行き、礼儀正しく戻ってきた場合はどうされるのですか?」
「あの場でも言いましたが、役立たずの奴隷は不要です。
心から愛する恋人を殺されかけて、嘆き悲しむだけで仇を討とうともしない奴に、俺の命令を聞く覚悟などないでしょう。
俺が王や教皇を殺せと命じても従うはずがありません」
「確かにリアム地域長の申される通る通りですね。
ハーパー殿に国王や教皇を殺す覚悟などないでしょう。
リアム地域長が決断された時に失敗があってはいけません。
今切り捨てるべきですね」
「はい、俺は金さえもらえれば何の文句もありません。
奴隷契約を破り、違約金を支払わないと言うのなら、ドロヘダ伯爵家を皆殺しにして有り金全て奪うだけです」
「そのような事がないように、従者達にはドロヘダ伯爵と夫人宛ての手紙を渡しておいてはどうでしょう?」
「そうですね、それが一番穏やかなやり方ですね。
軟弱者の伯爵公子に求婚された所為で殺されかけたアメリアが、これ以上不幸にならないように、事前に手を打っておいた方が良いでしょう」
「どうなされるのですか?」
「グレイソン副支部長が提案してくれたので、良い事を思いつきました。
ここでのハーパーの言動を、ドロヘダ伯爵と夫人に伝えるのです。
特に俺と奴隷契約をした時の言動を詳しく伝えるのです。
家の事を大切に思う両親なら、ハーパーを殺すでしょう。
ハーパーを家よりも大切だと思う両親なら、どこかに幽閉するでしょう」
「どちらにしてもアメリアは元の生活に戻れるという事ですね」
「はい、貧しくても平穏な人生が歩めるでしょう。
ハーパーの従者達の話しでは、とても性格の良い娘さんのようです。
この砦で生活したいと言うのなら、喜んで迎え入れます。
もしハーパーを騙すために良い女を演じていたのなら、砦を追い出します。
あれだけ奇麗な女性ですから、性格がとても悪くても、容姿にだまされて求婚してくる男は幾らでもいるはずです」
「そうですね、ハーパーや従者達を騙せるくらいの悪女という可能性もありますね」
「はい、全ては明日になり、直接話をしてみなければ分からない事です」
「従者達が言っていたように、気立ての良い女性ならいいのですが……」
「リアム地域長はお優しいですね」
「あの場合はしかたがないでしょう。
あのボンボンはともかく、アメリアという女性に何かあったら寝覚めが悪いです」
「身分を乗り越えた大恋愛だそうです」
「グレイソン副支部長が色々と情報を仕入れてくれましたから。
聞いてしまった以上、見て見ぬ振りもできません」
グレイソンが情報を仕入れていなくても、砦と周囲10キロメートル四方に探索網を敷いているサクラが、全て教えてくれる。
グレイソンがハーパーの従者達に質問してくれたからこそ、その後で従者達が他人に話せないような内容も話し合ってくれていた。
その情報があるからこそ、俺はハーパーを追い込む気になったのだ。
「ハーパー殿は従妹の辺境伯令嬢を殺す覚悟ができるでしょうか?」
「さて、どうでしょうか。
俺がやれることは全てやりました。
伯爵公子に見初められた、平民侍女のアメリアは助けてやりたいです。
ですが、覚悟のない貴族の恋愛にこれ以上首を突っ込む義理はありません。
何を捨ててもアメリアを助けなければいけないのは、求婚したハーパーです」
「リアム地域長の申される通りです。
平民として平穏に暮らせるはずのアメリアを、辺境伯令嬢に憎まれるような立場にしたのはハーパーです。
家はもちろん親兄弟を捨てる事になっても、男として護らなければいけません」
「そういう事です」
「リアム地域長、もしハーパーがアメリアをここに残していく決断をした場合はどうされるのですか?」
「平民が、仕える貴族であり恋人でもある男に置いて行かれたのです。
保護するに決まっています」
「ハーパーまでここに残ろうとしたらどうされるのですか?」
「タコ殴りにして放りだします。
ハーパーが魔獣に喰われても気になりませんが、アメリアが気にするかもしれないので、輸送隊に魔境の外まで運ばせます」
「気がついて戻ってこようとしたらどうされるのですか?」
「輸送隊にいるサクラの分身体が叩きのめしてくれます」
「受け入れる気はないのですね?」
「あの場でも言いましたが、ここに王侯貴族を長期滞在させる気はありません。
場合によったら、短期の受け入れも拒否します。
今回はグレイソン副支部長の口添えがあったから砦に入るのを認めたのです」
「余計な事をしてしまって申しわけありません」
「いえ、よけいな事ではありませんよ。
グレイソン副支部長が口添えしてくれたお陰で、貴族の気紛れで殺されかけた女性を助けられたのです。
良くやってくださったと思っていますよ」
「おほめいただけるとうれしいものですね。
もしハーパーが素直にここを出て行き、礼儀正しく戻ってきた場合はどうされるのですか?」
「あの場でも言いましたが、役立たずの奴隷は不要です。
心から愛する恋人を殺されかけて、嘆き悲しむだけで仇を討とうともしない奴に、俺の命令を聞く覚悟などないでしょう。
俺が王や教皇を殺せと命じても従うはずがありません」
「確かにリアム地域長の申される通る通りですね。
ハーパー殿に国王や教皇を殺す覚悟などないでしょう。
リアム地域長が決断された時に失敗があってはいけません。
今切り捨てるべきですね」
「はい、俺は金さえもらえれば何の文句もありません。
奴隷契約を破り、違約金を支払わないと言うのなら、ドロヘダ伯爵家を皆殺しにして有り金全て奪うだけです」
「そのような事がないように、従者達にはドロヘダ伯爵と夫人宛ての手紙を渡しておいてはどうでしょう?」
「そうですね、それが一番穏やかなやり方ですね。
軟弱者の伯爵公子に求婚された所為で殺されかけたアメリアが、これ以上不幸にならないように、事前に手を打っておいた方が良いでしょう」
「どうなされるのですか?」
「グレイソン副支部長が提案してくれたので、良い事を思いつきました。
ここでのハーパーの言動を、ドロヘダ伯爵と夫人に伝えるのです。
特に俺と奴隷契約をした時の言動を詳しく伝えるのです。
家の事を大切に思う両親なら、ハーパーを殺すでしょう。
ハーパーを家よりも大切だと思う両親なら、どこかに幽閉するでしょう」
「どちらにしてもアメリアは元の生活に戻れるという事ですね」
「はい、貧しくても平穏な人生が歩めるでしょう。
ハーパーの従者達の話しでは、とても性格の良い娘さんのようです。
この砦で生活したいと言うのなら、喜んで迎え入れます。
もしハーパーを騙すために良い女を演じていたのなら、砦を追い出します。
あれだけ奇麗な女性ですから、性格がとても悪くても、容姿にだまされて求婚してくる男は幾らでもいるはずです」
「そうですね、ハーパーや従者達を騙せるくらいの悪女という可能性もありますね」
「はい、全ては明日になり、直接話をしてみなければ分からない事です」
「従者達が言っていたように、気立ての良い女性ならいいのですが……」
0
お気に入りに追加
242
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたにすべて差し上げます
野村にれ
恋愛
コンクラート王国。王宮には国王と、二人の王女がいた。
王太子の第一王女・アウラージュと、第二王女・シュアリー。
しかし、アウラージュはシュアリーに王配になるはずだった婚約者を奪われることになった。
女王になるべくして育てられた第一王女は、今までの努力をあっさりと手放し、
すべてを清算して、いなくなってしまった。
残されたのは国王と、第二王女と婚約者。これからどうするのか。
逆ハーレムが成立した後の物語~原作通りに婚約破棄される当て馬女子だった私たちは、自分たちの幸せを目指して新たな人生を歩み始める~
キョウキョウ
恋愛
前世でプレイした乙女ゲームの世界に転生したエレノラは、原作通りのストーリーを辿っていく状況を観察していた。ゲームの主人公ヒロインでもあったアルメルが、次々と攻略対象の男性たちを虜にしていく様子を介入せず、そのまま傍観し続けた。
最初の頃は、ヒロインのアルメルがゲームと同じように攻略していくのを阻止しようと奮闘した。しかし、エレノラの行動は無駄に終わってしまう。あまりにもあっさりと攻略されてしまった婚約相手の男を早々と見限り、別の未来に向けて動き始めることにした。
逆ハーレムルートの完全攻略を目指すヒロインにより、婚約破棄された女性たち。彼女たちを誘って、原作よりも価値ある未来に向けて活動を始めたエレノラ。
やがて、原作ゲームとは違う新しい人生を歩み始める者たちは、幸せを追い求めるために協力し合うことを誓うのであった。
※本作品は、少し前に連載していた試作の完成版です。大まかな展開や設定は、ほぼ変わりません。加筆修正して、完成版として連載します。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
昼夜逆転転生異世界生活〜夜に強いヴァンパイヤになりました
パブロフ
ファンタジー
お決まりの展開で異世界に転生し、少し変わった事情で異世界の夜を中心に生活する事になった男性の話です。
ポジティブ思考の主人公を暖かく見守っていただけると幸いです。
前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~
霜月雹花
ファンタジー
17歳の夏、俺は強盗を捕まえようとして死んだ――そして、俺は神様と名乗った爺さんと話をしていた。話を聞けばどうやら強盗を捕まえた事で未来を改変し、転生に必要な【善行ポイント】と言う物が人より多く貰えて異世界に転生出来るらしい。多く貰った【善行ポイント】で転生時の能力も選び放題、莫大なポイントを使いチート化した俺は異世界で生きていく。
なろうでも掲載しています。
私が本物の聖女です。~偽聖女の妹の代わりに王太子の治療と性処理をしたら溺愛されるようになりまして~
二位関りをん
恋愛
侯爵と娼婦の間に生まれた子・マルガリータはメイド兼薬師。カルナータカ侯爵家にて聖女と持て囃される異母妹レゼッタの管理の元、地下にある専用の工場で日々メイドらと共に魔法薬を作る日々を送っていた。本来はマルガリータこそが真の聖女の力を持っているのだが、それは隠ぺいされている。
ある日、戦争により瀕死の重傷を負った隣国の王太子・エドワードが家臣と共に野戦病院に運ばれてくる。しかしレゼッタはマルガリータらメイドに全てを任せ夜会へと向かっていった。マルガリータの必死の看病により意識を取り戻したエドワード。彼と関係を持ったことで人生が大きく変わる事になる。
堅実で一途な隣国の王太子×貴族と娼婦の間に生まれた真の聖女であるメイド兼薬師
※表紙はAIピクターズで生成したものを使用しています。
※印の話にはR18シーンがございます
ブランリーゼへようこそ
みるくてぃー
恋愛
今王都で人気のファッションブランド『ブランリーゼ』
その全てのデザインを手がけるのが伯爵令嬢であるこの私、リーゼ・ブラン。
一年程前、婚約者でもあった王子に婚約破棄を言い渡され、長年通い続けた学園を去る事になったのだけれど、その際前世の記憶を取り戻し一人商売を始める事を決意する。
試行錯誤の末、最初に手掛けたドレスが想像以上に評価をもらい、次第に人気を広めていくことになるが、その時国を揺るがす大事件が起きてしまう。
やがて国は変換の時を迎える事になるが、突然目の前に現れる元婚約者。一度は自分をフッた相手をリーゼはどうするのか。
そして謎の青年との出会いで一度は捨て去った恋心が再び蘇る。
【注意】恋愛要素が出てくるのは中盤辺りからになると思います。最初から恋愛を読みたい方にはそぐわないかもしれません。
お仕事シリーズの第二弾「ブランリーゼへようこそ」
ローズマリーへようこそ
みるくてぃー
恋愛
「スイーツショップ ローズマリーへようこそ」
両親が亡くなり姉妹二人きりになったある日、私の暮らす伯爵家に叔父夫婦が乗り込んできた。
まず母が信頼していたメイド長が辞めさせられ、徐々に入れ替えられていく使用人たち、そして私には無理やりの婚約話。
「いいわよ別に!伯爵の地位も屋敷もくれてやるわ!」
私は前世の知識で夢のスイーツショップを開店させる。
そこには愛する妹と心強い精霊たち、そして信頼で結ばれた使用人達の姿があった。
お仕事シリーズの第一弾「ローズマリーへようこそ」
婚約破棄して、めでたしめでたしの先の話
を
ファンタジー
(2021/5/24 一話分抜けていたため修正いたしました)
昔々、あるところに王子様がいました。
王子様は、平民の女の子を好きになりました。平民の女の子も、王子様を好きになりました。
二人には身分の差があります。ですが、愛の前ではささいな問題でした。
王子様は、とうとう女の子をいじめる婚約者を追放し、女の子と結ばれました。
そしてお城で、二人仲良く暮らすのでした。
めでたしめでたし。
そして、二人の間に子供ができましたが、その子供は追い出されました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる