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第一章

第30話:交易都市の代官

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バレンシア王国暦243年10月17日:交易都市・代官所

「御代官様!
 大神殿が、ソーヤー司教領が襲われました!
 司教様以下、多くの神官方が捕らえられました!」

「なに?!
 バカな事を申すな!
 大神殿には腕に覚えのある冒険者や犯罪者が数多くいるのだぞ!
 王国騎士団が襲っても勝ち目はないのだ!」

「そうは申されましても、殺されたという報告を受けております」

「だれだ、誰がそのような事をしたのだ?!」

「一人はクルシー家の三男ワイアットと名乗っております」

「クルシー家の三男ワイアット?
 聞いた事もないぞ?」

「一人は聖堂騎士のゼイヴィアという者でございます」

「ちっ、教会の内輪揉めか!
 不満を持っている奴には、金を与えるか女を抱かせるかして押さえ込めよ!
 それもこれもジェイソンとかいう愚かな司祭がバカをやったからだ。
 国王相談役を務めておられる、サンティアゴ様の御子息、ホセ殿に逆らうからこのようになるのだ!」

「その、御代官様。
 最後はそのホセ様の配下だった者が、徒党を組んで神殿を襲いました」

「なんだと?!
 ジェイソンとホセの配下は皆殺しにしたのではないのか?!
 王国と教会の上層部が話し合い、よけいな事を口にする者は皆殺しにしたのではないのか?!」

「御代官様、わたしのような下僚にそのような事を申されても、重要な事は何も聞かされておりませんので、答えようがございません」

「えええええい、役立たずが!
 商人と紅毛人を捕らえに行った騎士達が戻ってきたら、大神殿に向かわせろ!
 大神殿を襲った連中を皆殺しにするのだ!
 もしソーヤー司教達が生き残っていたら、殺してしまえ!」

「本当に殺してしまってよろしいのでございますか?」

「お前は馬鹿か?!
 ソーヤー司教からは多額の賄賂をもらっているのだ。
 それが表沙汰になったら、俺はもちろんお前達も皆殺しにされるのだぞ!
 この機会に口を封じなければ生き残れないのだ!
 サンティアゴ様が御子息まで口封じしたのを忘れるな!」

「はっ、決して忘れません!
 騎士達が戻り次第、大神殿を襲わせます!」

 いよいよ俺の出番だな。

「そんな事は絶対にさせない。
 せっかく生き証人を確保したんだ。
 前回と同じような失敗を繰り返さない」

「貴様、何者だ!」

「正義の味方だよ、正義の。
 絶対に殺すな。
 だが、生まれてきた事を後悔するくらいの苦痛を与えてやれ」

 俺はサクラに命じた。
 この腐れ外道共のために苦しんだ人々に代わって罰を与える。
 肉を裂き、身体を焼き、酸で肉を溶かして激痛を与える。

「ギャアアアアア、いたい、いたい、いたい!」

 俺にはできないが、サクラが代わってやってくれる。
 ありがたい事に、汚れ仕事は全部サクラがやってくれる。
 汚れ仕事だけでなく、俺にはできない事を全部やってくれる。

「ギャアアアアア、いたい、ゆるしてくれ、いたい、ゆるしてくれ!」

 前回はジェイソンやホセを殺させてしまった事で、重要な生き証人を失った。
 サクラの分身体に顔形を似せさせることはできるが、本人ではないから、何かの時に偽者だとバレるかもしれない。

「ギャアアアアア、いたい、金ならやる、いたい、金ならやるからゆるしてくれ!」

 同じ失敗をしないように、今回は重要な証人は死なせない。
 俺は殺さないし、他の誰にも殺させない。

「ギャアアアアア、指が、眼が、痛い、許してくれ、お願いだ!」

 大事な証人として生かしておくが、絶対に許さない。
 生き続ける限り、被害者と同じ苦痛は味わってもらう。

「ギャアアアアア、地位もやる、養子にして地位もやるから許してくれ!」

 同時に、万が一死んでしまった時の事も考えている。
 死んだ事は絶対に表に出さない。
 サクラの分身体が成りすますためにも生きている事にする。

「ギャアアアアア、殺してくれ、お願いだから殺してくれ!」

 本物が生きている場合には、隠し玉として死んだ事にする。
 ソーヤー司教達は殺された事になっているが、実際には生きている。
 だが基本はあくまでも死なさない事だ。

「駄目だ、絶対に許さないし殺さない。
 お前に生き地獄に落とされた人々に代わって復讐をしているのだ。
 どれほど死にたくしても死ねない。
 未来永劫苦痛に苛まれ続けるのだ!」
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