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第一章

第25話:ノワールとブロンシュ

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バレンシア王国暦243年10月4日:冒険者ギルド・エディン支部

「ノワール、ブロンシュ、そこにいるのか?」

 本当は気配察知で近くに居るのは分かっているのだが、そんな事を口にすると二人が警戒してしまうので、知らない振りをしているのだ。

「ソフィアが何度も言っていると思うが、外でも三人で遊びたいそうだ。
 もう地上に危険な人間はいないし、二人を護っているスライムより強い人間もいないから、たまには外で遊んだらどうだ?」

 おせっかいだとは分かっているが、ソフィアには幸せになってもらいたい。
 安全なエディン支部に移住する事になったが、元奴隷の職員や冒険者、有能な職員や冒険者しかいないここには、一緒に遊べるような子供がいない。

 今思い出しても心から怒りがわいてくるのだが、孤児院の子供達は全て慰み者にされて命を失っていた。

 奴隷として国外に売られるのは大人の男女しかいなかった。
 子供の奴隷を買っても、大人にするまでの費用と時間が回収できないのだろう。

「人間は信用できない、お前の事も信用していない」

 そうは言っても、穴から出てきて話してもらえるくらいは信用してくれている。

「俺の事は信用してくれなくてもいい。
 ソフィアとスライムを信用してくれないか?
 何も最初から街の中に出ろとは言わないよ。
 最初はソフィアの家で遊べばいい。
 知っているとは思うが、ソフィアの家にはここに逃げ込むための階段がある。
 それを使えば他の人間に知られることなく地上とここを行き来できる。
 安全だと分かったら、庭に出て太陽の光を浴びたらいい」

「おねえちゃん、ソフィアのお家に行ってみようよ。
 おかあさんとおとうさんが護ってくれるから大丈夫だよ。
 またお外に出てみたいよ!」

 妹のブロンシュにお願いされたノワールが凄く悩んでいる。
 姉として妹を確実に護りたい気持ちと、妹のおねだりを叶えてやりたい気持ち。

「ノワール、ウサギ獣人族と人間は違うのなのかもしれないが、人間は太陽の光を全く浴びないと病気になってしまうのだ。
 もしかしたらウサギ獣人はヒカリゴケの光だけでも大丈夫なのかもしれないが、念のために偶には太陽の光を浴びてみないか?
 どうせ太陽の光を浴びなければいけないのなら、ソフィアと一緒に浴びた方が少しでも安全なのではないか?」

「おねえちゃん、わたしびょうきになっちゃうの?
 おねえちゃんもびょうきになっちゃうの?
 おかあさんとおとうさんはだいじょうぶ?」

「心配しなくてもいい、人間の言う事など嘘に決まっている!
 お前の言う事など信じないぞ、リアム。
 これがお前の罠ではないとは言えない!」

「俺の事は信じなくてもいい。
 ほとんどの人間を信じられないのも当然だ。
 だがソフィアだけは信用してやってもらえないか?」

「うるさい、うるさい、うるさい、お前の言う事など聞かないし信じない!」

「おねえちゃん、おねがい、お外に行きたいよ」

「ノワール、大丈夫だよ、私達が必ず護ってあげる」

「そうよノワール、私達が必ず護ってあげますよ。
 だから安心して外に出ればいいのです」

「おねえちゃん、おとうさんもおかあさんもまもってくれるっていってるよ。
 だからお外に出ようよう」

 ノワールは、こいつらはお父さんでもお母さんでもない、そう言いたいのだが、幼い妹にそう言えなくて、必死で言葉を飲み込んでいるようだ。

 それにしても、思っていた以上にサクラの分身体が二人を大切にしている。
 サクラの分身体だから、同じ性格をしているはずだ。
 俺が育てたから、俺の事を最優先にしているはずなのだが……

 それに、2体のスライムが想像以上に成長している。
 分裂した時はレベル2キングスライムだったはずだ。
 それが今では2体ともレベル12キングスライムになっている。

 サクラが協力しなければとてもこんな成長はできない。
 俺がサクラにできる限り成長するように命じているからではあるが、それにしても驚くほどの急激な成長だ。

 これなら純血種のエルダードラゴンとも互角に戦えるかもしれない。
 ノワールにもその強さを感じて貰えれば、ソフィアに会いに外に出てくれるかもしれない。

「ノワール、このままお父さんやお母さんの言う事を聞かない悪い子を続けるなら、俺も怒らなければいけなくなる。
 人間のいる街に入る前に、地上の魔境に出て、お父さんとお母さんがどれほど強いかを確かめさせる。
 ある程度自由な状態で外に出るのか、それとも俺に無理矢理連れ出されるのか、好きな方を選べ!」

「分かったよ、その代わり絶対にブロンシュには手を出すなよ」

「約束する、絶対に手を出さない。
 二人のお父さんとお母さんがどれだけ強いか見せてあげるだけだ。
 強さが確認できたら、安心してソフィアと外で遊べるだろう?」

 ★★★★★★

「すごい、すごい、おとうさんすごい。
 ごぶりんもこぼるともおーくもころしてる!」

「……リアム、なんであんなに強いんだ」

 俺はノワールとブロンシュが不安に思わないように、二人の居住地から一旦俺の地下基地に行き、更に大きく迂回したうえで地上に出た。

 その気になれば、今ノワールとブロンシュが住処にしている場所から、直接地上に出る縦穴を掘る事もできるのだが、そんな無神経な事はしない。

 地上に出る前に、以前のノワールとブロンシュなら逃げるしかなかった魔獣や半獣族を、サクラの探索網を応用する事で集めさせておいた。

 成人のウサギ獣人族でも全く歯が立たない、ただ逃げるしかなかった魔獣や半獣族を、父親に擬態したハチスライムが分かりやすく叩き殺す。

 ノワールはブロンシュに、本当のお父さんはこんな強くない、と言いたいのを飲み込んでいる。
 無邪気に父親の強さを喜んでいる妹を傷つけたくないからだ。

「お父さん、私もノワールとブロンシュに良い所を見せたいです。
 交代してくれませんか?」

「ああ、その方がノワールとブロンシュも安心するだろう」

 サクラの分身体、ハチスライムとナナスライムは本当に両親のような会話をして、戦う役目と護る役目を交代した。
 後は母親に変化しているナナスライムの無双だった。

 サクラが誘い込んでくれる魔獣、灰魔狗や灰魔豹だけでなく、更に強力な灰魔鹿や灰魔熊までバッタバッタと叩き殺している。
 灰角鼠や赤牙兎などは、もっと強い魔獣を斃すついでに殺している。

「すごい、すごい、おかあさんもすごい。
 おとうさんとおかあさんがいてくれたら何もしんぱいないね、おねえちゃん」

 ブロンシュは両親に変化したスライムの強さにはしゃぎ安心している。
 だがノワールは、逆に不安そうな顔をしている。

 ノワールから見れば、2体のスライムは俺が付けた監視も同然だ。
 両親の姿に似せている事も気に食わないだろう。
 
 だが俺だって両親に似させる気などなかった。
 物心つく前に両親を人間に殺されたブロンシュが、両親に似た姿を欲して泣くので、仕方なくハチとナナがノワールから色々聞いて擬態したのだ。

「そうだよ、ノワール、ブロンシュ。
 お父さんとお母さんは何があっても護ってくれる。
 だから安心して外に出ていいんだよ。
 でもね、そんな強いお父さんとお母さんが、危ないから止めなさいという事は、絶対にやってはいけないよ」

 ノワールには可哀想だが、お姉ちゃんなら我慢してもらおう。
 それよりは、徐々にでも絶対に信頼できるスライムだと理解してもらう。
 それが一番二人を護る事につながる。
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