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第一章

第18話:闇奴隷商人

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バレンシア王国暦243年4月25日:ロアノーク地区

「急げ、急いで奴隷達を移動させるのだ!」

 ロアノーク代官所が支配している地域の中でもひと気の少ない場所、エディン大魔境との境界線に近い所にある砦の地下は、とてもあわただしかった。

 教会と決定的な亀裂が生まれた王国は、ホセの証言を信用して、教会が国に隠れて人身売買をしている証拠を集めようとしていた。

 だが俺がサクラを使って調べた範囲では、そもそも教会が行う奴隷売買の手先となっていたのはホセ達ローソンズクランだ。

 とても厳しく制限されたこの国と他国との貿易を、教会とローソンズクランを使って密貿易させていたのは、ホセの父親が率いる一派だという。

 どいつもこいつも国法を破って不法な利益を得ている。
 それで辛い想いをさせられているのは、一生懸命生きている平民達だ。

 サクラ、ゼイヴィアとシャビエルの姿と装備は覚えているか?
 ローソンズクランから逃げて俺達が始末した奴の姿は覚えているか?

 以心伝心、サクラは俺の考えを読んで行動してくれた。
 教会騎士のゼイヴィアとシャビエルの装備で現れてくれた。

 サクラは身体に取り込んだ金属や岩石を加工して身に纏う事ができる。
 メタルスライムなら普通のスライムフォルムで全身が金属になるのだが、サクラは知っている人間の姿になって、装備に変化させた金属を纏う事ができる。

 今回は騎士装備をしたゼイヴィアとシャビエル、冒険者の装備をしたローソンズクランの冒険者に変化してくれている。

 本当に注意深く観察すれば、足の裏が細い線で地面と繋がっている。
 全ての分身体が地下にいるサクラの本体と繋がっているのだ。
 だから厳密に言えば分身体ではなくサクラの一部なのだ。

「捕らえろ、国法に背いて奴隷売買を行う者共を捕らえろ!
 ホセ様や御実家が黒幕だという証拠を隠滅するのだ!
 全て教皇がやらせた事にするのだ!」

「返り討ちにしろ、捕まれば処刑されるぞ!
 教皇様の御迷惑にならないように、皆殺しにするのだ!
 我らが捕まったら教会が潰されてしまうぞ!」

 サクラの一部が迫真の演技をしてくれる。
 それを聞いた奴隷商人達も国の討伐隊も、ホセ達や教皇達が黒幕だと信じてしまう事だろう。

 だが実際には、証拠となるような物はまだ発見できていない。
 サクラの分身体を潜入させたくても、俺はこの場所すら知らなかった。

 ホセが、我が身可愛さに教会を国に売るまで分からなかったのだ。
 いや、ホセの父親である国王相談役が損切を決断したのだろう。

「チッ、お前達も王国の連中を迎え討て。
 できれば皆殺しにして逃げられるようにしろ。
 それがダメならできるだけ時間を稼げ。
 俺はその間に奴隷の口を封じて書類を燃やしてしまう」

 砦の全ての網の目のように広げられたサクラの身体から情報が集められる。
 俺はサクラが感じたり聞いたりした全てを知ることができる。

 あまりにも情報量が多くて、会話に関しては雑音同然なのだが、その中で重要だと思われる会話をサクラが選んで伝えてくれる。

 そのお陰でようやく奴隷売買に関する書類の隠し場所を知ることができる。
 だがその前にどうしてもやらなければいけない事がある!

 サクラ、その奴隷商人をぶちのめして奴隷達を開放しろ。
 教会や王国には渡さず、冒険者ギルドにまで連れて行くのだ。
 分身体を使って構わないから、確実に成功させろ。

 以心伝心、俺の想いを感じ取ってくれたサクラは、身体の一部を無個性な冒険者に変えて奴隷達を開放してくれた。
 こんな時のために分離してあったキング級の分身体に護衛させてくれた。

 もちろん、奴隷商人の事もキッチリと確保してくれている。
 俺が苦手な拷問も、サクラが代わりにやってくれる。

 サクラに俺以外の人間に対する愛情などない……とは言い切れないな。
 少なくともソフィアには愛情を感じているようだ。
 だが奴隷商人には情け容赦のない拷問をしてくれたようだ。

 直ぐに重要な書類の隠し場所を聞き出してくれただけでなく、暗号や隠語で書かれた書類の解読方法まで聞き出してくれた。

 ★★★★★★

「マスターキャサリン、ここに奴隷達が逃げて来ているはずだが?」

「やはり貴男が黒幕だったのですね、リアム。
 ここを王国と教会の争いに巻き込んで何が面白いのですか?!」

「俺が何もしなくても、ホセのローソンズクランがここの所属なのですから、嫌でも巻き込まれていましたよ。
 どうせ巻き込まれるのなら、悪の手先ではなく正義の味方として巻き込まれた方が良いでしょう?」

「正義の味方の方が良いですが、このギルドを潰すくらいなら、悪の手先になった方が良いかもしれないと、今思いました」

「そんな嘘をついても無駄ですよ。
 マスターキャサリンがそんな性格なら、ホセのローソンズクランに最後まで抵抗していませんでした」

「……私を買い被るのは止めてください。
 冒険者連合の理事長が、大陸からエマを引っ張って来てくださらなかったら、ここまで抵抗できたとは思えません」

「それでも、最後まで抵抗されていたのは確かですよ。
 そんなマスターキャサリンだからこそ、俺は奴隷達をここに逃がしたのです。
 それで、奴隷達は何処にいるのですか?」

「これほどの大人数を隠せる場所などないので、一時的に解体場に居てもらっていますが、リアムには匿う場所に当てがあるのですか?」

「冒険者ギルドが後ろ盾になれば、普通に宿屋に泊まらせても大丈夫だと思っていたのですが、難しいのですか?」

「国と教会が互いに罵り合い争っているのです。
 少しでも有利な証人や証拠を集めようとして、奴隷達の奪い合いや口封じが始まり、収集つかない大騒動になるのは目に見えています」

「そうですかね?
 エマが支部長として匿えば、連中も手出しできないのではありませんか?」

「エマですか?
 確かにエマなら奴隷達を見捨てたりはしないでしょうが、いくら強くても彼女は一人ですよ?」

「確かにエマは一人だが、そのたった一人のエマは、多くの国が喉から手が出るほど欲しい人材なのではないのか」

「確かにその通りですが、それと奴隷達が大丈夫という話がどこでどうつながるのですか?」

「エマは既に冒険者ギルドの支部長権限を持っていると言っていたでしょう?」

「はい、確かにそう言いました」

「だったら実際にこの国に支部を作ってもらえばいい。
 その冒険者ギルドの職員や冒険者として奴隷を採用すればいい。
 エマをどうしても確保したい国は、もう奴隷には手を出さない」

「……それは絶対の話しではありませんよ。
 それに、教会の方はどうするのですか?」

「ギルドの設立場所を大魔境の内部にすればいいのです。
 そうすれば国もエマに新たな領地を与える必要がなくなります。
 何より教会の貧弱な騎士では大魔境の奥にまで入り込めない」

「おもしろい話じゃないか、リアム。
 あんた、私が聞いているのを承知で今の話をしたね?
 本音を包み隠さず話してもらおうか!」
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