上 下
17 / 46
第一章

第17話:秘密基地

しおりを挟む
バレンシア王国暦243年4月20日:大魔境

「すごい、すごい、すごい、こんなお家初めて!
 ここもリアムお兄ちゃんのお家なの?!」

「そうだよ、何かあった時に逃げ込める家は多い方が良いからね」

「すごい、すごい、すごい、2つもお家があるんだ」

「残念、2つだけではないよ。
 他にも8つ家があるよ」

「すごい、すごい、すごい、じゃあ10個もお家があるの?」

「ソフィアの方が凄いよ、もう足し算ができるのだね」

「えへへへ、お母さんが教えてくれたの」

 ソフィアが嬉しそうにサクラの分身体に抱き着いている。
 いくら母親に似せたとはいえ、懐き過ぎている気がする。
 別れる時に傷つかなければいいのだが……

「そうか、よかったね。
 夜は眠れたかい?
 ヒカリゴケが明るすぎなかった?」

 この地下基地の部屋は天井も床も壁も薄く光るヒカリゴケが覆いっている。
 眠る時はヒカリゴケの生えていない部屋に移動するのだ。
 だがソフィアの齢だと真っ暗な部屋はとても怖いはずだ。

「お母さんが一緒に寝てくれるから大丈夫なの。
 ずっとお母さんと一緒に眠りたかったから、どこでもいいの」

 ……これは、とても分身体を返してもらえる雰囲気ではないな。
 クリントンが安全になり、父親と一緒に暮らせるようになったら、二人に貸した分身体を返してもらう心算だったのだが……

 母親に似せた部分だけサクラから分身させて、ソフィアの護衛をさせると言った時に、名前を母親と同じアレイナにしたいと言われた時に嫌な予感はしていた。

 しかたがない、二人に貸したキングスライム二体分の経験値を稼ごう。
 キングスライム二体分程度なら、サクラの強さに大した影響はないが、その僅かな弱体化で負ける可能性もある。

「そうか、お母さんと一緒なら暗くても大丈夫なんだね。
 だったら絶対にお母さんから離れてはダメだよ。
 ここの地上にはとても怖い魔獣がいるからね。
 少しだけど、ここと同じ地下に住む魔獣もいるからね」

「はい、分かった。
 絶対にお母さんから離れない、ねぇえ、お母さん」

「ええ、絶対にソフィアから離れないから安心しなさい」

「うん、お母さん!」

 ソフィアは事あるごとにアレイナスライムに抱き着く。
 アレイナスライムもできるだけ人間の姿を保ち、余分な部分を部屋中に広げて、少しでも早く敵の接近を察知しようとしている。

「ノワールやブロンシュとは仲良くできていた?」

「うん、仲良く遊んだよ。
 二人にも新しいお母さんとお父さんが居て、六人で遊んだの」

 俺の事は警戒しているようだが、ソフィアとは仲良くなれたのか。
 護衛の分身体は信じてくれたのか?
 ソフィアと同じように失くした家族の姿をとらせたからか?

「ご飯は美味しかった?
 食べられないような物はなかった?」

「えへへへ、お母さんが好き嫌いはしちゃダメって言われた。
 ノワールちゃんとブロンシュちゃんと同じように人参も食べなさいって。
 がんばって食べたら美味しかったの。
 クリントンで食べた人参と違って甘くて美味しかったの!」

「そうか、人参が美味しかったのか。
 ノワールとブロンシュは人参が好きなのかい?」

「うん、ノワールちゃんとブロンシュちゃんもお肉やお魚が嫌いなの。
 好き嫌いしちゃダメって言ったら、ウサギさんはお野菜しか食べられないんだって、お母さんが教えてくれたの。
 私と一緒なの、ねえ、お母さん」

「よく覚えていましたね。
 人間は何でも食べられますが、種族によってはお肉、お魚、お野菜が食べられない事があるので、無理を言わないようにしましょうね」

 おい、おい、おい、好き嫌いを治すというのなら、肉と魚も食べさせろ!
 と言いたいところだが、前世にもベジタリアンがいたしな……
 命を奪いたくないと言われたら、無理強いはできないな。

「はい、お母さん」

「そうか、これからもお母さんの言う事をよく聞いて、俺かお父さんが迎えに来るまでここで待っていなさい」

「はい、リアムお兄ちゃん」

 良いか悪いかは俺には決められないが、これほどソフィアがアレイナスライムを慕っているのなら、勝手に何処かに行く事はないだろう。

 問題があるとしたらノワールとブロンシュだ。
 今はまだ生き残るためにここにいる心算のようだが、何をきっかけにここから逃げ出すか分からない。

 絶対に助けなければいけない義理などないが、あの現場を見てしまったら、聞きたくもない事情を知ってしまったら、見殺しにするのは寝覚めが悪い。

「ノワール、ブロンシュ、居るか、リアムだ。
 何かここに不自由はないか?
 食べ物は大丈夫か?
 今度何時戻れるか分からないから、要望があれば今言っておいてくれ」

 二人の居る場所は気配察知を使って分かっている。
 この地下基地の食糧生産地帯、地下農園に隠れている。
 地下農園には田畑地域と牧場地域がある。

 畑になっている部分は、床だけ豊かな土に覆われている。
 天井と壁には光度の強い品種のヒカリゴケに覆われている。
 夜が必要な作物のために、サクラの分身体がヒカリゴケを覆う時間帯もある。

 そのお陰で地下でも穀物や野菜が収穫できる。
 放牧されている家畜も天候や天敵を気にせずに暮らせる。
 もう俺一人ではないし、逃げられるように10階層くらい増やしておくか?

「人間に何かを頼む事などない!
 私達を何時までここに閉じ込めておく気だ?!」

 敵意を向けられるのは嫌だが、元気なのを確認できたのはうれしい。
 だが俺の留守に逃げるようなことがあったら危険だ。
 この辺りの地上にはとても強い魔獣や半獣がいる。

 分身体に捕らえさせるのは簡単だが、仲良くやれているとソフィアが言っていたから、できる事ならそのままの関係でいさせてやりたい。

「閉じ込めておく気はないが、地上は危険だ。
 教会の連中やノワールとブロンシュの家族を殺した連中もいる。
 結構強力な魔獣が数多くいる地域だ」

「そんな危険な所に連れてきやがって、私達をどうする気だ?!」

「ノワールとブロンシュをどうこうする気はない。
 俺も幼い頃に教会から逃げてきたのだ。
 だから同じように教会に苦しめられている二人を助けたかっただけだ。
 ここは俺が隠れ住むために作った地下基地だから、ここに連れてきた。
 気に食わないと言うのなら、横を掘って寝床を確保すればいい。
 食料は畑の野菜や穀物を食べればいい。
 地上に出ないのなら安全だから、無理にここにいる必要はない」

「おねえちゃん、ここにいようよ。
 ここなら怖い人も来ないし、食べる物もあるよ。
 お腹が減るのは嫌だよ、おねえちゃん」

「わがまま言うんじゃありません!
 この人間を信じたら何をされるか分からないの!」

「でもおねえちゃん、ここをでたらおかあさんとおとうさんはどうなるの?
 おかあさんとおとうさんが一緒じゃなきゃいやだよ。
 おねえちゃんもおかあさんとおとうさんが一緒のほうがいいよね?」

「ノワール、どうしてもここが嫌なのなら、スライムに新しい家を造ってもらうのはどうだ?
 できればここの横か下に、同じくらい巨大な家を造ってもらったら安心だし、食べ物に困る事もないぞ。
 ソフィアも一人では寂しいだろうから、近くに居てやってくれないか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたにすべて差し上げます

野村にれ
恋愛
コンクラート王国。王宮には国王と、二人の王女がいた。 王太子の第一王女・アウラージュと、第二王女・シュアリー。 しかし、アウラージュはシュアリーに王配になるはずだった婚約者を奪われることになった。 女王になるべくして育てられた第一王女は、今までの努力をあっさりと手放し、 すべてを清算して、いなくなってしまった。 残されたのは国王と、第二王女と婚約者。これからどうするのか。

逆ハーレムが成立した後の物語~原作通りに婚約破棄される当て馬女子だった私たちは、自分たちの幸せを目指して新たな人生を歩み始める~

キョウキョウ
恋愛
 前世でプレイした乙女ゲームの世界に転生したエレノラは、原作通りのストーリーを辿っていく状況を観察していた。ゲームの主人公ヒロインでもあったアルメルが、次々と攻略対象の男性たちを虜にしていく様子を介入せず、そのまま傍観し続けた。  最初の頃は、ヒロインのアルメルがゲームと同じように攻略していくのを阻止しようと奮闘した。しかし、エレノラの行動は無駄に終わってしまう。あまりにもあっさりと攻略されてしまった婚約相手の男を早々と見限り、別の未来に向けて動き始めることにした。  逆ハーレムルートの完全攻略を目指すヒロインにより、婚約破棄された女性たち。彼女たちを誘って、原作よりも価値ある未来に向けて活動を始めたエレノラ。  やがて、原作ゲームとは違う新しい人生を歩み始める者たちは、幸せを追い求めるために協力し合うことを誓うのであった。 ※本作品は、少し前に連載していた試作の完成版です。大まかな展開や設定は、ほぼ変わりません。加筆修正して、完成版として連載します。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

昼夜逆転転生異世界生活〜夜に強いヴァンパイヤになりました

パブロフ
ファンタジー
お決まりの展開で異世界に転生し、少し変わった事情で異世界の夜を中心に生活する事になった男性の話です。 ポジティブ思考の主人公を暖かく見守っていただけると幸いです。

前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~

霜月雹花
ファンタジー
 17歳の夏、俺は強盗を捕まえようとして死んだ――そして、俺は神様と名乗った爺さんと話をしていた。話を聞けばどうやら強盗を捕まえた事で未来を改変し、転生に必要な【善行ポイント】と言う物が人より多く貰えて異世界に転生出来るらしい。多く貰った【善行ポイント】で転生時の能力も選び放題、莫大なポイントを使いチート化した俺は異世界で生きていく。 なろうでも掲載しています。

私が本物の聖女です。~偽聖女の妹の代わりに王太子の治療と性処理をしたら溺愛されるようになりまして~

二位関りをん
恋愛
侯爵と娼婦の間に生まれた子・マルガリータはメイド兼薬師。カルナータカ侯爵家にて聖女と持て囃される異母妹レゼッタの管理の元、地下にある専用の工場で日々メイドらと共に魔法薬を作る日々を送っていた。本来はマルガリータこそが真の聖女の力を持っているのだが、それは隠ぺいされている。 ある日、戦争により瀕死の重傷を負った隣国の王太子・エドワードが家臣と共に野戦病院に運ばれてくる。しかしレゼッタはマルガリータらメイドに全てを任せ夜会へと向かっていった。マルガリータの必死の看病により意識を取り戻したエドワード。彼と関係を持ったことで人生が大きく変わる事になる。 堅実で一途な隣国の王太子×貴族と娼婦の間に生まれた真の聖女であるメイド兼薬師 ※表紙はAIピクターズで生成したものを使用しています。 ※印の話にはR18シーンがございます

ブランリーゼへようこそ

みるくてぃー
恋愛
今王都で人気のファッションブランド『ブランリーゼ』 その全てのデザインを手がけるのが伯爵令嬢であるこの私、リーゼ・ブラン。 一年程前、婚約者でもあった王子に婚約破棄を言い渡され、長年通い続けた学園を去る事になったのだけれど、その際前世の記憶を取り戻し一人商売を始める事を決意する。 試行錯誤の末、最初に手掛けたドレスが想像以上に評価をもらい、次第に人気を広めていくことになるが、その時国を揺るがす大事件が起きてしまう。 やがて国は変換の時を迎える事になるが、突然目の前に現れる元婚約者。一度は自分をフッた相手をリーゼはどうするのか。 そして謎の青年との出会いで一度は捨て去った恋心が再び蘇る。 【注意】恋愛要素が出てくるのは中盤辺りからになると思います。最初から恋愛を読みたい方にはそぐわないかもしれません。 お仕事シリーズの第二弾「ブランリーゼへようこそ」

ローズマリーへようこそ

みるくてぃー
恋愛
「スイーツショップ ローズマリーへようこそ」 両親が亡くなり姉妹二人きりになったある日、私の暮らす伯爵家に叔父夫婦が乗り込んできた。 まず母が信頼していたメイド長が辞めさせられ、徐々に入れ替えられていく使用人たち、そして私には無理やりの婚約話。 「いいわよ別に!伯爵の地位も屋敷もくれてやるわ!」 私は前世の知識で夢のスイーツショップを開店させる。 そこには愛する妹と心強い精霊たち、そして信頼で結ばれた使用人達の姿があった。 お仕事シリーズの第一弾「ローズマリーへようこそ」

婚約破棄して、めでたしめでたしの先の話

ファンタジー
(2021/5/24 一話分抜けていたため修正いたしました) 昔々、あるところに王子様がいました。 王子様は、平民の女の子を好きになりました。平民の女の子も、王子様を好きになりました。 二人には身分の差があります。ですが、愛の前ではささいな問題でした。 王子様は、とうとう女の子をいじめる婚約者を追放し、女の子と結ばれました。 そしてお城で、二人仲良く暮らすのでした。 めでたしめでたし。 そして、二人の間に子供ができましたが、その子供は追い出されました。

処理中です...