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第一章

第9話:D級冒険者

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バレンシア王国暦243年4月15日:冒険者ギルド・クリントン支部

「リアムさん!
 随分と早いですが、何かありましたか?」

 冒険者ギルド・クリントン支部に戻ったのは昼時だ。
 これほど早く戻ったら、何かアクシデントがあって狩りを諦めたと思うのが普通だろうが、俺には十分な時間なのだよ。

 それと、もう俺の噂が冒険者の間に広まっているようだ。
 受付嬢が俺の名前を口にしたとたん、ギルドハウスにいた冒険者全員が壁に張り付かんばかりに逃げ腰になっている。

「別に何もない。
 討伐依頼を達成したから戻ってきただけだ」

「この短時間に木の巨人を狩られたと言うのですか?!」

 受付嬢の叫び声を聞いて、それまで壁に張り付いてできるだけ気配を消していた冒険者達が、思わずこちらに方に近づいてきた。
 よほど興味があるのだろうが、期待に応えてやる義理はない。

「それはC級認定のための獲物だろう。
 その前にビッグゴブリンと群の討伐があるだろう」

「あ、はい、そうですね、そうでしたね。
 ですか、それでも早すぎる気がするのですが……」

「一日でゴブリン400とコボルト1000を狩った俺だぞ。
 半日あればゴブリンの100くらい簡単だ。
 ここに出してもいいのか?
 それとも鑑定や買い取りをするところが別にあるのか?」

「ええ~と、100ならここで出してくだされば受付の後ろで鑑定します。
 まさか、それ以上はいませんよね?」

「今日狩ったゴブリン全てを討伐依頼として買い取ってくれるなら、1000ほどあるが、それでも買い取ってくれるのか?」

「え、あ、あの、1000ですか?」

「ああ、大きなゴブリンの村があったからな。
 100だけ狩っても直ぐに増えてしまうから、根絶やしにしておいた。
 金にはならなくても、それが冒険者の責務だからな」

「……それが本当なら、ホブやビッグもいましたよね?」

「ああ、いたな、ビッグだけでなくプリーストやシャーマン、ファイターやヒュージもいたが、買い取ってくれるのか?」

「あの、それこそC級認定試験になる事もあるのがヒュージゴブリンなのですが、本当に狩られたのですか?」

「信用できないのなら目の前に出してやる」

「ヒィイイイイイ!」

 俺がサクラに合図して巨大なヒュージゴブリンを受付前に出すと、受付嬢が泡を吹いて倒れてしまった。
 気が強いと思ったのだが、思い違いだったようだ。

「そのようなモノを出されても困るのだよ。
 今はヒュージゴブリンの討伐依頼が出ていないのだ。
 約束したC級認定試験の獲物でもない。
 それを出してC級試験に合格したと承認しろと言われても断るしかない」

 俺の事を待っていたのか?
 急いでやってきたのが一目でわかるマスターが話しかけてきた。

「別に認定してくれと言っている訳ではない。
 正当な値段で買い取る気があるのかないのか聞いているだけだ」

「そうか、分かった、C級認定試験合格者としての推薦状は書けないが、リアムがヒュージゴブリンを斃して村を壊滅させてくれた事は連合会に報告しておこう。
 解体場の方で全部鑑定させてもらうから、ついて来てくれ」

「そうか、分かった」

 マスターに言われた通り、冒険者ギルド事務職の縄張りである受付を通って、後ろにある解体場に入らせてもらった。

 沢山の魔獣や半獣族が同時に持ち込まれた時の事を考えて、不必要に広い場所を確保しているようだ。
 あるいは解体した獲物をセリにでもかけているのだろうか?

「ここでいい、ここに全部出してくれ」

「分かった、サクラ、全部出してくれ」

 俺がサクラに命じると、とても広かった解体場の半分を埋めるほどのゴブリンが現れた。

 ヒュージゴブリン1匹
 ファイターゴブリン4匹
 シャーマンゴブリン4匹
 プリーストゴブリン3匹

 こいつらが、それぞれ100匹前後のゴブリンを率いる幹部と言っていい。
 ヒュージに率いられる事で、ビッグゴブリンがファイター等に変異したのだ。

 ホブゴブリン110匹
 こいつが10匹前後のゴブリンを率いる現場指揮官だ。
 ブレイデンはこんな弱い奴を従魔にした事が自慢のようだった。

 ゴブリン1187匹。
 数だけはいるが、俺にとっては者の数ではない。
 魔術を使う事もなく、槍を縦横無尽に振るうだけで斃せる。

 もっとも、本当は俺が直接戦う必要などない。
 サクラに取り込ませて窒息させるだけで斃せる。
 普通ならサクラの食事にするところなのだが、今回は俺が使わせてもらった。

「武器や防具が一切ないのだが、どうしたのだ?」

「討伐証明にも必要ないし、鈍ら武器など金にもならないので捨ててきた」

 嘘だ、全部サクラに取り込ませている。
 それなりに使える武器や防具はサクラの体内に保管してある。
 鈍らはサクラが使えるように消化吸収してある。

「それはもったいない事をしたな。
 鈍らでも鉄や銅は素材としての価値がある。
 商業ギルドや鍛冶ギルドが喜んで買い取ってくれる。
 そのスライムは運べる量に上限はないのだろう、次からは持ち帰るのだな」

「覚えていたらそうさせてもらう。
 ゴブリンの死体に価値はあるのか?」

「ゴブリンの死体に価値などない。
 討伐証明部位だけ代官所に提出して報奨金をもらい、後はこちらで焼却廃棄する」

「だったら俺に引き取らせてくれ。
 そうすれば焼却費用が節約できだろう」

「ゴブリンの死体などどうするのだ?」

「サクラの食事にする。
 他にも魔獣や半獣を誘いだすための撒餌にできる」

「そういう事なら廃棄する時に引き渡そう。
 それで、木の巨人の方はどうなっているのだ?
 何時討伐してくれるのだ?!
 ……もしかして、もう狩っているのか?!」

「先に買取価格表と契約書を渡してもらおう。
 狩るか狩らないかはそれからの話しだ」

 外見が十歳のガキが、経験を積んだ冒険者ギルドのマスターに偉そうな口の利き方をするのは問題があるのだが、こいつは別だ!
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