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第一章

第7話:スクランブルエッグと美幼女

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転移1日目:山本光司(ミーツ)視点

 女の子、ネイを何とかお風呂に入れて清潔にする事ができた。
 異世界ラノベでは子供がスカートやワンピースを着ているが、大丈夫なのか?
 村で農作業や家事の手伝いをする子供がそんな服装で大丈夫なのか?

「この服はどうだ?」

 とりあえずタオル生地のバスローブを着させて色々取り寄せて見た。
 着心地はストレッチ素材が良いのだろうが、異世界で化繊かせんは不味いと思った。
 綿100%の上着とパンツ、それと……下着を買った。

「す、ご、い」

 半袖はんそででは何かあった時に露出部ろしゅつぶをケガしてしまうから、全部長袖だ。
 下着代わりの長袖Tシャツも買ってあげる。
 とてもカラフルな色違いがたくさんあって、目を見張っているのが分かる。

「こ、れ」

 綿100%ショーツ5枚2195円
 長袖トレーナー5着6400円
 長袖Tシャツ5着4450円
 パンツ5着6950円

「あ、り、が、と」

 できるだけ早く厄介やっかい払いしたいと思っているのに、お礼を言われると……
 不完全な良心がシクシクと痛む。
 この世界の仕組みはよく分からないが、できるだけ早く安全に独立させよう。

 独りで生きていけない状態で放りだしたりはしない。
 全く信用できない人間に金を与えて押し付ける事もしない。
 だけど、自分の愉しみを我慢する時間は最短にする。

「ヒール、山菜を詰みに行こう」

 ネイに回復魔術をかけて動けるようにする。
 風呂というのは結構体力を消耗するのだ。

 ネイが森の中で独り生きて行けるだけの技量を出来るだけ早く教える。
 何より大切なのが食糧を確保する力だ。

 異世界間スーパーで食材を買えばとても簡単だし、俺も美味しい物が食べられる。
 だが日本の美食に慣れてしまうと、この子が独立した時に不幸になる。
 この世界にあるどのような高級食材でも不味いと思うようになったら最悪だ。

「う、ん」

 この子が倒れていた家は、壊れた門の奥、正面にあった。
 だからこそ家の中から外の畑跡や森が見えた。

 他の家と違って屋根が落ちていないのも、襲撃者を迎え討つために丈夫に建てられていたからだろう。

「手をつなごう」

 別にやましい事を考えている訳ではない。
 治療直後で体力がないと思ったからだ。

「う、ん」

 目も若かった頃以上によく見えるようになっている。
 日本にいた頃に知っていた野草に近い物は見分けられる。
 それに、多少姿形が違っても、日本的な名前に変換されている。

 セリ  :炒め物、卵とじ、味噌汁、和え物、天ぷら、菜飯
 ツクシ :炒め物、卵とじ、つくだ煮、ツクシご飯
 ナズナ :お浸し、卵とじに、味噌汁、和え物
 ワラビ :お浸し、卵とじに、味噌汁、和え物
 ヨモギ :団子やパンの生地に加える
 ヨメナ :和え物、味噌汁、菜飯
 タンポポ:和え物、ソテー、天ぷら
 コシアブラ:天ぷら、菜飯……

 俺の頭に浮かぶのは、どのように料理すれば美味しいかだ。

「絶対に俺の側から離れてはいけないよ。
 集めるのに夢中になり過ぎないように」

 俺の知る限り、見える範囲にあった27種の山菜を教えて集めさせた。
 とても便利な事に、亜空間に放り込んだら勝手に選別してくれる。
 ネイが間違えて雑草や毒草を集めても選別してくれるから最高だ!

「今集めてくれたのはワラビ似た毒草だよ。 
 よく覚えておいて、間違って取らないように」

「は、い」

 食べ物を集められるのがうれしいのか、ネイが夢中になって集めている。
 転移したばかりでやらなければいけない事も多いので、ある程度ネイが山菜の見極めができると分かった点で、ゴブリン達の死体があるところに向かう。
 
「斃したゴブリンの見えるところまで行く事にするよ」

「う、ん」

 上手く話せなくても誰かと話す事がとても楽しそうだ。
 ネイは何時からこの廃村で独り暮らししていたのだろう?

「収納、ストレージ」
 
 山菜だけでなく、大きな岩や倒木を亜空間に収納してみた。
 もちろんゴブリンの死体も全て収納する。
 
 大岩:  13:築城材料
 中岩:  43:築城材料・建築材料
 小岩: 183:築城材料・建築材料
 石 :2164:築城材料・建築材料・投擲用
 丸太: 848:築城材料・建築材料
 材木:  26:築城材料・建築材料
 薪 :8321:燃料
 焚き付け用の枝:3万4728:燃料
 ビッグゴブリン: 1:レベル3モンスター
 ホブゴブリン : 5:レベル2モンスター
 ゴブリン   :48:レベル1モンスター

「す、ご、い」

 ゴブリンだけでなく丸太や大岩まで亜空間に収納していると、ネイに驚かれた。
 確かにマジック・トルネードでがれきの山のようになっていた所が、次々とモノが無くなって真っ平らな更地になったら誰でも驚くだろう。

 実は俺もとても驚いている。
 これほど大量な物資を収納できるなんて思ってもいなかった。
 氏神様と仏様が腐れ神相手に頑張ってくださったんだろう。

「戻って食事にしようか?」

 収納があまりにも面白おもしろくて、陽が傾くまで時間を忘れてしまっていた。
 ネイも夢中むちゅうになっていたようだ、反省。

 ネイに何か悪い兆候ちょうこうがでないかもっと気配りしておくべきだったが、病み上がりでこれだけ動ければ上出来だろう。

「う、ん」

 廃村の廃屋に戻ったのは良いが、何を食べるべきか?
 ネイを可愛そうな美食家にする事なく俺も満足できる食事。
 塩味だけで満足できる食材。

 卵10kg160個を5840円で購入。
 豚こま1kg10個を1万0778円で購入。

 これまでは送料無料の商品ばかり買っていたけれど、必ず送料のかかる店舗の商品を買ったらどうなるのだろう?

 鶏もも肉2kg1200円
 鶏むね肉2kg880円
 鶏手羽元2kg990円
 牛タン先1kg950円を2個1900円
 豚タン0・9~1・1kg850円を2個1700円
 豚肩ロースブロック1~1・2kg950円
 豚ロースブロック1~1・2kg950円
 豚ウデブロック1~1・2kg900円
 豚モモブロック1~1・2kg850円
 豚ガツ1kg450円
 豚ハツ1kg550円
 豚ひき肉1kg720円
 豚大腸切モツ1kg720円
 豚小腸切モツ1kg600円
 送料2200円
 合計:1万5560円

 食材を入れる為の48リットルクーラーボックス。
 1個7890円を5個購入して3万9450円

 直火しか使えない可能性を考慮して、テフロン加工ではない調理器具。
 30cmの鉄製中華鍋とお玉で合計6393円

 紙袋に入っている並塩、25㎏送料込みで1660円
 この世界で塩を売る場合は、何か丁度良い入れ物が必要だな。

「直ぐに料理をするから待ってくれ」

 廃屋を見渡したが、かまどがないので亜空間に入れた石で簡易竈ルかんいかまどを組む。
 河原かわらのキャンプで、石を積み上げてバーベキューをする要領ようりょうだ。

「乾燥、ドライ」

 大量にある焚き付け用の枝と薪を取り出して乾燥させる。
 生木のままでは燃料として使えない。

「解凍、ソーウィング」

 凍ったままでは料理できないので、自然解凍をイメージした魔術を試す。
 良い具合に鶏もも肉が解凍できたから、料理しようと思ったのだが。
 よく考えると、このままでは鍋に鶏もも肉がこびりついてしまう。

 急いで1500cc10本セットのサラダ油を7580円で購入。
 自分用だからプラスチック入りだが、この世界で売るならブリキの1斗缶だな。

「解凍、ソーウィング」

 火が通り易いように、解凍した鶏むね肉を薄くスライスして炒めようと思っていたが、食欲を必死で抑えているネイを見たら直ぐに何か食べさせってあげたくなった。
 
 ジュウウウウウ!

 多めのサラダ油を流し込んだ中華鍋に、片手で卵20個を割り入れた。
 これでも鶏肉鶏卵店で生まれ育った男だ。
 片手で卵を割って料理するぐらいお手の物だ。

 あうち!

 自分のうかつさに舌打ちしたくなるが、ネイが怖がるかもしれないので我慢。
 スプーンやフォークはもちろん、お皿すら用意していない。

「まだ熱いから食べちゃダメだよ」

 慌てて1セット8枚の木皿を1280円で購入。
 陶器の方がはるかに安いのだが、ネイが割ってしまった時に胸を痛めるかもしれないので、割れる事のない木皿を選んだのだ。

「このまま食べる?
 それともさじかスプーンを用意しようか?」

「た、べ、る」

 この世界の文明文化水準だと、手づかみで食べるのが普通なのだろう。
 俺は流石に箸やスプーンといったカトラリーなしでは食べられない。

 使い捨ての箸5000膳を6930円で購入。
 ステンレス製のカトラリー10本セットを2310円で購入。

「好きに食べなさい」

「は、い」

 ネイがとても美味しそうに食べだした。
 俺が新しい竈を用意して、何も食べていないのに遠慮をしない。

 マナーを教わる機会もなく、独りで生きてきたからだろう。
 平民の孤児こじならマナーが必要になる機会もないはずだ。
 食べ物の味がしなくなるようなマナー教育など不要だ。

「美味しいか?
 塩辛過ぎたりしないか?」

 大型のバーベキュー網900×600ミリ1470円を8枚購入して、解凍した鶏肉や豚肉を塩焼きで料理する準備をしている。
 逃げたり戦ったりで、料理できない可能性もあるからだ。

「お、い、し、い」

 とても美味しそうにスクランブルエッグを頬張るネイがとても可愛い。
 手づかみで食べていても、全然汚らしいと思わない。
 愛らしい幼女は何をしても美しく尊い。

「もっと食べられるかい?
 遠慮せずにお腹一杯食べなさい」

 肉だと身体が受け付けずに嘔吐おうとや下痢をしてしまうかもしれない。
 本当はかゆやパンを与えた方が良いのだが、粥は俺が食べたくない。
 パンはこの世界基準だと甘過ぎる気がする。

「た、べ、る」

 俺はもう1度最初の竈でスクランブルエッグを作った。
 
「慌てなくても誰も取らないよ。
 食べやすい温度の成るまで待てばいい。
 他にも食べる物があるから、スクランブルエッグだけを食べなくてもいいよ」

 薪で焼いている鶏や豚に火が通るにはもう少し時間がかかる。
 スクランブルエッグだけで満腹になってもいいが、嘔吐や下痢をしないで済むのなら、顎の筋肉を鍛えるために少しは肉を食べた方が良い。

「こ、れ、た、べ、た、い」

 この世界でも卵は貴重品きちょうひんなのだろうか?
 中世のヨーロッパでは卵がそれなりに高かった。
 日本でも江戸時代には卵が庶民憧れの高級食材だった。

「だったらお腹一杯食べていいよ」

 スクランブルエッグなら早く大量に作ることができる。
 値段も異世界間スーパーで買えば安い。
 余った時間で肉を焼いて、ネイに遠慮する事なく俺が肉を食べる事もできる。

「お腹一杯になったのならそこで寝るがいい」

 疲れの限界になったのだろう。
 ネイがいきなり電池が切れたように眠りだした。
 これぐらいの子供は夢中で遊ぶから、眠くなると抗う事などできない。

 スクランブルエッグを20個も食べたから、お腹一杯になったのだろう。
 頭ではもっと食べたいと思っていても、睡魔には敵わないのだろう。
 生れて初めてお風呂に入って山菜集めもして疲れたのもあるだろう。

「そこで眠りなさい」

 ネイにウレタンマットレスの上で寝るように言った。
 セミダブルベッド2枚分で1万5999円だった。

 2枚5360円の訳あり毛布を掛けてやる。
 ネイはこれまで床に寝ていたから平気だろうが、俺が見ていられない。

 バカ天使、早く帰ってこい。
 見張りがいないと俺が寝られないだろう!

 ジュウウウウウ

 ウォームで解凍した鶏もも肉から脂が滴り落ちる。
 豚肉の塊も肉汁と脂を落としている。
 ネイも熟睡してくれたようだし、異世界初の食事にしよう。

 日本にいた時と同じように、独りで安い肉を腹一杯喰らう。
 異世界に転移した気にならないが、まあいい、今日はしかたがない。
 それよりも塩だけの味付けが物足らない。

 急いでブリキ缶入りの白胡椒と粗挽き胡椒を買う。
 210g入りの白胡椒が2缶で2430円
 210g入りの中粗挽き黒胡椒が2缶で2076円。

 焼きあがってから振りかけたので、下拵えで振りかけてから料理して食べるよりは美味しくないが、それでもぐっと美味しくなった。

 ネイを不幸にしないためにも美味し過ぎる料理は食べさせない方が良い。
 最後まで面倒見る気がないのだ。
 ネイが自分で生きて行く時に困るような贅沢ぜいたくはさせない方が良い。

 何よりこの世界の人間に香辛料が悪いかもしれない。
 香辛料が子供の健康に悪影響を与えないとは断言できないのだ。
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