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第二章「恋愛」

56話

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「カチュア姫。
 これは今年新たに出来たワインです。
 飲んでみてください」

「でも、私は水しか飲まないようにしているのです」

「今迄はそれでもよかったでしょうが、これからは女王として、他国の使者と酒を酌み交わして頂かないといけない場合もあります」

「そう言う事は、父上様やアシュラム様に御任せしたいのですが」

「出来る限りそうさせて頂きますが、カチュア姫はいずれこの国の女王に成られるのです。
 今から酒に慣れて頂かねばなりません。
 この機会に飲み始めてください」

「少し待って下さい。
 精霊様に聞いてみます」

 アシュラムは単身サライダの街に乗り込んだ。
 ゴライダの街は、従者達に任せた。
 東西の大国は心配だったが、火竜シャーロットとの共存が上手くいってる間は、少々の大軍が来ても心配はない。
 むしろ心配なのは、サライダの水精霊の偏狭偏屈な所だった。

 カチュア姫が偏狭偏屈の強くなった水精霊の影響受けて、余りに清廉潔白な統治を推し進めようとしたら、ゴライダに住む人間とサライダに住む人間の争いに発展してしまうかもしれない。
 それが水精霊同士の争いになる可能性すらあるのだ。
 だからカチュア姫には広い心を持ってもらいたかった。

 策略を用いることになるが、広い心を持つ水精霊を、カチュア姫の側に戻したかった。
 偏狭偏屈の水精霊が支配する、清浄過ぎる水を飲み続けるのが心配で、酒を飲ませて清濁併せ吞む人間に育てたかった。
 人間の体内に入れば別の精霊や神の支配下になるとはいえ、人間の身体の半分以上は水で出来ている。
 水精霊の影響を完全に排除することは出来ないのだ。

「何か思惑があるのですか?
 正直に話しなさい!
 さもないと同じ水精霊の加護を受ける者であっても、敵とみなしますよ!」

 カチュア姫が水精霊の影響を受けて言葉が荒くなる。

「悪い事を考えている訳ではありません。
 カチュア姫には人間として公平に育って欲しいと思っているだけです。
 カチュア姫も、もう子を産まねばならない歳です。
 精霊殿も、新たな水乙女を探したらどうです。
 今のサライダなら、候補者がいるのではありませんか」

「勝手な事を言うな!
 我らの乙女はカチュアだ。
 死ぬまで乙女として勤めてもらう。
 王国の後継者なら、キャスバルに作らせればいい。
 なんならアシュラムが新たな王朝を開けばいいであろう」

 カチュア姫が完全に水精霊の影響下に入ってしまった。
 矢張りサライダの水精霊は偏狭偏屈に拍車がかかっていた。
 このままではいけないとアシュラムは考え、サライダの水精霊が抵抗出来ない事を言う事にした。
 その事を言えば、偏狭偏屈なサライダの水精霊でも、考え方を変えるしかないのだ。
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