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第二章「恋愛」

42話

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「侍女頭殿。
 姫様とのダンスを許可して頂きたい」

「アシュラム殿でしたね。
 今日はドラゴニュートを首を持参したと報告を受けています。
 それに免じて、不躾な願いですが、姫様に願いだけは伝えましょう。
 ですが、踊って頂けるかどうかは分かりませんよ。
 姫様は水精霊様の加護を受けておられます。
 アシュラム殿に少しでも邪念があれば、水精霊様が嫌います。
 手を触れる事も叶わぬのです。
 姫様が嫌った訳ではないのです。
 姫様に遺恨を持たないように。
 分かりましたか」

「分かっております。
 例え御断りの言葉をいただくことになっても、私の言葉を姫様の耳に入れて頂けただけで本望でございます。
 遺恨を持つなど、滅相もない事でございます」

「分かりました。
 少し待ちなさい」

 多くの勇者英雄の中でも、選ばれた者だけが、舞踏会に参加出来た。
 ドラゴニュートの首を持ち帰った者だけが、舞踏会に参加出来るのだ。
 しかも、カチュア姫にダンスを申し込むことが出来る。
 だが流石に直接は許されない。
 侍女頭を通さなければならない。

 カチュア姫には美醜で男性を選ぶような気持ちはない。
 問題は清浄を好む水精霊が、邪心に敏感になっている事だった。
 王太子の騒動の直後だ。
 水精霊が気難しくなっているのも仕方がない。
 だがそれがカチュア姫を護ることになっていた。

 建国間もないサライダ王国には、王族は三人にしかいない。
 王と王妃とカチュア姫の三人だ。
 親族であった、前王家のゴライダ家は全滅している。
 遠い一族だった、三大公爵家も滅んでいる。
 カチュア姫以外に、サライダ王国を継ぐ者はいないのだ。

 東西の大国は勿論、中小諸国も王配の地位を狙っていた。
 勇者英雄だけではないのだ。
 世界中の王侯貴族が、カチュア姫を狙っているのだ。
 王配の地位を狙うだけなら、カチュアが殺される心配だけはない。
 だが中には、カチュアの命を狙う者がいるかもしれない。

 カチュアが死ねば、サライダ王国に後継者はいなくなるのだ。
 血縁のない養子を押し込むことも可能になる。
 もっと現実的な方法としては、後継者が必要なキャスバル王に、側室や妾を薦める方法がある。
 悪辣な方法を使うなら、自分の子を宿した女を、キャスバル王の側室に送り込むと言う方法もある。

 そんな事が起こらないように、城代は細心の注意を払った。
 カチュア様を護って下さいと、水精霊様に願い奉った。
 水精霊に否やはなかった。
 水精霊こそが、誰よりもカチュアを大切にしていた。
 だから、少しでも邪心のある者はダンスが許可されなかった。

 そんな激烈な条件の中で、アシュラムはダンスを許可された。
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