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第一章

35話

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「随分と思い切った事をする」

「水龍様でございますか?
 どうか、どうか、願いを御聞き届け下さい」

「駄目だ」

「何故でございますか。
 力弱き人の願いでございます。
 どうか御慈悲を持ちまして、御助け下さい」

「我から見れば、火竜も力弱きモノだ」

「水龍様から見れば、人も火竜も力弱きモノでしょう。
 ですが人間から見れば、火竜は圧倒的な強者でございます。
 とても人が対抗出来る存在ではありません」

「それは違う。
 人の中にも、我に匹敵するほどの強者はいる。
 神に祈る前に、同種の強者に頼むのが筋だ」

「本当でございますか?
 そのように強い人間がいるのですか?!」

「いる。
 この世界は広い。
 竜殺しの人間はいる」

「では、その方を探し出せば、火竜から人を護ることが出来るのですね」

「出来るだろう。
 だが、人にはそれほどの価値はない。
 我から見れば、人よりも火竜の方が純粋だ」

「そんな!
 多くの人が火竜の為に苦しんでおります。
 それを純粋と申されるのですか?」

「そうだ。
 火竜は生物の本能として、生きる為に弱い者は喰っているだけだ。
 子を産み育てる為に、必死で生きているだけだ。
 そこに何の悪意もない」

「ですが、それでは、人は救われません」

「当然だ。
 人間は救われるには悪辣すぎる。
 救われないような我欲と悪意で、同種の人間を虐げた。
 そなたの国の惨状も、同種の人間の欲望が原因だ。
 火竜の所為ではない。
 そもそも人間が精霊を穢さなければ、火竜は何も出来なかった」

「はい。
 申し訳ありません。
 私と同じ人間の愚かな行いが原因です。
 その事、言い訳のしようもありません。
 ですがそれも弱いからでございます。
 体も心も弱いのが人間なのです」

「それでは言い訳にもならないな。
 それを言えば、火竜も数が少ない弱さがある。
 子を残したくても、交尾する相手を見つけられない。
 だから人との混血のドラゴニュートを産んだ。
 それも火竜の弱さ故だ」

「では、このまま人は火竜の子に喰われるだけなのでしょうか。
 助けては頂けないのですか」

「依怙贔屓はしない。
 火竜にも味方しないが、人にも味方しない。
 だが、命懸けの祈りには応えよう。
 共存の知恵を授けてやろう」

「火竜と共存できるのですか?!」

「火竜ではない。
 火竜の子だ。
 火竜の子が人を食べるのは、他に食べる物がないからだ。
 精霊に祈りを捧げるように、火竜の子に食べる物を捧げればいい」

「何を捧げればいいのでしょうか?」

「人が減った分、羊や山羊が余っているだろう。
 それと、酒を造るがいい。
 竜は酒が好きだ。
 火竜の子も、酒があれば、人を喰う数が減るだろう」

「ですが、火竜の子が増えれば、また人を食べるようになるのではありませんか」

「ドラゴニュートが増えた分、羊と山羊を増やせばいい。
 人が増えれば、酒も沢山造れる」

「あの地で、力を失った精霊様と一緒に、それだけのことが出来るでしょうか?」

「大丈夫だ。
 心から祈りを捧げれば、精霊は力を取り戻す」

「御教え有り難うございます。
 火竜とドラゴニュート達と、共存する道を探してみます」
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