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調略

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「私に主家を裏切れと申されるのか?!」
「いえいえ、そんな事は申しません。騎士にとって忠義ほど大切な事はございません。何より忠誠が廃れてしまったら、国が成り立ちません」
「ならば何故私に爵位を受けろと申される。イブラヒム王家から爵位を受ければ、主家であるアッバース首長家を裏切ることになるではないか」
「いえいえ、そんな事はありません。アッバース首長家はイブラヒム王家に使える身。アッバース首長家の家臣が、イブラヒム王家から爵位を受けてもそれほど問題ではありません」
「イブラヒム王家には何の問題もないだろうが、アッバース首長家は余の忠誠に疑念を持つだろう。それにこんな前例と作れば、ネッツェ王国の忠義が廃れるぞ」
「どうしても御受け下さらないと申されるのか?」
「くどい!」
「ですがアレクサンダー殿が断れたら、国王陛下の面目を潰すことになってしまいます」
「だが何度も申しているように、受ければ余の騎士としての名誉が傷つくではないか!」
「困りましたな。ではこうすればいかがですか?」
「なんだと申すのだ」
「私がアッバース首長家に許可をもらいましょう」
「許可だと?」
「陛下がアレクサンダー殿を臣下に欲しいと言っていると、私からアッバース首長家に打診するのです。アッバース首長家が認めたら、何の問題もありませんでしょう」
「それはアッバース首長家が余の武勇と忠誠を見限ったという事だな」
「いえいえ、そんな事はございません」
「黙れ!」
「アレクサンダー殿」
「余の武勇と忠誠を売り買いされるくらいなら、騎士の名誉を護る為に戦う。主家のアッバース首長家であろうとイブラヒム王家であろうと関係ない」
「まさか? 独立されるというのか!?」
「当然だ! 武勇と忠誠を疑われるくらいなら、戦って名誉を護るのが騎士であろう!」
「御待ちを、どうか御待ちを!」
「待たぬ! この者を追い払え!」
「アレクサンダー殿。アレクサンダー殿! 御待ち下さい、アレクサンダー殿~!」
「やれやれ、愚かな使者でございましたな」
「そうだな」
「それでどうなされるのですか?」
「急いで今回の件をアッバース首長家に知らせ、アリステラ王国から軍需物資を取り寄せる許可をもらう」
「このままアッバース首長家に仕え続けるのですか?」
「いや、爵位を吊り上げる」
「イブラヒム王家が提示してきた、准男爵では不足でございますか?」
「奴隷を領民と考えれば、有力な伯爵とは言わぬが、並みの子爵の三倍は領民を抱えている」
「さようでございますね。主家を裏切れと調略を仕掛けてくるのなら、伯爵位と利権をよこすのが当たり前でございますね」
「余を舐めているのさ。新興も新興、たった半年で荒れ地を得ただけだからな」
「殿は独立領主も匂わされましたが、イブラヒム王家とアッバース首長家はどう受け取りますでしょうか?」
「さあな。包囲すれば兵糧が直ぐに尽きると読むか、輸入した兵糧で何年も籠城し、その間にアリステラ王国やイマーン王国と同盟する可能性があると読むか」
「楽しみでございますな」
「ああ」
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