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第三章:天下統一

第98話:誤算

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天文十六年(1548)6月14日:越中富山城:俺視点

「何でこんな事になった?」

「合戦にはつきもので、気になさるような事ではありません」

 俺の言葉に当番重臣の山村右京亮が答える。
 気にするなと言われても無理!

 何の関係もない者が、甲賀や伊賀の残党にされて殺されたのだぞ!
 その首を屯田部隊に持ち込んで、褒美をもらおうとした奴がいたのだぞ!
 円形脱毛症とチックがでそうなくらい、悪夢にうなされたわ!

「合戦につきものと言うが、これまではこのような事はなかったぞ?」

「これまでの殿の合戦では、落ち武者がでませんでした。
 負けた者達は、臣従するか奴隷と成りました。
 追放された者も、殿の手配で安全に国を出られました。
 そもそも、落ち武者狩りをする盗賊や村を殿が先に討伐されていました」

「そうか、俺が敵を許さず、追討を命じたのが初めての事なのか」

「はい、殿は公明正大で嘘偽りをとても嫌われます。
 神仏の加護を得られている殿に嘘偽りが通用しない事は、下は奴隷兵から上は譜代衆までよく知っております。
 他家で横行しているような、奪首や偽首で手柄を盗む者はいません。
 いえ、首を取るよりは生きて捕らえて奴隷にした方が銭になります」

 いや、俺に神仏の加護などない。
 内部の裏切者、謀叛を起こそうとする者を、家臣専門の諜報部隊が調べてくれているから、色々と知っているだけだ。

 それと、殺すより生け捕りにした方が多くの褒美になるから、偽首や奪首を掴まされる弊害がなかったのか!

「伊勢、大和、山城、紀伊では、俺の事を知らない盗賊や村人、国人地侍がいるから、偽物の首を持ち込んでも褒美をもらえると思った、そう言う事か?」

「はい、その通りでございます」

「防ぐ方法は無いか?」

「これまで通りでよろしいのではありませんか?」

「これまで通り?」

「先代や先々代が設けられていた罰を与えるのです」

「どのような罰なのだ?」

「奪首、味方討、作首、偽首で恩賞を騙し取ろうとした者は、本人だけでなく妻子も斬首にするのでございます。
 今回大和の屯田部隊に偽首と作首を持ち込んだ者は、既に処刑されております。
 家族も皆殺しにしているはずですが?」

 ああ、いやだ、いやだ、いやだ、怒りに任せて侵攻するものじゃない。
 思いもよらない落とし穴に落ちてしまった!
 これまでは、少々の虐殺をしても平気だったのに、今回だけは悪夢にうなされた。

 甲賀と伊賀の女子供を虐殺しても胸は痛まなかったし、悪夢も見なかった。
 だが、何の罪もない女子供が、僅かな銭のために殺されたと聞いて、毎晩悪夢にうなされ眠れなくなった。

「全ての諜報部隊を使って、何の罪もない者を殺して恩賞を盗もうとした者は、根切りにすると広めろ!
 他の事を後回しにしてでもやらせろ」

「承りました」

「それと、関係ないのに殺された者の家族が残っていたら……」

「いたらどうされるのですか?」

 俺が銭金で保証するのは筋が違うか?
 保証する事で、また何か思いもかけないところに問題が起きないか?
 
 誰かに家族を殺させて、偽首にされたと訴え出る者が現れたりしないか?
 関係のない者を数人殺して、家族を偽首されたので、難い敵を殺しましたと訴え出る者が現れないか?

 前世でも金欲しさに家族に保険金をかけて殺す腐れ外道がいた。
 殺伐とした戦国時代なら、前世よりも多くの者が家族を殺すかもしれない。

 いやだ、いやだ、いやだ、胃に穴が開きそうだ!
 早く解決策を思いつかないと、間違いなく円形脱毛症がでる!

 何かやらないと心が壊れてしまう。
 自分を騙せるような償いをやって、それでも駄目なら別の方法を考えよう。

「そうだな、恵まれている者にまで俺が手を差し伸べる必要はないだろう。
 だが、恵まれない者には手を差し伸べるべきだと思う。
 家族を殺された百姓には、関東に土地を与えよう」

「武士に取立てると言われるのですか?!」

「そうではない、自作農にしてやるのだ。
 家族を偽首にするために殺された不幸な者だぞ、俺が救ってやらずに誰が救う?
 それに、男屯田部隊を常時戦わせているから、耕作できない田畑が数多くある。
 その田畑を耕作する人を集めるべきであろう?」

「なるほど、殿の評判を上げつつ年貢を確保するのですね。
 分かりました、直ぐに知らせを送りましょう」

「いや、今回に関しては俺が全て書く!
 とても重大な事だ、誰も勘違いしないように俺が書く」

「分かりました、直ぐに用意いたします」

 これで大丈夫だろうか、今晩悪夢に跳び起きないですむだろうか?
 いや、悩むな、やって駄目なら他の策を考えると決めたばかりだ。
 ここで悩んだら、それこそ心が壊れる道にまっしぐらだ。

「右京亮、腐れ外道に殺された、何の罪もない者達の供養をやる。
 俺の責任で、越中善光寺と越中顕光寺で供養をやる。
 できるだけ早くできるように手配しろ」

「……そこまでなされるのですか?」

「当然だ、俺が天下を治めるのは私利私欲の為ではない。
 戦乱に苦しむ、この国の民を救うためだ!
 それなのに、俺の戦に巻き込まれて殺された者がいるのだぞ!
 俺が直接手にかけたわけではないか、供養するのは当然だ!
 俺は長尾家の当主であると同時に、善光寺の長吏で顕光寺の別当だ。
 罪無くして殺された者達を供養する責任がある!」

 何としても自分を騙すのだ!
 家臣を、他人を騙して褒め称えられるようにするんだ!
 自分で自分を騙すだけでなく、他人も使って自分を騙すんだ!

「考えが至らず申し訳ありません。
 越中善光寺と越中顕光寺の者と話し合い、出来るだけ早く罪無くして殺された者達の供養ができるようにします」

 これで自分を騙し誤魔化せたらいいのだが、念には念を入れるべきだろう。
 日時はばらばらでも良いから、善光寺と顕光寺の末寺全てで供養させよう。

 寺社だけでなく、伊勢、紀伊、大和、山城に侵攻させた全ての軍団でも供養させて、供養塔を建てさせよう!
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