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第三章:天下統一
第89話:閑話・海上封鎖
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天文十六年(1548)12月18日:伊勢湾長島沖:大黒陰陽允衣良視点
「御頭、船が見えます!」
殿が神仏から知恵を授けられて作られた遠眼鏡。
船に一つだけ貸し与えられる神器で周囲を見張っていた奴が報告する。
「どこの船か分かるか?」
「どこの船かは分かりませんが、長尾家の関船でも唐船でもありません」
「近くの船に拿捕するように命じろ」
「はい!」
僅かでも拿捕賞金が入ると分かって、乗員達が喜びの表情を浮かべている。
長島、桑名、四日市、松坂、津、津島などの伊勢湾の湊を封じて七カ月。
川上や陸路からの補給があるとは言っても、敵は経済的に苦しんでいる。
単に海上を封鎖するだけ、敵の船を拿捕するだけだ。
殿の命とは言え、それだけの事で、どれだけ敵を苦しめられるか半信半疑だった。
ところが、敵が慌てるのを見て、初めてどれだけ効果があるのか分かった。
湊にとって、船の出入りを止められるのは死活問題だった。
湊を拠点にする商人は、これまで海路で仕入れていた商品が全く入って来ない。
陸路で仕入れた商品を売る事もできず、次の支払いに苦しむ事になる。
船を持つ大商人や海賊衆は、商売も海賊もできなくなる。
何も知らずに戻ってきた船を拿捕され、破産する者が大勢いると報告を受けた。
夜陰に乗じて湊に出入りしようとした船も、全て我らが拿捕した。
殿が危険を冒して夜間にも沖合を漕がすのは、この時の為だったと分かった。
水兵や船乗りに、夜目が利くように鍛錬させていた理由も分かった。
全てはこの時、大々的な湊の封鎖をするためだったのだ。
「御頭、敵の船を拿捕したそうです!
本願寺が寄こした兵糧船だそうです」
「「「「「うぉおおおおお」」」」」
「他に無いか、兵糧以外は積んでいないのか?」
「軍資金は無いか、銭を積んでいないのか?」
「高値をつけそうな捕虜はいないか?」
「船はどうだ、高く売れそうな船なのか?」
「騒ぐな、静かにしろ、見張りに集中しないと敵を見逃すぞ!
全艦隊に陣形を保つように命じろ!」
「はっ!」
手旗信号を送る船員が急いで見張り台に向かった。
長島沖の全艦艇が、旗艦の命令を見逃さないように注視している。
僅かでも失敗する事は許されない!
乱世でも比較的生きやすい陰陽師の家に生まれたとはいえ、軍配者として吉凶の占いに失敗して戦に負けたら、腹を切らねばならない事もある。
陰陽寮でも有名な公家の家に生まれた者なら、そこそこの大名や有力国人に召し抱えらえるが、地下家の三男以下では弱小国人に召し抱えてもらえれば良い方だった。
私も生きて行くために、吉凶の占いに失敗したら殺される軍配者になるしかない。
そう諦めていた時に、殿に召し抱えていただけた。
最初は命懸けの軍配者として召し抱えられえるとばかり思っていた。
だが殿は、祐筆でも陰陽でも良い、天文でも暦でも構わないと言ってくださった。
殿が築かれていた富山城には、大内裏が築かれようとしていたのだ!
ただ、殿は、できれば水軍で働いて欲しいと言われた。
星を見る事ができる陰陽師達には、航海術を学んで欲しいと言われた。
最初は嫌だった、騙されるのではないかと思った。
だが、一度見に行った水軍衆は、心から嬉しそうに役目を果たしていた。
なぜそれほど嬉しそうにしているのか不思議で、理由を聞いてみた。
話を聞いて、腰が抜けそうになるくらい驚いた!
最初は嘘だと思った、騙そうとしているのだと思った。
それくらい信じられない話だったが、本当の事だった。
古参の水軍衆に航海術、天測を学びながら、湊に戻って来る何人もの水軍衆に話を聞いた。
聞いた全ての水軍衆が本当の事だと良い、実際に分配金を見せてくれた。
殿は、水軍衆が航海で儲けた利の二割を公平に分配してくださるのだ!
最も身分の低い水兵でも、一度の航海を終えたら一貫文は分配される。
それも、航海中の衣食住が保証され、扶持も五貫文頂けた上にだ!
父上が朝廷で頂ける扶持が一貫五百文だと言えば、私の気持ちが分かるだろう。
しかも、分配金が一貫文程度なのは、最下級の水兵だからだ。
船の全てを差配する船頭なら、百貫文も分配される。
公家の大臣家でも百貫文ない所があり、羽林家の半数が百貫文以下なのに!
殿から、心から期待していると言っていただけた。
星を読める者は、海の難所さえ覚えれば、蝦夷から南蛮まで安全に航海できる。
百隻に船を指揮して、航海で一万貫文の分配金も夢ではないと言われた。
一万貫文、家臣を抱える必要もなく、領地を治める事もなく、領民の取り分もなく、全て自分の物にできる分配金が一万貫文!
あの時は、内心では、危険な役目を押し付けるための嘘だと思った。
そんな夢のような話は絶対にないと思った。
申し訳ありませんでした、心からお詫びさせていただきます。
今こうして百隻の大型関船を指揮できるようになったのは、殿が全ての御膳立てをしてくださったからです。
富山大内裏の中に大きな屋敷を構えられたのも、両親を京から呼び寄せられたのも、公家の姫を妻に迎えられたのも、全て殿の御陰でございます。
家を継がす嫡男と可愛い娘に恵まれ、屋敷の蔵には三万貫文の蓄えがあり、長尾家でも重臣に数えられるようになれました。
この暮らしを守るため、子供達がこの暮らしを続けられるように、この命を懸けてでも敵を叩き潰し、富山の大内裏を守る!
「今夜長島に夜討ちをかけ、敵の船に斬り込み拿捕する。
今の内にしっかり休んでおけ!」
「やっほう、大型船を奪ってやるぜ!」
「大きければ良いと言うもんじゃねえ、出来るだけ新しい船を狙うんだ!」
「そうそう、船底に水が溜まっているような船は金にならんぞ」
「御頭、川上から長島に小舟の群れが近づいています!」
再び見張り役が報告してきた、配下の連中が期待した目で私を見ている。
船に積んである小舟を下ろして斬り込めと命じて欲しいのだろう。
長島を封鎖している全ての船から小舟を下ろせば、それなりの戦力にはなる。
だがそれでは、此方も無傷では勝てなくなる。
水兵からも航海士からも死傷者がでる。
一人前に育てるのに時間も手間もかかる水兵と航海士を、無駄に死なせてしまうような指揮官を、殿は絶対に許さない!
「愚かな事を期待するな!
殿がお前達の事をどれだけ大切に思っておられるかを忘れるな!
奴隷から成り上がった者達は、殿の優しさを分かっているだろう?
銭など生きていれば幾らでも稼げる。
殿が稼げる機会を与えてくださる!
戦は安全確実に勝って、また蝦夷から南方までの航海に戻るのだ。
一航海で百貫文は確実に分配される、俺が分配させてみせる」
「「「「「はっ!」」」」」
「長尾家の水軍衆として、やらなければならない戦いは命懸けでやる。
逃げる事は絶対に許されない、私が許さない!
同時に、無用な戦で死ぬ事も許さん!
私達が命を捨てて戦う時は、殿を守る時だと忘れるな!」
「「「「「おう!」」」」」
「御頭、船が見えます!」
殿が神仏から知恵を授けられて作られた遠眼鏡。
船に一つだけ貸し与えられる神器で周囲を見張っていた奴が報告する。
「どこの船か分かるか?」
「どこの船かは分かりませんが、長尾家の関船でも唐船でもありません」
「近くの船に拿捕するように命じろ」
「はい!」
僅かでも拿捕賞金が入ると分かって、乗員達が喜びの表情を浮かべている。
長島、桑名、四日市、松坂、津、津島などの伊勢湾の湊を封じて七カ月。
川上や陸路からの補給があるとは言っても、敵は経済的に苦しんでいる。
単に海上を封鎖するだけ、敵の船を拿捕するだけだ。
殿の命とは言え、それだけの事で、どれだけ敵を苦しめられるか半信半疑だった。
ところが、敵が慌てるのを見て、初めてどれだけ効果があるのか分かった。
湊にとって、船の出入りを止められるのは死活問題だった。
湊を拠点にする商人は、これまで海路で仕入れていた商品が全く入って来ない。
陸路で仕入れた商品を売る事もできず、次の支払いに苦しむ事になる。
船を持つ大商人や海賊衆は、商売も海賊もできなくなる。
何も知らずに戻ってきた船を拿捕され、破産する者が大勢いると報告を受けた。
夜陰に乗じて湊に出入りしようとした船も、全て我らが拿捕した。
殿が危険を冒して夜間にも沖合を漕がすのは、この時の為だったと分かった。
水兵や船乗りに、夜目が利くように鍛錬させていた理由も分かった。
全てはこの時、大々的な湊の封鎖をするためだったのだ。
「御頭、敵の船を拿捕したそうです!
本願寺が寄こした兵糧船だそうです」
「「「「「うぉおおおおお」」」」」
「他に無いか、兵糧以外は積んでいないのか?」
「軍資金は無いか、銭を積んでいないのか?」
「高値をつけそうな捕虜はいないか?」
「船はどうだ、高く売れそうな船なのか?」
「騒ぐな、静かにしろ、見張りに集中しないと敵を見逃すぞ!
全艦隊に陣形を保つように命じろ!」
「はっ!」
手旗信号を送る船員が急いで見張り台に向かった。
長島沖の全艦艇が、旗艦の命令を見逃さないように注視している。
僅かでも失敗する事は許されない!
乱世でも比較的生きやすい陰陽師の家に生まれたとはいえ、軍配者として吉凶の占いに失敗して戦に負けたら、腹を切らねばならない事もある。
陰陽寮でも有名な公家の家に生まれた者なら、そこそこの大名や有力国人に召し抱えらえるが、地下家の三男以下では弱小国人に召し抱えてもらえれば良い方だった。
私も生きて行くために、吉凶の占いに失敗したら殺される軍配者になるしかない。
そう諦めていた時に、殿に召し抱えていただけた。
最初は命懸けの軍配者として召し抱えられえるとばかり思っていた。
だが殿は、祐筆でも陰陽でも良い、天文でも暦でも構わないと言ってくださった。
殿が築かれていた富山城には、大内裏が築かれようとしていたのだ!
ただ、殿は、できれば水軍で働いて欲しいと言われた。
星を見る事ができる陰陽師達には、航海術を学んで欲しいと言われた。
最初は嫌だった、騙されるのではないかと思った。
だが、一度見に行った水軍衆は、心から嬉しそうに役目を果たしていた。
なぜそれほど嬉しそうにしているのか不思議で、理由を聞いてみた。
話を聞いて、腰が抜けそうになるくらい驚いた!
最初は嘘だと思った、騙そうとしているのだと思った。
それくらい信じられない話だったが、本当の事だった。
古参の水軍衆に航海術、天測を学びながら、湊に戻って来る何人もの水軍衆に話を聞いた。
聞いた全ての水軍衆が本当の事だと良い、実際に分配金を見せてくれた。
殿は、水軍衆が航海で儲けた利の二割を公平に分配してくださるのだ!
最も身分の低い水兵でも、一度の航海を終えたら一貫文は分配される。
それも、航海中の衣食住が保証され、扶持も五貫文頂けた上にだ!
父上が朝廷で頂ける扶持が一貫五百文だと言えば、私の気持ちが分かるだろう。
しかも、分配金が一貫文程度なのは、最下級の水兵だからだ。
船の全てを差配する船頭なら、百貫文も分配される。
公家の大臣家でも百貫文ない所があり、羽林家の半数が百貫文以下なのに!
殿から、心から期待していると言っていただけた。
星を読める者は、海の難所さえ覚えれば、蝦夷から南蛮まで安全に航海できる。
百隻に船を指揮して、航海で一万貫文の分配金も夢ではないと言われた。
一万貫文、家臣を抱える必要もなく、領地を治める事もなく、領民の取り分もなく、全て自分の物にできる分配金が一万貫文!
あの時は、内心では、危険な役目を押し付けるための嘘だと思った。
そんな夢のような話は絶対にないと思った。
申し訳ありませんでした、心からお詫びさせていただきます。
今こうして百隻の大型関船を指揮できるようになったのは、殿が全ての御膳立てをしてくださったからです。
富山大内裏の中に大きな屋敷を構えられたのも、両親を京から呼び寄せられたのも、公家の姫を妻に迎えられたのも、全て殿の御陰でございます。
家を継がす嫡男と可愛い娘に恵まれ、屋敷の蔵には三万貫文の蓄えがあり、長尾家でも重臣に数えられるようになれました。
この暮らしを守るため、子供達がこの暮らしを続けられるように、この命を懸けてでも敵を叩き潰し、富山の大内裏を守る!
「今夜長島に夜討ちをかけ、敵の船に斬り込み拿捕する。
今の内にしっかり休んでおけ!」
「やっほう、大型船を奪ってやるぜ!」
「大きければ良いと言うもんじゃねえ、出来るだけ新しい船を狙うんだ!」
「そうそう、船底に水が溜まっているような船は金にならんぞ」
「御頭、川上から長島に小舟の群れが近づいています!」
再び見張り役が報告してきた、配下の連中が期待した目で私を見ている。
船に積んである小舟を下ろして斬り込めと命じて欲しいのだろう。
長島を封鎖している全ての船から小舟を下ろせば、それなりの戦力にはなる。
だがそれでは、此方も無傷では勝てなくなる。
水兵からも航海士からも死傷者がでる。
一人前に育てるのに時間も手間もかかる水兵と航海士を、無駄に死なせてしまうような指揮官を、殿は絶対に許さない!
「愚かな事を期待するな!
殿がお前達の事をどれだけ大切に思っておられるかを忘れるな!
奴隷から成り上がった者達は、殿の優しさを分かっているだろう?
銭など生きていれば幾らでも稼げる。
殿が稼げる機会を与えてくださる!
戦は安全確実に勝って、また蝦夷から南方までの航海に戻るのだ。
一航海で百貫文は確実に分配される、俺が分配させてみせる」
「「「「「はっ!」」」」」
「長尾家の水軍衆として、やらなければならない戦いは命懸けでやる。
逃げる事は絶対に許されない、私が許さない!
同時に、無用な戦で死ぬ事も許さん!
私達が命を捨てて戦う時は、殿を守る時だと忘れるな!」
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