88 / 138
第二章:屍山血河
第81話:小田原城包囲戦
しおりを挟む
天文十六年(1547)11月22日:越中富山城:俺視点
俺は里見を滅ぼした勢いに任せて北条家を滅ぼす事にした。
同盟を破る不義理な行動だが、建前は河東郡で北条軍を救援した時に、北条氏康の不義理な言動で同盟が破綻していたと言う理由だ。
もの凄く身勝手な理由で、俺の名誉を傷つけるだろうが、もう構わない。
出来るだけ自分の手を汚さない方針から、自分の手を血塗れにしてでも、少しでも早く日本を統一すると言う方針に変えたから。
俺は直率の黒鍬軍十万と男屯田軍十万、忠誠を誓いに集まっている奥羽と常陸、上野下野と上総下総、安房と武蔵の国人地侍衆を集めて小田原城に進軍した。
集まった国人地侍衆は、専業武士だけを厳選したのに一万騎十万兵もいた。
北条勢は、統制がとれた圧倒的大軍である長尾軍との野戦を避けた。
史実で上杉謙信と戦った時と同じように、味方の城砦が連携する籠城戦を選んだ。
俺の知っている史実では、多少の野戦があったのだが、今回は全く無かった。
北条家の居城である小田原城は、俺が直率する黒鍬軍と国人地侍衆が包囲した。
北条家に味方する諸城は、男屯田軍の侍大将や足軽大将が包囲した。
俺が包囲した小田原城は、江戸時代になって再建された小田原城とは違う。
最も堅固な曲輪は八幡山の天嶮を利用した古い部分だ
北条早雲が大森藤頼から奪った当時の、もっとも古い小田原城だ。
その小規模な小田原城を、北条家が大きくなるに従って南に縄張りを広げた。
深さ六メートル、幅八メートルを超える空壕を掘り、敵に備えた。
水濠はなく、一之曲輪、二之曲輪、三之曲輪は空壕で守られている。
毎年のように曲輪を増設し、曲輪を守る空壕を掘り土塁を築いた。
その集大成が、上杉謙信と十万の兵を撃退した、総構え完成前の小田原城だ。
だが北条家が上杉謙信を撃退できたのは、旧態依然とした越後衆と関東衆だからで、近代的な部分を取り入れた豊臣軍には、総構えがあっても撃退できなかった。
周囲に敵を持つ戦国大名は長く戦い続けられない。
そんな越後衆や関東衆が相手なら、北条家のにも十分勝機の有る戦術だ。
だが、常に戦い続けられる長尾軍を創った俺には全く通用しない。
俺の黒鍬軍と男屯田軍なら、三年でも四年でも小田原城を包囲できる。
「小田原城の大手門と搦手はもちろん、全ての城門を包囲せよ。
壕と土塁を造り、城からは一兵たりとも出られないようにしろ!
兵糧を運び込むのはもちろん、糞尿を運び出す事もできなくしろ!
小田原城を五年包囲して城兵全てを餓死させる、良いな!?」
「「「「「おう!」」」」」
冷酷非情な命令をしたが、実際に餓死させるかは相手次第だ。
相手が意地を張らなければ、豊臣秀吉が三木城や鳥取城で兵糧攻めをやった時のような、人肉喰いやリフィーディング症候群は起こらない。
そこまで行く前に、北条氏康が降伏するか家臣が謀叛するのが普通だ。
もし北条氏康と家臣衆が俺の思っている以上に誇り高く愚かだったとしても、干魚入りのきな粉玄米重湯から飲ませれば、リフィーディング症候群を防げる。
そんな事は後々起る事だ、まずは北条勢の悪足掻きに備える。
国人地侍衆に、完全に封じ込める前に北条勢が討って出てくるのを警戒させた。
十分な防御態勢を整えた上で、野戦築陣の名手である黒鍬衆に付け城を築かせた。
「領民に簡単な力仕事を手伝わせろ、日当は大麦一升か永楽銭十枚だ」
「「「「「はっ!」」」」」
堅固な付け城を造るには、黒鍬軍しかできない部分が多い。
だが、誰でもやれる作業もそれなりにあり、そこは領民を雇ってやらせる。
これから支配者になる俺が、北条家以上に善良な領主だと思わせる。
史実の北条家は、領民思いの善良な領主だった。
今生の北条家は、三年五作を盗み出した事でとても豊かになり、災害に苦しむ領民に史実以上の支援を行い、領民の心を掴んでいた。
領民の心を北条家から引き離さないと、今後の統治がやり難くなる。
そのための出来るだけ大麦と銭をばらまき、領民を豊かにする。
俺が領主である限り、豊かな生活が続くを思わせる。
北条家を滅ぼすためも築城も、領民の心を掴むのに利用する。
黒鍬軍十万と国人地侍衆十万、手が空いている者が築城を行った。
小田原城周辺の領民十万人が日当欲しさに手伝った。
その結果、秀吉が小田原征伐で築かせた石垣山城に倍する、堅固で北条勢を逃がさない付け城が、たった十日で二十五城も完成した。
機械化できていない時代だと、人海戦術に勝るものはない。
史実の豊臣秀吉が、関東で初めて造らせた総石垣の城である石垣山城は、八十日間に延べ四万人の職人と人夫を使って完成させている。
十日間の間に延べ四万人の黒鍬軍と領民を投入すれば、付け城一つを築けた。
もっと小さく簡素な砦なら五十城は築けたが、北条勢を完璧に封じ込めるための堅固な付け城なので、二十五しか完成させられなかった。
ただし、小田原城周辺にある材料だけで造った城なので、石垣などはない。
基本は深い空壕と土塁、塀と柵を組み合わせただけの野戦陣地だ。
だが堅固さ、敵を逃がさない仕組み、懐の深さは堅城と言っていい。
「私は富山に帰る、後の事は任せた」
俺は二十五の付け城が完成したのを確認してから富山城に戻った。
護衛は黒鍬軍五万と男屯田軍五万だけだ。
残る黒鍬五万と国人地侍衆十万は小田原城の包囲を続ける。
男屯田軍五万は、北条家に忠誠を尽くして籠城する諸城の包囲を続ける。
「小田原城を含む北条家討伐軍の指揮は小島弥太郎に任せる、頼んだぞ」
「大役をお任せくださり、感謝の言葉もありません。
この命に代えましても、誰も出入りさせません」
俺は遂に次の十万人指揮官を任命した。
多くの一万人侍大将が競い合っていたが、その実直な性格が決め手になった。
抜擢の最優先条件が、俺を裏切らない事だから当然とも言える。
同じように、実際には一万人しか指揮していない侍大将を三万人指揮官に抜擢して、国人地侍衆を与力同心として配属させた。
『国人地侍衆を含む三万兵を預かる事になった地下家子弟』
佐々木右馬督兼冨(九条家侍)
日夏左衛門尉家望(九条家侍)
瓦林左兵衛尉公望(九条家侍)
雨宮右兵衛尉厚保(九条家侍)
伊庭帯刀篤史(外記方)
神原宿衛厚元(外記方)
神足清内慶宗(外記方)
黒田左馬尉蔭恒(鷹司家侍)
高城右馬尉利明(鷹司家侍)
熊沢右衛門尉家守(鷹司家侍)
貧乏公家や夜逃げしなければいけないくらい困窮していた地下家の子弟が、生きるために三条長尾家に仕官して戦い続けてきた。
特に頑張ったのが、三条長尾家と親戚となった九条家と鷹司家の家侍だ。
読み書き算盤はもちろん、軍略も必死で学び、実戦でも命懸けの槍働きを続けた。
哀しい話だが、幾人もの公家と地下家の子弟が戦死している。
そんな中で生き延びた優秀な子弟から、ついに三万人指揮官が十人も誕生した。
三万もの兵を預かるのは、織田信長末期の方面軍司令官でも少ない。
畿内方面軍の明智光秀でも総兵力は二万人程度だろう。
豊臣秀吉と戦った山崎の合戦では多くて一万六千兵だった。
関東管領となった滝川一益でも、北条家との決戦時に一万八千兵しかいなかった。
北陸方面軍の柴田勝家は、豊臣秀吉と賤ケ岳で戦った時に三万兵を率いていた。
解任前の大坂司令官、佐久間信盛が七カ国の与力衆をつけられ軽く三万を超える。
中国方面軍の羽柴秀吉は、備中高松城の戦いで三万兵を率いている。
後は信長の嫡男で織田家を継いでいる信忠くらいだ。
織田信忠が武田勝頼を滅ぼした甲州征伐では、六万の大軍を率いていた。
日本の歴史上、陪臣で十万兵を率いるのは小島弥太郎が初めてだろう。
山村若狭守国信、山吉伊予守政久、吉田源右衛門尉英忠、朝倉宗滴殿という前例はあるが、彼らは内政でしか十万兵を率いていない。
明らかに誰かに仕える陪臣が、実戦で十万兵以上を率いて敵と戦うのは小島弥太郎貞興が初めてだと思う。
形だけ朝廷や幕府、帝や将軍に仕える者ではいるが、その全員が実質的には独立勢力で、一方の総大将だった。
小島弥太郎貞興に次ぐ実戦指揮官は、四万兵を率いる直江大和守景綱、色部修理進勝長、柿崎和泉守景家の三人だけだ。
普通なら三万人侍大将に選ばれた十人が、気負って失敗するのが心配な所だ。
だが、今回選んだ十人にそのような気負いはないと断言できる。
心から安心して兵を預けられる者達だ。
「良く怪我一つなくお戻りくださいました」
俺は小島弥太郎に全てを任せて越中の富山城に戻った。
雪に閉じ込められる不便な地だが、その分厳冬期の守りは堅い。
何より何時でも京に攻め込む事ができる立地なのだ。
俺が越中にいるだけで、将軍と管領に圧力をかける事ができる。
ただ、その事実を将軍と管領が理解していない可能性もある。
理解できていないから、愚かな事が平気でできるのだろう。
「長く戻る事ができず申し訳なかった」
俺は晶に長く城を空けた事を詫びた。
「とんでもございません、命懸けの戦いに赴かれているのです。
そう簡単に戻る事ができないのは理解しております」
「そう言ってくれると助かる。
だが、もう長く城を空ける事はないだろう。
次に長く城を空けるのは、京に上る時だけだ」
「北条家の事は、家臣の方々に任せられるのですか?」
「ああ、北条家は降伏を待つだけだ。
どこかで叛乱が起きたとしても、家臣を派遣すれば簡単鎮圧できる。
尾張の織田が攻め込んできたとしても簡単に撃退できる、安心しろ」
「はい、殿様」
俺が一番力を入れなければいけないのは、天下を継ぐ後継者の育成だ。
これに失敗したら、後世の非難を覚悟して天下を統一する意味がない。
俺は里見を滅ぼした勢いに任せて北条家を滅ぼす事にした。
同盟を破る不義理な行動だが、建前は河東郡で北条軍を救援した時に、北条氏康の不義理な言動で同盟が破綻していたと言う理由だ。
もの凄く身勝手な理由で、俺の名誉を傷つけるだろうが、もう構わない。
出来るだけ自分の手を汚さない方針から、自分の手を血塗れにしてでも、少しでも早く日本を統一すると言う方針に変えたから。
俺は直率の黒鍬軍十万と男屯田軍十万、忠誠を誓いに集まっている奥羽と常陸、上野下野と上総下総、安房と武蔵の国人地侍衆を集めて小田原城に進軍した。
集まった国人地侍衆は、専業武士だけを厳選したのに一万騎十万兵もいた。
北条勢は、統制がとれた圧倒的大軍である長尾軍との野戦を避けた。
史実で上杉謙信と戦った時と同じように、味方の城砦が連携する籠城戦を選んだ。
俺の知っている史実では、多少の野戦があったのだが、今回は全く無かった。
北条家の居城である小田原城は、俺が直率する黒鍬軍と国人地侍衆が包囲した。
北条家に味方する諸城は、男屯田軍の侍大将や足軽大将が包囲した。
俺が包囲した小田原城は、江戸時代になって再建された小田原城とは違う。
最も堅固な曲輪は八幡山の天嶮を利用した古い部分だ
北条早雲が大森藤頼から奪った当時の、もっとも古い小田原城だ。
その小規模な小田原城を、北条家が大きくなるに従って南に縄張りを広げた。
深さ六メートル、幅八メートルを超える空壕を掘り、敵に備えた。
水濠はなく、一之曲輪、二之曲輪、三之曲輪は空壕で守られている。
毎年のように曲輪を増設し、曲輪を守る空壕を掘り土塁を築いた。
その集大成が、上杉謙信と十万の兵を撃退した、総構え完成前の小田原城だ。
だが北条家が上杉謙信を撃退できたのは、旧態依然とした越後衆と関東衆だからで、近代的な部分を取り入れた豊臣軍には、総構えがあっても撃退できなかった。
周囲に敵を持つ戦国大名は長く戦い続けられない。
そんな越後衆や関東衆が相手なら、北条家のにも十分勝機の有る戦術だ。
だが、常に戦い続けられる長尾軍を創った俺には全く通用しない。
俺の黒鍬軍と男屯田軍なら、三年でも四年でも小田原城を包囲できる。
「小田原城の大手門と搦手はもちろん、全ての城門を包囲せよ。
壕と土塁を造り、城からは一兵たりとも出られないようにしろ!
兵糧を運び込むのはもちろん、糞尿を運び出す事もできなくしろ!
小田原城を五年包囲して城兵全てを餓死させる、良いな!?」
「「「「「おう!」」」」」
冷酷非情な命令をしたが、実際に餓死させるかは相手次第だ。
相手が意地を張らなければ、豊臣秀吉が三木城や鳥取城で兵糧攻めをやった時のような、人肉喰いやリフィーディング症候群は起こらない。
そこまで行く前に、北条氏康が降伏するか家臣が謀叛するのが普通だ。
もし北条氏康と家臣衆が俺の思っている以上に誇り高く愚かだったとしても、干魚入りのきな粉玄米重湯から飲ませれば、リフィーディング症候群を防げる。
そんな事は後々起る事だ、まずは北条勢の悪足掻きに備える。
国人地侍衆に、完全に封じ込める前に北条勢が討って出てくるのを警戒させた。
十分な防御態勢を整えた上で、野戦築陣の名手である黒鍬衆に付け城を築かせた。
「領民に簡単な力仕事を手伝わせろ、日当は大麦一升か永楽銭十枚だ」
「「「「「はっ!」」」」」
堅固な付け城を造るには、黒鍬軍しかできない部分が多い。
だが、誰でもやれる作業もそれなりにあり、そこは領民を雇ってやらせる。
これから支配者になる俺が、北条家以上に善良な領主だと思わせる。
史実の北条家は、領民思いの善良な領主だった。
今生の北条家は、三年五作を盗み出した事でとても豊かになり、災害に苦しむ領民に史実以上の支援を行い、領民の心を掴んでいた。
領民の心を北条家から引き離さないと、今後の統治がやり難くなる。
そのための出来るだけ大麦と銭をばらまき、領民を豊かにする。
俺が領主である限り、豊かな生活が続くを思わせる。
北条家を滅ぼすためも築城も、領民の心を掴むのに利用する。
黒鍬軍十万と国人地侍衆十万、手が空いている者が築城を行った。
小田原城周辺の領民十万人が日当欲しさに手伝った。
その結果、秀吉が小田原征伐で築かせた石垣山城に倍する、堅固で北条勢を逃がさない付け城が、たった十日で二十五城も完成した。
機械化できていない時代だと、人海戦術に勝るものはない。
史実の豊臣秀吉が、関東で初めて造らせた総石垣の城である石垣山城は、八十日間に延べ四万人の職人と人夫を使って完成させている。
十日間の間に延べ四万人の黒鍬軍と領民を投入すれば、付け城一つを築けた。
もっと小さく簡素な砦なら五十城は築けたが、北条勢を完璧に封じ込めるための堅固な付け城なので、二十五しか完成させられなかった。
ただし、小田原城周辺にある材料だけで造った城なので、石垣などはない。
基本は深い空壕と土塁、塀と柵を組み合わせただけの野戦陣地だ。
だが堅固さ、敵を逃がさない仕組み、懐の深さは堅城と言っていい。
「私は富山に帰る、後の事は任せた」
俺は二十五の付け城が完成したのを確認してから富山城に戻った。
護衛は黒鍬軍五万と男屯田軍五万だけだ。
残る黒鍬五万と国人地侍衆十万は小田原城の包囲を続ける。
男屯田軍五万は、北条家に忠誠を尽くして籠城する諸城の包囲を続ける。
「小田原城を含む北条家討伐軍の指揮は小島弥太郎に任せる、頼んだぞ」
「大役をお任せくださり、感謝の言葉もありません。
この命に代えましても、誰も出入りさせません」
俺は遂に次の十万人指揮官を任命した。
多くの一万人侍大将が競い合っていたが、その実直な性格が決め手になった。
抜擢の最優先条件が、俺を裏切らない事だから当然とも言える。
同じように、実際には一万人しか指揮していない侍大将を三万人指揮官に抜擢して、国人地侍衆を与力同心として配属させた。
『国人地侍衆を含む三万兵を預かる事になった地下家子弟』
佐々木右馬督兼冨(九条家侍)
日夏左衛門尉家望(九条家侍)
瓦林左兵衛尉公望(九条家侍)
雨宮右兵衛尉厚保(九条家侍)
伊庭帯刀篤史(外記方)
神原宿衛厚元(外記方)
神足清内慶宗(外記方)
黒田左馬尉蔭恒(鷹司家侍)
高城右馬尉利明(鷹司家侍)
熊沢右衛門尉家守(鷹司家侍)
貧乏公家や夜逃げしなければいけないくらい困窮していた地下家の子弟が、生きるために三条長尾家に仕官して戦い続けてきた。
特に頑張ったのが、三条長尾家と親戚となった九条家と鷹司家の家侍だ。
読み書き算盤はもちろん、軍略も必死で学び、実戦でも命懸けの槍働きを続けた。
哀しい話だが、幾人もの公家と地下家の子弟が戦死している。
そんな中で生き延びた優秀な子弟から、ついに三万人指揮官が十人も誕生した。
三万もの兵を預かるのは、織田信長末期の方面軍司令官でも少ない。
畿内方面軍の明智光秀でも総兵力は二万人程度だろう。
豊臣秀吉と戦った山崎の合戦では多くて一万六千兵だった。
関東管領となった滝川一益でも、北条家との決戦時に一万八千兵しかいなかった。
北陸方面軍の柴田勝家は、豊臣秀吉と賤ケ岳で戦った時に三万兵を率いていた。
解任前の大坂司令官、佐久間信盛が七カ国の与力衆をつけられ軽く三万を超える。
中国方面軍の羽柴秀吉は、備中高松城の戦いで三万兵を率いている。
後は信長の嫡男で織田家を継いでいる信忠くらいだ。
織田信忠が武田勝頼を滅ぼした甲州征伐では、六万の大軍を率いていた。
日本の歴史上、陪臣で十万兵を率いるのは小島弥太郎が初めてだろう。
山村若狭守国信、山吉伊予守政久、吉田源右衛門尉英忠、朝倉宗滴殿という前例はあるが、彼らは内政でしか十万兵を率いていない。
明らかに誰かに仕える陪臣が、実戦で十万兵以上を率いて敵と戦うのは小島弥太郎貞興が初めてだと思う。
形だけ朝廷や幕府、帝や将軍に仕える者ではいるが、その全員が実質的には独立勢力で、一方の総大将だった。
小島弥太郎貞興に次ぐ実戦指揮官は、四万兵を率いる直江大和守景綱、色部修理進勝長、柿崎和泉守景家の三人だけだ。
普通なら三万人侍大将に選ばれた十人が、気負って失敗するのが心配な所だ。
だが、今回選んだ十人にそのような気負いはないと断言できる。
心から安心して兵を預けられる者達だ。
「良く怪我一つなくお戻りくださいました」
俺は小島弥太郎に全てを任せて越中の富山城に戻った。
雪に閉じ込められる不便な地だが、その分厳冬期の守りは堅い。
何より何時でも京に攻め込む事ができる立地なのだ。
俺が越中にいるだけで、将軍と管領に圧力をかける事ができる。
ただ、その事実を将軍と管領が理解していない可能性もある。
理解できていないから、愚かな事が平気でできるのだろう。
「長く戻る事ができず申し訳なかった」
俺は晶に長く城を空けた事を詫びた。
「とんでもございません、命懸けの戦いに赴かれているのです。
そう簡単に戻る事ができないのは理解しております」
「そう言ってくれると助かる。
だが、もう長く城を空ける事はないだろう。
次に長く城を空けるのは、京に上る時だけだ」
「北条家の事は、家臣の方々に任せられるのですか?」
「ああ、北条家は降伏を待つだけだ。
どこかで叛乱が起きたとしても、家臣を派遣すれば簡単鎮圧できる。
尾張の織田が攻め込んできたとしても簡単に撃退できる、安心しろ」
「はい、殿様」
俺が一番力を入れなければいけないのは、天下を継ぐ後継者の育成だ。
これに失敗したら、後世の非難を覚悟して天下を統一する意味がない。
22
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
転生 前田慶次:養父を隠居させた信長を見返して、利家を家臣にしてやる!
克全
ファンタジー
町工場の旋盤職人として52年間働き続けた職人気質の男が、80年の人生を終えて逆行転生した。
大河ドラマを観た程度の歴史知識しかない男は前田慶次に転生したが、気がついていなかった。
生き残るために必死で戦国乱世の知識と武芸、甲賀流の忍術を学んだが、幸か不幸か巨人症だったので、忍術よりは巨体を生かした武芸の方に突出した才能が有った。
叔父が尾張の池田家に婿養子に入っていた縁で、同じ様に荒子前田家の婿養子に入った男は、ここで初めて自分が前田慶次だと気づいた。
マンガとアニメで前田慶次が好きになった男は、前田慶次の事だけは少し知っていた。
織田信長の命令で養父が無理矢理隠居させられ、義叔父の前田利家が跡継ぎとなり、最初は意地を張っていた養父も自分も、屈辱を飲み込んで利家の家臣となる事を知っていた。
その原因となった信長と利家に復讐する心算だったが『大うつけ』との評判が広がり、家臣が足らない信長が荒子前田家にやってきて、男を家臣にすると言い出した。
信長の筆頭家臣の林家の寄り子が前田本家、その前田本家の家臣である荒子前田家、その荒子前田家の嫡男の婿養子という、手柄を奪われる立場からでなく、信長の直臣旗本という、史実の利家以上に恵まれた立場で武功を重ねた。
突出した怪力と武芸で、史実では信長が負けるはずだった合戦を全て勝利に導き、惚けた織田信秀と下剋上を狙う秀貞をぶちのめし、攻め寄せて来る今川義元の家臣を生け捕りにして莫大な身代金を手に入れ、鰯トルネードと鯨を追い込み漁で豊漁として、莫大な軍資金を手に入れた。
根来と雑賀の鉄砲衆を雇い、戦法を盗み取り、破竹の勢いで今川、武田、北条、斎藤、六角を破り、いつでも上洛できる状況になったが、余りにも突出した武功を重ねる慶次と信長の立場は、実力的には逆転してしまっていた。
信長は男を家臣から同盟者として上洛を果たし、男は友情を優先して信長と天下を二分した。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
武田義信に転生したので、父親の武田信玄に殺されないように、努力してみた。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
アルファポリス第2回歴史時代小説大賞・読者賞受賞作
原因不明だが、武田義信に生まれ変わってしまった。血も涙もない父親、武田信玄に殺されるなんて真平御免、深く静かに天下統一を目指します。
転生したら死にゲーの世界だったので、最初に出会ったNPCに全力で縋ることにしました。
黒蜜きな粉
ファンタジー
『世界を救うために王を目指せ? そんなの絶対にお断りだ!』
ある日めざめたら大好きなゲームの世界にいた。
しかし、転生したのはアクションRPGの中でも、死にゲーと分類されるゲームの世界だった。
死にゲーと呼ばれるほどの過酷な世界で生活していくなんて無理すぎる!
目の前にいた見覚えのあるノンプレイヤーキャラクター(NPC)に必死で縋りついた。
「あなたと一緒に、この世界で平和に暮らしたい!」
死にたくない一心で放った言葉を、NPCはあっさりと受け入れてくれた。
ただし、一緒に暮らす条件として婚約者のふりをしろという。
婚約者のふりをするだけで殺伐とした世界で衣食住の保障がされるならかまわない。
死にゲーが恋愛シミュレーションゲームに変わっただけだ!
※第17回ファンタジー小説大賞にエントリー中です。
よろしければ投票をしていただけると嬉しいです。
感想、ハートもお待ちしております!
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
不幸少女は二度目の人生でイージーモードを望む
天宮暁
ファンタジー
人生なんてクソゲーだ。
それが、16年生きてきた私の結論。
でもまさか、こんな結末を迎えるなんて……。
しかし、非業の死を遂げた私をあわれんで、神様が異世界に転生させてあげようと言ってきた。
けど私、もう人生なんて結構なんですけど!
ところが、異世界への転生はキャンセル不能。私はむりやりチートを持たされ、異世界に放り出されることになってしまう。
手に入れたチートは「難易度変更」。世界の難易度を強制的に変える力を使い、冒険者となった私はダンジョンに潜る。
今度こそ幸せな人生を送れるといいんだけど……。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる