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第一章:三条長尾家継承編

第42話:春日山城占領

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天文九年(1540)5月20日:越後春日山城:俺視点

 俺は伊達稙宗、上杉定実、中条藤資に罠を仕掛けた。
 晴景兄上には、戦国乱世で当主を務められる器なのか試す罠を仕掛けた。

 ただ、晴景兄上を見殺しにする気はないので、何時でも越後に駆け付けられるように、加賀から越中に移動していた。

 直率の奴隷軍と足軽軍を五万兵、水軍の大型関船を八十隻待機させていた。
 春日山城と林泉寺に入り込ませている諜報部隊、越後各地に入り込ませている諜報部隊から毎日伝書鳩が飛んでくる。

 俺は、晴景兄上が出陣を決めたという報告を受けて直ぐに越後に向かった。
 大型関船に乗り、水主水兵八千に陸兵八千を加えて直江津に向かった。
 残り四万二千兵は陸路を使って越中から越後春日山城に向かった。

 俺が直江津に着いたのは、晴景兄上が春日山城を出陣して半日後だった。 
 兄上が夜明けとともに出陣しているので、昼を少し過ぎていた。
 
 春日山城に残っているは、留守を任せられた長尾家の家臣と味方の国人。
 兄上を陥れて殺そうとしている上杉定実と定実の腹心側近。
 それと、上杉定実の娘で兄上の妻でもある女性、藤子義姉上だ。

 上杉定実も馬鹿ではない、側近だけで春日山城を奪えるとは思っていない。
 裏切者らしく、留守を任せられるであろう長尾家の家臣と国人を調略していた。
 兄上に忠義を尽くす家臣が不意を突かれて殺されていた。

 春日山城を放置して先に揚北衆を滅ぼす事も考えた。
 兄上が誰かに負けていたとしても、俺が五万の兵を率いていたら皆降伏する。
 上杉定実が春日山城の一帯を占領していても、配下が降伏するか逃げる。

 だが俺が越後を平定して伊達を屈服させるまでの間に、藤子義姉上がどう扱われるか分からない。

 上杉定実の実の娘だから、酷い扱いはされないと思いたいが、戦国乱世だ。
 後に生まれた子が、兄上の子ではないと言われるような事は避けたい。

 だから揚北衆も伊達勢も後回しにして、先に春日山城を占領した。
 ほんの一瞬だけ春日山城を奪った上杉定実と裏切者達は、直江津に集結する大型関船艦隊を見て慌てふためいた。

 裏切者達の半数が返り忠と呼ばれる再度の寝返りをはかった。
 一度兄上を裏切って上杉定実についたのに、俺の水軍が直江津に集結したのを見て、上杉定実を捕らえて俺に差し出した。

 愚かとしか言いようがない、俺が許す訳ないだろう。
 そんな馬鹿だから兄上を裏切って上杉定実につくのだろうが、理解できない。

 だが残る半数は、許されない事くらいは分かったようだ。
 返り忠など考えずに一目散に逃げだした。
 直江津とは反対側、南に逃げ出した。

 だが、南の越中からは四万二千兵が攻め寄せている。
 信濃に逃げようとしても、国境には長尾家の親族である高梨家がある。
 何とか見つからずに信濃に入れても、俺が支配している戸隠神社と善光寺がある。

「守護の玄清様に命じられ、逃げた者共に脅され、心ならずも裏切る形になってしまいましたが、これからは越中守様に忠義を尽くさせていただきます」

 恥知らず達が異口同音に言い訳にもならない事を口にする。
 
「裏切者の言葉は耳の穢れになる、腹を切らせる価値もない。
 梟首にせよ」

「はっ!」

「お許しください、命ばかりは、命ばかりはお助け下さい!」

 泣き喚いて命乞いする裏切者達は家臣に任せた。
 逃げた者達には追手を送り、越中と信濃の家臣に捕縛を命じる使番を送った。
 卑怯者が残していった家族は奴隷にして、領地も没収する。

「玄清様、首を刎ねられるか僧になるか、好きな方を選んでください」

 俺は、側近に見捨てられ調略した者に裏切られた上杉定実に聞いた。

「おのれ、主を主とも思わぬ不忠者め!」

「不忠は貴男も同じでしょう。
 早く守護に成りたいだけで、主君であり養父でもある民部大輔様に刃を向け、自害に追い込んだ不忠不孝の極悪人でしょう」

「違う、余はやりたくなかった、為景に脅されて仕方なくやったのだ。
 余は養父上と関東管領殿の敵討ちをしようとしただけだ!」

「そのような愚にもつかない言い訳は、あの世で民部大輔様にされよ。
 俺や父上と違って、兄上は玄清様を幽閉から解き放った。
 そんな兄上を裏切るとは、愚かにも程がある。
 許しても恩に感じず、俺の命を狙い続けるのは目に見えている。
 殺せ、梟首にせよ」

「止めろ、待て、主殺しだぞ、余を殺せば主殺しになるぞ!」

「父上だけで二度、長尾一族では三度も主を殺している。
 二度も三度も四度も同じだ、愚か者の言葉に惑わされずに梟首にせよ」

「謝る、謝るから命ばかりは助けてくれ、この通りだ!
 隠居する、僧になる、家督は約束通り晴景に渡す、だから命ばかりは助けてくれ」

「何をしている、さっさと首を刎ねろ」

「「「「「はっ」」」」」

「お待ちください、どうかお待ちください、愚かな父を許してあげてください!」

 藤子義姉上が父親の命乞いにやってきた。
 こうなる可能性が高い事は分かっていた。

「義姉上の頼みでもこれだけは聞けません。
 こいつは恥知らずな行いをした。
 養嗣子にすると言った晴景兄上を騙し裏切り殺そうとした。
 三条長尾家に代々忠誠を尽くしてくれた、譜代の家臣を騙し討ちにした。
 それを助けろというのは、晴景兄上よりもこいつを選ぶと言う事です。
 三条長尾家よりも越後守護上杉家を選ぶと言う事ですぞ!?」

「分かっております、分かっているのです。
 わたくしが身勝手なお願いをしている事は分かっております。
 わたくしは左衛門尉様を心から愛しております。
 その事に嘘偽りはりません。
 しかしながら、実の父を見殺しにする事もできません。
 全ては左衛門尉様と父の仲を取り持てなかったのは私の力不足です。
 私の命と引き換えに父を許して頂きたいのです」

 よし、予定通りだ、これで自分の手を穢さずにすむ。
 上杉定実達に家族を殺された譜代衆、俺の言動を主君として相応しいか見ている連中に減点される事なく、殺さない程度の処分にできる。

「困りましたね、義姉上を殺してしまうと兄上と争う事に成ります。
 長尾家を守り、越後を平穏に治める為なら、例え兄上や父上であろうと討ち果たしますが、必要もないのに兄上と戦う気はありません。
 分かりました、命だけは助けますが、越後からは放り出します。
 僧にして園城寺か金剛峰寺に預けますが、それで良いですね?」

「ありがとうございます、命さえ助けていただけたら十分です」

「義姉上、奥にお送りします。
 兄上が迎えに来られるまで、大人しくしていてください」
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