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4話

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「龍鬼殿。
 この度の事、なんと言っていいか分からぬ。
 だが奈落の話は我が一族も伝承で聞いている。
 一年後に奈落が解放されてしまえば、この大陸は地獄と化すだろう。
 私も族長そしてそのような事は見逃せない。
 まことに勝手な理由だが、助力させて欲しい」

 リザードマンの族長は正直な気持ちを龍鬼に伝えた。
 怒り狂い八つ当たりしたいであろう龍鬼だったが、伝え聞いた妹・麗鬼の奮戦と遺言が龍鬼を押し止めていた。
 麗鬼の想いにも応えなければいけないと思っていた。
 だが同時に、一刻でも早く戻り、桃太郎を嬲り殺しにしたいという想いもあった。

「族長の気持ちを受けさせてもらいます。
 ですが一緒には行動できません。
 今の私は復讐が全てです。
 一族一門が滅んだこの大陸の事など、知った事ではありません。
 ですが妹の想いを踏み躙るわけにもいきません。
 リザードマンは鬼ヶ島城を取り返してください。
 あそこが一番魔獣に対して有利に戦えます。
 魔獣の世界とこの世界を繋ぐ奈落で、一番狭くなっています。
 いったん魔獣がこの世界に入り込んだら、探し追いかけ斃すのは至難の技です」

「そう、ですか。
 今の龍鬼殿に、魔獣対策を優先してくれとは口が裂けても言えませんからな。
 分かりました。
 リザードマンで送れる戦士はできる限り鬼ヶ島城に送りましょう。
 近隣の諸族にも同盟を話します」

「そう、ですか。
 一族一門のために戦われてください。
 もう私には関係のない事です。
 四族を、特に人族を滅ぼさずにはいれません。
 私はこれで失礼させていただきます」

「もう行かれるのか」

 龍鬼はもう返事をしなかった。
 正式な見送りなど無駄。
 玄関から出るのも時間がかかる。
 そう言わんばかりに、手荷物だけ持って窓から跳びだした。
 族長以外の、リザードマンの重臣は驚き、そして憤った。
 いくらなんでも無礼過ぎるのではないかと。

「もう、龍鬼殿にとって、大陸の儀礼などどうでもいいのだよ。
 融和をめざし、努力していた龍鬼殿を騙し、鬼族を滅ぼす者がいた。
 直接手をくだしたのは四族だが、見て見ぬふりをしていた者もいるかもしれん。
 そんな諸族が創り上げた大陸の礼儀など、無視するという宣言だ。
 そしてそれを咎める種族は、人族の一味と断じて滅ぼすつもりだろう」

 族長の話を聞いて、リザードマンの重臣達は身の凍る思いをした。
 身近に接した彼らは、龍鬼の強さを肌で感じていた。
 諸族の中でも戦闘力が強いと言われているリザードマンの重臣が、全員同時にかかっても勝てない、皆殺しにされると実感していたのだ。

「ぼやぼやしていれないぞ!
 このままでは一年後に大陸は滅ぶ。
 龍鬼殿に味方してもらうには、最低でも四族を皆殺しにせねばならんのだ。
 友好的な種族だけではなく、全ての種族に特使を送れ!」
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