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2話

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「ハーピー族が空を飛んで城内に入りこんでいます。
 ヒヒ族が城壁を突破しました。
 このままでは民が殺されてしまいます。
 姫様、いかがいたしましょう」

「民を本丸に入れなさい。
 女子供であろうと、ヒヒ族ごとにきに簡単に殺される鬼族ではありません。
 戦士は城壁を死守してコボルト族と人族を防ぎなさい」

 鬼族の姫、麗鬼は覚悟を決めていた。
 兄の龍鬼とは違い、人族を、婚約者の桃太郎を信じきれていなかった。
 兄と桃太郎の唱える諸族融和の理想には賛同しつつ、どこか覚めていた。
 本能が桃太郎は危険だと訴えていた。
 だからこそ、桃太郎の奇襲に対処できたのだ。
 婚約者として会いたいという甘言に騙されることなく、鬼ヶ島城に残ったのだ。

 だがそんな麗鬼でも、他の諸族が人族に味方することまでは予想できなかった。
 特に空を飛んで城内に潜入できるハーピー族と、城壁をよじ登れるヒヒ族が人族の味方をするとは思ってもいなかった。
 ゴブリン族やオーガ族には警戒していたが、その警戒を回避するように、コボルト族を味方に引き入れるとは思っていなかった。

「正門を突破されました!」

「三之丸の戦士は二之丸に入りなさい」

 麗鬼は覚悟を決めた。
 ここは一族が死に絶えることになっても、魔獣の出入り口、奈落を封印しなければいけないと覚悟した。
 鬼族は他の諸族に比べて極端に人口が少ない。
 それには理由があった。
 魔獣かこの世界に入り込まないように、神通力を使っているからだ。

 死力を尽くして奈落を封印しているので、子供を授かり育てる余力がないのだ。
 寿命が長く身体頑健なので、奈落の封印を放棄すれば、いくらでも子供を生み育てることができるのだが、責任感と正義感の強い鬼族には、そのような卑怯な真似はできないのだ。
 
 そして今も、その責任感が発揮されようとしていた。
 逃げ出せば逃げられない事もないのに、龍鬼が体制を整え、奈落を封印できるようになるまでの時間稼ぎをする心算だった。
 鬼族に伝わる鬼柱を代償とした大魔術を行い、一年間の封印をする心算だった。
 鬼ヶ島城に残る全ての鬼族の命を代償として。
 だが、全てを犠牲にして他者を助けるほど、麗鬼は滅私の性格ではない。
 兄・龍鬼なら、鬼族を蘇らせてくれると信じていたのだ。

「卑怯下劣な人族よ。
 悪辣非道なコボルト、ヒヒ、ハーピーよ。
 必ず報復してみせる。
 だが反省の時間を一年だけくれてやる。
 我ら鬼族の命を犠牲にして奈落を封印し、一年だけ魔獣の侵攻を止めてやる。
 だがそれまでだ。
 鬼族が滅びた以上、これ以上の封印は不可能だ。
 人族を滅ぼし詫びを入れろ。
 いや、お前たちになど期待はせん。
 他の諸族よ、卑怯卑劣な者どもを皆殺しにしろ、さもなくばこの世界は魔獣に滅ぼされるだろう!」

 血を吐くような宣言をして、麗鬼は自分で自分の首を刎ね飛ばした。
 斬り口から噴水のように血が噴き出した。
 するとどうだろう、全ての鬼族の首が刎ね飛び、城内が血の海となった。
 桃太郎は快楽に恍惚となっていた。
 だが他の者たちは、最後の宣言とあまりの惨状に、顔面蒼白となっていた。
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