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8話王太子ルーカス視点

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 ジャンが意気消沈しています。
 私がわざわざ家臣の所に食事に訪れると聞いて、久しぶりに亜竜料理が食べられると期待していたのでしょう。

 ジャンは命懸けの毒見役をしてくれていますが、そこ命懸けの役目を愉しむ心の強さと余裕があります。
 主君である私に似たのか、食べる事が大好きで、毒見を楽しみにしています。
 王家も財政が逼迫しているので、体面的に必要なとき以外は、亜竜肉を食べられなくなっているのです。

 私にとっては、恋するナウシカが、手料理を振舞ってくれるというのです。
 なんであろうと幸せ一杯なのです。
 下賤な豚肉料理であろうと、私のために心を込めて作ってくれたのです。
 侍従どもが猛反対しようと、取りやめたりはしないのです!

「これは!」

 ジャンがマナーを破りました?!
 私の面目にかかわるので、ジャンがマナーを破ったことなど一度もないのです。
 そのジャンが、思わず食事中に声を発するなど、よほどの事です。
 驚くほど美味しいか不味いかのどちらかでしょう。
 
 ジャンが。
 毒見中は絶対に表情を変えないジャンが、前菜を惜しそうに私に回します。
 あまりの期待感に胸が高鳴ります。
 ナウシカが私のために用意してくれた料理は、どれほど美味しいのでしょうか?

 前菜は薄切り肉を乗せた野菜です。
 蒸しているのでしょうか?
 今まで嗅いだことのない馥郁たる香りがします。
 野菜は嫌いなのですが、この香りはいいですね。
 肉を美味しくしてくれそうです。

 美味い!
 薄切りした豚肉が、絶妙な厚みです。
 厚過ぎず薄過ぎず、絶妙な噛みごたえとの後に旨みが押し寄せてきます。
 これが豚肉料理だとは信じられません。
 ですが野菜はいりません。
 カチュアが作ってくれたとはいえ、野菜は却下です。

 それよりは、ジャンが飲んでいるスープです!
 スープなのに野菜が入っていません。
 うれしい事です。
 何の味もしない不味い野菜が入っているから、私はスープが嫌いだったのです。
 だから野菜を取り除いたスープをださせるようになったのです。
 もっとも、よほど優れた肉でないと、肉も味がしなくなっていますが、肉ならそれも許せるのです。
 ナウシカは私の事を調べてくれたのですね。

 お?
 またジャンが驚いています。
 惜しそうにスープをこちらに渡してきます。
 少ないではないですか!
 いつもより飲み過ぎです!
 なんと?
 なんと美味しそうな香りですか!
 先ほどの前菜も美味しそうな香りがしていましたが、このスープはまた少し違う美味しそうな香りです。
 美味い!
 肉が美味い!
 煮ていないのでしょうか?
 豚肉の旨みがよく分かります!
 ああ、もう飲み終わってしまいました!
 毒見なのに飲み過ぎたジャンの責任です!
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