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第一章

第62話:鶏の血と羽

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 冬を乗り越える間に廃鶏1500羽3万円を10回も買った。
 1万5000羽買ってもたった30万円だった。
 残酷だが食べるためには生きたまま殺して血抜きすることになる。
 俺は食べる気になれなかったが、奴隷希望者達の中には嬉々として鶏の血を料理に使う者がいた。

 それどころか生き血を飲む者までいた。
 鶏だけでなく動物の血は健康にいいと言うのだ。
 ただ流石に生き血を飲む習慣のある村は半数程度だった。
 氏子村は料理に使うだけなのでまだよかった。

 俺が今日まで氏子村で鶏の血を料理に使う事を知らないで済んだのは、鶏を買い与えたのが配祀神である俺で、俺が血を捨てていたからだった。
 俺のいない所では鶏の血を料理に使っていたらしい。
 まあ、欧州では豚の血をソーセージにする事は普通の事だ。
 アフリカでも牛乳に血を加えたモノが精力剤として飲まれている。
 俺に他人種の食習慣を差別する気はない。

 だが自分で食べるのは遠慮させてもらう。
 正直ライラが食べるのを見るのも嫌だ。
 しかし石姫皇女は嬉々として飲み食いしていた。
 本当に食に関しては貪欲すぎる神だ。

 石姫皇女が喜んで食べた鶏血料理は、雑炊やスープに血を入れて固めた物だ。
 台湾料理なのか中国料理なのかは忘れたが、確か鴨血というモノがあった。
 それの鶏版だと思えば納得できる。
 そういえば蒸猪血という、豚の血を鍋に入れて塩などの調味料で味を調え、大量のネギを散らしてから蒸すだけの簡単な料理もあったな。

 普通に豆腐のように固めた血旺という料理もあったはずだ。
 本当の豆腐やひき肉を混ぜた料理は猪血丸子だったかな。
 中国版のブラッドソーセージは血腸と呼ばれていたな。
 俺は食う気になれないが、石姫皇女は美味しいと言っていた……

 それと米血糕という料理があったな。
 俺の知っているのは、豚の血を使った豬血糕と鴨の血を使った鴨血糕だが、その鶏血版のような物だな。
 本当はもち米があればいいだろうが、俺が持ち込んだのはジャポニカ米の玄米なので、それで作ってもらうしかない。
 米血糕のためにもち米を買って異世界に持ち込む気はない。
 ないのだが、問題は俺の心と知識を読んだ石姫皇女がどう言うかだ……

 後俺が食べられない鶏の部位は、足の爪と鶏冠と腸だ。
 鶏足爪は雞爪と呼ばれて中華圏では好まれていたはずだ。
 茹でても揚げても美味しいそうだが、俺は食べる気になれない。
 豚足は好きなのにと言われれば一言もなくなるのだが。

 鶏腸は痛みが早く食べられるまで奇麗に洗うのに手間がかかりすぎる。
 これは昔日本で牛や豚の内臓が捨てられていたのと同じだ。
 だが少し大型の鴨腸や鵞腸は、重慶の火鍋にはよく使われている。
 だから鶏腸はチョッと食べてみたい気もする。

 本当か嘘か、鶏冠はフランス料理によく使われていると聞いた事がある。
 もちろん中国料理には普通に使われている。
 だが鶏冠の刺身や炙りは遠慮したい。
 焼き鳥のように塩胡椒焼きやタレ焼きにした鶏冠は少しだけ興味がある。
 
 日本でも精力剤としてスッポンの生き血を飲む。
 結核の特効薬だと言って鯉の生き血を飲んでいた時代もある。
 沖縄にはチーイリチーと呼ばれる豚や山羊の血炒めがある。
 俺が魚の皮や目玉や内臓を食べる事は、他民族にはグロテスクかもしれない。
 だから繰り返しになるが大事な事なのでもう一度言う。
 他民族の食習慣に嘴を挟む気はない。
 だが俺の目の前で食べるのは止めて欲しい、石姫皇女。

 鶏をたくさん食べるとどうしても廃棄物が出てしまう。
 血は全部料理に使ったが羽と骨が問題だった。
 骨も羽の焼いて畑に撒こうかと考えていた。
 だが羽を焼くのは大反対されてしまった。

 毛布のあるこの村では鶏の羽根など不要なモノでしかない。
 だが貧しい者は羽毛布団やダウンジャケットに利用するそうだ。
 尊ばれて高価なのは水鳥の胸に生える綿のような毛なのだが、鶏の羽でも代用が利くというのだ。
 藁布団よりはずっと暖かく欲しがる者が多いという。
 雪解けしたら鶏羽を貧民に配ってもいいだろう。
 領主達と戦争にならなければの話だが。
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